「ゴルゴンって、メドゥーサのことじゃないの?」
……じつは、それ、半分正解で半分間違いです。
ギリシャ神話に登場する「ゴルゴン」とは、蛇の髪を持つ三姉妹、ステンノ・エウリュアレ・メドゥーサの総称。
そのうち有名なのが、ペルセウスに首を斬られた末妹メドゥーサですが、実は三姉妹それぞれに異なる性格や役割があり、神話における位置づけも少しずつ違っています。
この記事では、ゴルゴン三姉妹の違いや特徴、ペルセウスとの関係、美術作品での描かれ方までを、神話初心者にもわかりやすく解説していきます。

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ゴルゴンとは何か?

「ゴルゴン」とは、ギリシャ語の「gorgós(恐ろしい)」に由来する言葉で、見る者を石に変えるという恐ろしい能力を持つ怪物の総称です。
そしてその正体は、ステンノ(Sthenno)・エウリュアレ(Euryale)・メドゥーサ(Medusa)の三姉妹。
この三姉妹は、古代神話において「神々にとっての脅威」として描かれ、特にアテナの神話との関わりが深い存在です。
中でも有名なのが末妹メドゥーサ。彼女だけが人間的な美しさを持ち、そして唯一“死すべき存在”でもあります。
ゴルゴンたちは、最初期のギリシャ神話(ホメロス以前の神話)では完全に怪物として描かれていましたが、後世には「呪われた存在」「被害者」としてのイメージも生まれ、多面的な解釈がなされるようになっていきました。

「ゴルゴン=メドゥーサ」って思ってたけど、ほんとは三姉妹だったんだね!
名前も全然知らなかった……。ステンノとか、どんな性格なんだろう?
ゴルゴン三姉妹のプロフィール|それぞれの性格と特徴とは?
ゴルゴン三姉妹は、古代海の神フォルキスとその妻ケートーを両親に持つ海の怪物たちです。
三姉妹はそれぞれ異なる性格や能力を持ち、「恐ろしさ」の象徴でありながら、後世にはより人間味のある存在として描かれることもあります。
ここでは、それぞれのゴルゴンについて詳しく見ていきましょう。
ステンノ(Sthenno)|長女:最強で最も残虐な存在
三姉妹の長女であるステンノは、名の意味が「強い女者」。
不死であり、戦闘能力も高く、もっとも残虐で凶暴な性格とされています。
神話では直接的な活躍はあまり多く語られませんが、ペルセウスがメドゥーサを討つ場面で激しく怒り狂ったとも伝えられており、姉妹の中でも最も戦慄すべき存在とされていました。
エウリュアレ(Euryale)|次女:激情と悲しみを抱える存在
次女のエウリュアレは、「広く彷徨う」という意味を持つ名を持ちます。
彼女も不死で、ステンノに比べると凶暴性はやや抑えめ。ただし、感情が非常に豊かで、特に“泣き叫ぶ”性格として知られています。
ペルセウスによってメドゥーサが倒されたとき、エウリュアレの嘆き声は地を震わせるほどだったという記述もあり、ゴルゴンの中で最も「感情的な怪物」として知られています。
メドゥーサ(Medusa)|末妹:ただ一人“死すべき者”

三女メドゥーサは、ゴルゴン三姉妹の中で唯一不死ではない存在です。
彼女は元々、美しい女性だったと伝えられており、アテナの神殿でポセイドンに凌辱されたことで、アテナの怒りを買い、ゴルゴンの姿へと変えられたという説もあります。
見る者を石に変えるという能力を持ち、英雄ペルセウスによって首を斬られる運命にあるメドゥーサ。
その姿は古代から数多くの美術作品に描かれ、単なる怪物ではなく「呪われた美の象徴」としても受け止められています。
【関連記事】
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三姉妹って、それぞれぜんぜんキャラが違うんだね!
泣き虫エウリュアレとかちょっと可愛いけど、ステンノは怖すぎる……。
メドゥーサだけが死ぬ運命なの、ほんとに残酷だなあ。
なぜメドゥーサだけが死ぬのか?|神話の変遷と解釈の広がり
ゴルゴン三姉妹のうち、メドゥーサだけが“死すべき存在”であることは、ギリシャ神話の中でも特に謎めいた設定のひとつです。
ではなぜ、メドゥーサだけが死ぬ運命にあったのでしょうか?
その背景には、神話の変遷と後世の解釈の重なりがあります。
初期神話では“三姉妹すべてが怪物”
最初期の資料(例:ヘシオドス『神統記』)では、三姉妹すべてが不死の怪物として描かれ、特にメドゥーサが人間であったとはされていません。
この時点では、彼女たちは単なる恐怖の象徴であり、神々の力によって討たれる“外敵”として位置づけられていました。
後期の神話で「呪われた美女」像が登場

しかし後世になると、メドゥーサの出自や境遇に同情的な解釈が登場します。
特に有名なのが、アテナの神殿でポセイドンに襲われ、それを理由にアテナに呪われたという物語です。
このストーリーは、ローマ時代の詩人オウィディウスの『変身物語』に登場するもので、メドゥーサを「もともとは美しかったが、不運によって怪物に変えられた存在」として描いています。
この変化により、メドゥーサは単なる怪物から、「悲劇的な女性」としての側面を持ち始めました。
【関連記事】
・なぜアテナはメドゥーサを罰したのか?神話と美術で読み解く“正義”の本質
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“死”を与えられた意味とは?
神々と並ぶほどの力を持ちながら、死ぬことができる唯一の存在としてのメドゥーサ。
それは、彼女が「人間に近い存在」であることの象徴とも言えるかもしれません。
同時に、この“死すべき存在”という設定が、ペルセウスの英雄譚と深く結びつき、物語としての強いドラマ性を生んでいます。

