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野菜の顔の絵画《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》を解説

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一見すると、色とりどりの果物と野菜が積み上がった奇妙な顔に見えるこの絵は、じつは神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世の正式な肖像画です。描いたのは、四季や四元素シリーズで知られる奇想の宮廷画家ジュゼッペ・アルチンボルド。作品名の《ウェルトゥムヌス》は、ローマ神話で季節と実りをつかさどる神の名前です。

顔のパーツひとつひとつが、ぶどうやリンゴ、トウモロコシ、カボチャ、小麦など、あらゆる季節の収穫物でできていることから、この絵はしばしば「ユーモラスな寄せ集めの肖像」として語られます。ですが、そこには皇帝の権力や、自然界さえ支配する存在としてのイメージ戦略が、かなり緻密に仕込まれています。

この記事では、アルチンボルドとルドルフ2世の関係から、《ウェルトゥムヌス》に込められた神話的・政治的メッセージ、そして作品の数奇な運命までを、スマホでも読みやすいボリュームでまとめてご紹介します。

ぬい
ぬい

ただのネタ絵じゃなくて、ガチの皇帝プロデュース肖像画ってところが最高だよね

わかる。ふざけてるようで、実は一番気を使ったイメージ戦略っていうギャップがいいんだよね

レゴッホ
レゴッホ
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《ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

作品名:ウェルトゥムヌス

作者:ジュゼッペ・アルチンボルド

制作年:1591年ごろ

技法:油彩/カンヴァス

サイズ:約70 × 58 cm

所蔵:スコークロステル城(スウェーデン)

モチーフ:果物・野菜・花などの収穫物で構成された、皇帝ルドルフ2世の擬人像。ローマ神ウェルトゥムヌス(季節と果樹園の神)に重ねられている。

ぬい
ぬい

サイズ見ると、意外とそんなに大きくないんだね。もっとドーンと巨大なのかと思ってた

でも情報量エグいから、実物見たら視界ぜんぶルドルフで埋まるタイプの絵だと思う

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

ジュゼッペ・アルチンボルドを解説!奇想と教養が詰まった宮廷画家

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アルチンボルドと皇帝ルドルフ2世|奇想を愛した宮廷の主

アルチンボルドは、16世紀後半のハプスブルク家で活躍した宮廷画家です。ルドルフ2世の父・マクシミリアン2世に仕えたのち、プラハを拠点とするルドルフ2世の宮廷でも長く働きました。皇帝は占星術や錬金術、博物学など「この世の不思議」に目がなく、珍品を集めたクンストカンマー(美術・博物・驚異の部屋)を築いたことで知られています。

そんな主君の趣味にぴったりハマったのが、果物や本、動物などのモチーフを寄せ集めて人の顔に見せるアルチンボルド独自のスタイルでした。四季シリーズや四元素シリーズなど、皇帝のために制作した奇想の肖像画は、宮廷の客人たちを楽しませると同時に、「ルドルフの宮廷には他にないアートが集まっている」という宣伝にもなりました。

晩年のアルチンボルドは一度イタリアに戻りますが、この《ウェルトゥムヌス》は、プラハの宮廷を去ったあとに改めて制作し、かつての主君への贈り物として届けられたと考えられています。

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ぬい
ぬい

皇帝がオタク気質だったから、アルチンボルドも全力で遊べたって感じだね

推しに刺さる作品を全力で作って、最後にド本命プレゼントを送るっていうの、ちょっとエモい関係だよね

レゴッホ
レゴッホ
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ウェルトゥムヌスとは誰か|季節と変身の神に重ねた皇帝像

作品タイトルの《ウェルトゥムヌス》は、ローマ神話に登場する神の名前です。ウェルトゥムヌスは季節の移り変わりや果樹園の実りを司り、さまざまな姿に変身できる存在として描かれます。

ルドルフ2世をこの神になぞらえることで、アルチンボルドは「皇帝の治世のもとで、四季を通じて豊かな実りが続く」「変化に満ちた世界を統べる恒常的な力」といったイメージを重ねました。

さらにウェルトゥムヌスは、ローマの誕生と深く結びつく神でもあります。神聖ローマ帝国の皇帝であるルドルフ2世をこの神に重ねることで、「古代ローマ以来の正統を継ぐ支配者」という自己イメージを強化する狙いもあったと解釈されています。

ぬい
ぬい

ただの季節の神ってだけじゃなくて、ローマの正統性まで背負わせてくるの、政治センス高すぎない?

ね。『俺は季節も歴史も支配してる』っていう、自己PR盛り盛りの神設定だよね

レゴッホ
レゴッホ
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顔のパーツをじっくり見る|四季の実りでできたルドルフ2世

近くで見ると、この肖像はほぼすべてが植物で構成されています。髪はぶどうの房や麦の穂、葉や実が渦を巻き、額には丸い瓜の断面が王冠のように据えられています。

頬には赤く艶やかなリンゴが並び、鼻は洋梨のような果実で形作られています。唇の部分には赤い小さな実が二つ並び、口ひげは穀物の穂や豆のさやがカーブを描いています。顎や顎ひげは穀類の穂が束ねられ、豊かな収穫を思わせるボリューム感です。

首もとはカボチャやウリ類が重なり、胸元には葉野菜や花がブローチのように飾られています。耳の部分に使われているトウモロコシは、当時「新大陸からもたらされた珍しい作物」として知られていたもので、ルドルフの宮廷が世界各地の珍品を集めていることをさりげなく示しているとされています。

