ギリシャ神話における英雄ヘラクレスの「12の功業」の中でも、異彩を放つのが「アウゲイアスの家畜小屋の清掃」です。
何十年も掃除されず、汚物が山のように積もった巨大な牛舎。それをたった一日で片づけよ、という無茶な命令。
力自慢のヘラクレスが選んだのは、なんと川の流れを使って洗い流すという大胆な方法でした。
この記事では、ヘラクレスがこの課題をどう乗り越えたのか、王アウゲイアスとの関係やその後の展開まで、神話と美術の視点を交えてわかりやすく解説します。

第5の功業!
12の功業とは?

ヘラクレスが課された「12の功業」は、ギリシャ神話において最も有名な英雄譚の一つです。これは、かつて自身の過ちに対する贖罪として、ミュケナイ王エウリュステウスから命じられた12の難題を指します。いずれも並外れた力と知恵を必要とする試練であり、ヘラクレスはそれを一つひとつ乗り越えていきました。
その中の第五の試練が、「アウゲイアスの家畜小屋の清掃」です。

功業って言われると戦う系ばかりかと思いきや、こんな「掃除」みたいな試練があるの、ギリシャ神話らしくておもしろいよね!
試練の内容と背景
アウゲイアスはエーリス地方の王で、神々の加護を受けるほどの莫大な数の家畜を所有していました。その数は数千頭にものぼり、しかもそれらは何十年もの間、一度も小屋の掃除をされていなかったのです。結果として、家畜小屋は想像を絶するほど不衛生な状態になっていました。
このような家畜小屋を、たった1日で掃除せよというのが、ヘラクレスに課された試練でした。エウリュステウスとしては、暴力的な戦いを得意とするヘラクレスにとって、こうした「地味で不名誉な仕事」は屈辱的なものであり、達成はほぼ不可能だと考えていました。

数千頭の家畜が何十年分もフンをためてたとか……想像するだけでヤバすぎる。
これを一日で片付けるとか、正気じゃないよ!
ヘラクレスの機転と川の利用

ヘラクレスは、持ち前の怪力でひたすら掃除をする……という選択肢を取りませんでした。彼は、川の流れを利用するという機転を利かせます。
まず、アウゲイアスの家畜小屋に近い場所を流れるアルペイオス川とペーネイオス川の流れを変えるため、大地に大きな溝を掘ります。そして、両方の川を小屋の中に流し込むことで、たった1日で何十年分もの汚れを洗い流すことに成功したのです。
この方法は、ヘラクレスの知恵と実行力を同時に証明するエピソードでもあります。

川の流れを変えて掃除とか、スケールでかすぎ!
筋肉だけじゃなくて、ちゃんと頭も使ってるところがさすがだね。
試練は功業として認められなかった?
ところが、この試練はエウリュステウスによって正式な功業としてはカウントされませんでした。その理由は二つあります。
ひとつは、ヘラクレスがこの仕事に対して報酬(牛の一部)を要求し、アウゲイアス王と事前に報酬の約束を交わしていたこと。もうひとつは、力ではなく川を使ったため「自力で成し遂げていない」と判断されたことです。
この判断によって、後にヘラクレスは「追加で2つの試練」を課されることになります。つまり本来10個だったはずの功業が、最終的に12になった理由のひとつがこのエピソードなのです。

ちゃんと掃除したのに「自力じゃないからダメ」とか……ちょっと理不尽すぎない?
報酬の話もしてたって、王様がケチつけただけでしょー!
美術作品に見るアウゲイアスの家畜小屋清掃
このエピソードは、他の戦闘系の功業と比べて派手さに欠けるためか、美術作品としての描写はそれほど多くありません。ただし、いくつかの絵画では、ヘラクレスがスコップや棒を持ち、大きな溝を掘る様子、または川を導いている場面が描かれています。

戦いじゃなくて「掃除」をテーマにした美術って少ないけど、そんな中でもちゃんと描かれてるの見ると、やっぱりヘラクレスってスゴいよね。
豆知識:アウゲイアスのその後
実は、ヘラクレスはこの掃除のあと、アウゲイアス王との約束をめぐって争うことになります。約束していた報酬を王が支払わなかったため、ヘラクレスは後にアウゲイアスを討ち、エーリスの地に「オリンピア」を築いたという伝説も残っています。
ここで誕生した祭典が、のちに「オリンピック」として発展していくことになるのです。

家畜小屋の掃除が、まさかオリンピックにつながるなんて……
神話ってどこまでも話が広がってて面白いね!
おすすめ書籍
下記記事でギリシャ神話を学ぶ上でおすすめの書籍を紹介します。
・ギリシャ神話の本ランキング!初心者におすすめのわかりやすい5選!

リンク飛ぶのめんどくさい人向けにここでも紹介!
どちらもわかりやすくて初心者から上級者までおすすめの本です。
まとめ|ヘラクレスの知恵が光る「清掃の功業」
アウゲイアスの家畜小屋の清掃は、ヘラクレスの怪力ではなく知恵と工夫が試された特別な試練でした。
数十年分の汚れを、川の流れで一掃するという発想は、彼の柔軟な発想力と実行力を示すものです。
しかしこの功業は、王アウゲイアスとの信頼関係の崩壊という後味の悪い結果ももたらしました。
この経験が後に、彼の新たな冒険や敵対関係へとつながっていくのです。
肉体だけでなく知性も備えた英雄ヘラクレスの姿が際立つ、異色の試練。
「12の功業」の中でも、この清掃エピソードは、その奥深さとユニークさで際立っています。
【他の試練の記事】
・【ギリシャ神話】ヘラクレスの12の試練「ネメアの獅子討伐」を解説!
・ヘラクレスの12功業「ヒュドラ退治」を解説!毒は武器になる!?
・ヘラクレスとケリュネイアの鹿|神聖なアルテミスの聖獣を捕らえた静かなる功業を解説!
・エリュマントス山のイノシシ捕獲の試練!ヘラクレスの第四の功業をわかりやすく解説!
・ヘラクレスの12の功業解説!第6の試練ステュムパリデスの怪鳥退治編
・クレタ島の牡牛の捕獲|ヘラクレス第七の試練をわかりやすく解説
・ヘラクレスの第8の試練「ディオメデスの人喰い馬の捕獲」をわかりやすく解説
・ヘラクレス第9の試練とは?アマゾンの女王ヒッポリュテの腰帯をめぐる神話をやさしく解説
・ヘラクレス第10の試練とは?ゲリュオンの牛を奪う神話をわかりやすく解説!