画面のすみずみまで満ちる黄色の空気。けれどロンドン版ほど硬質に光らず、どこかやわらかな黄緑の気配が漂います。花の中心には赤や橙が小さく燃え、葉はところどころ緑が勝つ。
東京・SOMPO美術館の《十五輪》は、同系色で包み込む“黄の設計”を保ちながら、色調のゆらぎと筆触のスピードが生む“呼吸感”が魅力の一枚です。
【ひまわりシリーズ一覧解説記事】
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黄色まみれなのに、ちゃんと見えるの不思議。
“設計”が強いと、同系色でも立つんだよ。

《ひまわり》(15本)損保ジャパン
まずは簡単に作品の情報を紹介します。


東京で見られるの激アツ!
そうなんだよ!

制作背景|“黄色い家”を飾る計画の延長線

アルルでゴッホは、来訪予定のゴーギャンのために自宅(通称黄色い家)を《ひまわり》で飾る構想を進めます。1888年8月の集中制作ののち、気に入った構図を再度描く(または色調を変えて仕上げ直す)かたちで本作が生まれました。
「部屋を光で満たす」目的はそのままに、色味を一段やわらげたのが東京版の個性です。

目的が「飾る」だから、画面全体が“明るい場”になってるのか。
そう。用がある絵は設計が強いんだ。

構図|円と楕円、低い水平線
十五輪の円(花頭)が密に群れ、楕円(花瓶)が下で受け止めます。低い卓線が一本入ることで、花の塊が上に持ち上がり、視線は「上→中央→下→再び上」と循環します。
似た配置でも、花の向き・高さ・咲き具合に段差があり、単調にならないリズムが保たれます。

丸が多いのに、ちゃんと“メロディ”があるね。
置き方が音楽なんだよ、このシリーズは。

色と光|“黄の場”+“黄緑の空気”

背景・卓・花瓶まで黄の階調で統一しつつ、東京版はわずかに緑が寄る黄が広く回っています。
- 花頭:黄土~橙に、赤や褐色の差し色が点在
- 葉・茎:緑の含有量がやや高めで、黄に対する休符として機能
- 背景:ロンドンより黄緑寄りで、全体に柔らかな拡散光を感じさせます

黄一色の世界なのに、緑がふっと呼吸させてくれる。
その“休符”があるから、見飽きないんだ。

筆致と絵肌|スピード感のあるタッチ
花頭は短い放射状ストロークで“種のざらつき”を触覚化。花弁は厚塗り(インパスト)の盛りで反りを立ち上げます。
東京版は、ロンドンに比べストロークの走りがわずかに速く感じられ、色面の境界もところどころ“震える”。この微細なブレが、画面に体温を与えています。

近づくと手の動きが見える!
その“手触り”が絵の鼓動だね。

ロンドン/アムステルダム版との違い
- ロンドン(1888):黄の階調がクリアで硬質。コントラストが立ち、“光源”のような明るさ。
- 東京(1888末〜89初):全体に黄緑の気配が混ざり、やわらかな発光。赤の差し色が目に残る。
- アムステルダム(1889・再制作):構図は近いが、明度設計が整理され、縁の処理などに工学的な安定感。
見比べると、ロンドン=決定版の眩さ/東京=呼吸感のある黄/アムステルダム=整った完成度という三すくみが見えてきます。

三兄弟、それぞれ性格が違うのが最高。
同じ“十五輪”でも、空気の色とテンポで別物になるんだ。

よくある質問(FAQ)
Q. 東京版は再制作ですか?
A. 自筆のヴァージョンで、制作時期を1888年末〜89年初とする見解があります。いずれにせよ、ロンドン構図を踏まえつつ色調とタッチが異なる一点です。
Q. どこで見られますか?
A. SOMPO美術館(東京)。展示替えや貸出があるため、来館前に最新情報の確認をおすすめします。
Q. 署名はどこにありますか?
A. 花瓶の胴部に「Vincent」。視線の着地点として構図上も効くサインです。

サインが“人の気配”を残してくれてる気がする。
うん、静物に会話の体温が宿るんだ。

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まとめ
東京版《ひまわり(十五輪)》は、黄の場をやわらかく鳴らすヴァージョンです。ロンドンの強い“光源感”、アムステルダムの“整った完成度”と並べてこそ、黄緑の風とスピードの違いがくっきり浮かび上がります。
同じ題材を描き分けることで、ゴッホは色と時間の設計を磨き抜きました。東京でその呼吸を、ぜひ体で確かめてみてください。
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連作って、“同じで違う”のが最高に楽しい。
だから巡礼が終わらないんだよ、ひまわりは。