注目したいのは、これらの植物が春夏秋冬すべての季節から選ばれている点です。春の花、夏の果物、秋の穀物、冬に保存される根菜や木の実が、ひとつの身体の中に共存しています。四季シリーズで培われたモチーフの語彙を総動員して、皇帝自体を「永遠の実り」として描き出しているのです。

ぬい
ぬい

パーツのチョイスがうますぎて、じっくり見てもちゃんと顔に見えるのがずるい

しかも全部おいしそうなんだよな……ルドルフの顔見てたらお腹すくって、なかなかないよね

レゴッホ
レゴッホ
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プロパガンダとしての《ウェルトゥムヌス》|自然も四季も支配する皇帝

アルチンボルドの同時代人の中には、この絵を「冗談めかした肖像」と受け止めた人もいたようですが、近年の研究ではかなり本格的な政治的メッセージが込められていることが指摘されています。

四季すべての収穫物で構成された皇帝像は、「皇帝の支配が世界の隅々にまで行き渡り、自然界の循環さえ調和させている」というメタファーとして読むことができます。ルドルフ2世は実際、オスマン帝国との対立の中で「キリスト教世界を守る皇帝」というイメージを必要としており、豊穣と秩序の象徴としての《ウェルトゥムヌス》はそのビジュアル版プロパガンダとも言えます。

また、新大陸由来の作物まで取り入れた構成は、皇帝のコレクションが地理的にも範囲を広げていることを示すサインでした。珍品や科学器具、標本を集めるクンストカンマーは、ルドルフの権力と好奇心の象徴であり、この肖像画もその延長線上にある「動くカタログ」のような役割を果たしていたと考えられます。

ぬい
ぬい

プロパガンダって聞くと堅そうだけど、ここまで振り切ってくれると逆に好感度上がるんだけど

ね。『俺は世界の果物と野菜全部持ってるぜ』みたいなドヤ顔を、ちゃんとアートに昇華してるのがすごい

レゴッホ
レゴッホ
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戦争とともに運ばれた名画|スウェーデンで再発見されるまで

《ウェルトゥムヌス》は、制作当時はプラハ城のコレクションに収められていましたが、17世紀半ばの三十年戦争で状況が一変します。ハプスブルクの宝物とともに、多くの作品がスウェーデン軍によって持ち去られ、その中にこの肖像も含まれていました。

その後、作品はスウェーデン王家の所蔵品を経て、やがてスコークロステル城のコレクションに入ります。ただし、いつどのような経緯でそこへ移ったのかは完全には分かっておらず、19世紀半ばになってからようやく美術史家たちの関心を集めるようになりました。

20世紀後半には保存状態の悪化が問題となり、独特の絵具層を傷つけないよう特殊な酵素を用いた修復が行われたことでも知られます。現在はスコークロステル城の目玉作品として展示され、アルチンボルド再評価の象徴的な一枚となっています。

ぬい
ぬい

戦利品として運ばれたおかげで、今はスウェーデンの城にいるっていうのも歴史の皮肉だよね

でもそのおかげで無事に残った可能性もあるし、作品の運命ってほんと読めないよね

レゴッホ
レゴッホ
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マニエリスムの極北としての《ウェルトゥムヌス》

アルチンボルドの「寄せ絵」スタイルは、16世紀後半のマニエリスム美術の文脈で語られることが多いです。マニエリスムは、ルネサンスの理想的な調和からあえて外れ、技巧や奇抜さ、複雑な象徴を前面に押し出す傾向がありました。《ウェルトゥムヌス》はまさにその極端な例で、写実的に描かれた果物や野菜が、あり得ない組み合わせで一つの顔に収束しています。

同時代の人々にとって、この肖像はパズルやなぞなぞのような知的遊戯でもありました。「ここは何の果物だろう」「どの季節の植物が使われているのか」といった観察を通じて、皇帝像の象徴性を読み解いていくプロセスそのものが、宮廷文化の洗練を示すエンターテインメントだったのです。

ぬい
ぬい

マニエリスムって難しそうな言葉だけど、『やりすぎ上等』みたいなノリって思うと一気に親しみ湧くね

そうそう。アルチンボルドはその中でも、“やりすぎ”をちゃんとコンセプトに結びつけたタイプって感じ

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。


まとめ

《ウェルトゥムヌス》は、奇妙でユーモラスな見た目とは裏腹に、皇帝の権威、ローマ神話の象徴、四季の循環、世界中から集めた珍品コレクションなど、ルドルフ2世の自己イメージがぎゅっと詰め込まれた、きわめて政治的な肖像画でした。

アルチンボルドは、写実的な静物画の技術とマニエリスム的な遊び心、そして宮廷のプロパガンダ需要を見事に掛け合わせ、時代を超えて記憶に残る一枚を生み出しました。現代の感覚で言うなら、皇帝の「世界観すべてを盛り込んだ究極のプロフィール画像」とも言えるかもしれません。

四季シリーズや四元素シリーズとセットで眺めると、ルドルフ2世の宮廷がいかに「自然界を支配し、分類し、コレクションしようとしたのか」も見えてきます。《ウェルトゥムヌス》は、その野心をもっとも派手な形で可視化した、アルチンボルド芸術の集大成なのです。

ぬい
ぬい

ルドルフ2世、現代にいたら絶対アイコンこれにしてるよね。しかも全部自前コレクションっていう自慢付きで

わかる。ヘッダー画像は四季シリーズで、固定ツイにはクンストカンマーの写真貼ってそう。推しが強火オタクだと、作品もここまでぶっ飛べるんだなって実感するね

レゴッホ
レゴッホ
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