最初はただの怪物だったのに、あとから「美しかった女性」って設定がついたんだね…。
時代によってイメージが変わるのって、人間の感情や価値観が神話に影響してるってことなのかも。
ペルセウスとの戦いとゴルゴンの首の力
ゴルゴン三姉妹の中でも、唯一“死すべき存在”だったメドゥーサ。
彼女は英雄ペルセウスによって討たれることとなりますが、この戦いにはギリシャ神話らしい神々の関与が色濃く表れています。
また、討たれた後のメドゥーサの「首」が持つ力も、神話の中で非常に重要な意味を持っています。
神々の加護を受けての討伐

ペルセウスは、王ポリュデクテスの無理難題に応える形で、メドゥーサ討伐に挑みます。
しかし、普通の人間ではゴルゴンに太刀打ちできません。そこで登場するのが、神々から与えられた道具の数々です。
- ハデスの隠れ兜(透明化)
- ヘルメスの翼のついたサンダル(空を飛ぶ)
- アテナの磨かれた盾(鏡として使用)
- ヘルメスの鋭い鎌(ハルペ)
- キビシス(首を入れる魔法の袋)
この装備でペルセウスは、直接メドゥーサを見ず、盾に映した姿を見ながら首を斬るという戦法を取ります。
首を斬った瞬間に生まれた命たち

メドゥーサが命を落とした瞬間、彼女の体から2つの存在が誕生しました。
- 天馬 ペガサス
- 巨人 クリュサオル
これは、メドゥーサがポセイドンと交わった結果、体内に宿していた子どもたちであり、彼女の死によって“神の子”が世界に解き放たれたという神話的象徴とも言われています。
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・ペガサスとクリュサオルとは?メドゥーサの死から生まれた神秘の兄弟を解説
首は死後も“石化の力”を持つ

驚くべきことに、斬り落とされたメドゥーサの首は死後も力を保っており、見た者を石に変える能力を失いません。
ペルセウスはこの首を利用して、敵を退けたり、王ポリュデクテスを石に変えたりといった数々の偉業を成し遂げます。
そして最終的に、その首は女神アテナに献上され、アテナの盾「アイギス」に飾られることになります。

倒された後も力を持ち続けるって、メドゥーサすごすぎる……。
ペガサスがあの瞬間に生まれたっていうのも神話っぽくて好き!
アテナの盾の中央にある顔がメドゥーサって思うと、なんかゾクっとするよね。
美術作品に描かれたゴルゴンたち|恐怖と美のはざまで
ギリシャ神話の怪物として知られるゴルゴン三姉妹は、古代から現代にかけて数多くの美術作品の題材となってきました。
とくにメドゥーサは、その劇的な物語性と象徴的なビジュアルから、時代を問わず多くの芸術家たちに愛されてきました。
ここでは、代表的な美術作品と、その中でのゴルゴンたちの描かれ方を紹介します。
カラヴァッジョ《メドゥーサの首》

バロックの巨匠カラヴァッジョによるこの作品は、盾に直接描かれた斬首直後のメドゥーサを表現しています。
血を流し、叫ぶその表情はリアルでありながらも、どこか神々しさを帯びており、「恐怖」と「美」が同居する不思議な作品です。
この絵はアテナの盾をイメージしており、観る者を威圧するような構図が印象的です。
ピーテル・パウル・ルーベンスとフランス・スナイデルス《メドゥーサの首》

こちらはフランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスとフランス・スナイデルスによるもの。斬られたメドゥーサの首からは、蛇たちがのたうち、さらに小さな怪物が湧き出しています。
異様なほど生々しい描写によって、「怪物としてのメドゥーサ」が前面に押し出された作品です。
古代の壺絵

実は古代ギリシャの壺絵などでも確認できます。
この時代はまだ“美しい呪われた女性”ではなく、完全に神々に討たれるべき存在としての怪物でした。
現代アートにおけるメドゥーサ
現代でもメドゥーサはアートやファッションのモチーフとして根強い人気があります。
ブランド「ヴェルサーチ」のロゴはメドゥーサの顔が使われており、「美しさに抗えず破滅する」という神話的意味をブランドアイコンに込めています。

美術の中のメドゥーサって、ほんとにいろんな顔をしてるんだね。
カラヴァッジョのやつとか、今見てもすごい迫力……!怖いけど、どこか惹かれるのわかるなあ。
ゴルゴンのモチーフとその後の影響|呪いから守護の象徴へ
ゴルゴンは、神話の中では恐怖の象徴である一方で、その姿は時代とともに“守護”や“警告”のシンボルへと変化していきました。
ここでは、ゴルゴンという存在が後世にどのような意味を持ち続けたのかを見ていきましょう。
古代ギリシャでの護符的役割

古代ギリシャの建築物や盾、壺などには、「ゴルゴネイオン」と呼ばれるメドゥーサの顔のモチーフが頻繁に用いられました。
これは、“邪悪なものを遠ざける力”を持つ護符として信じられていたためです。
建物の玄関や戦士の盾に描くことで、「この先に踏み込むと恐ろしいことが起きるぞ」と警告する意味合いもありました。
アテナの盾に宿る恐怖と威厳

ゴルゴンの首を捧げられた女神アテナは、それを盾「アイギス」の中心に掲げることで、自身の威光を高めます。
これによってアテナは、知恵と戦略だけでなく、“見ただけで敵を圧倒する女神”としてのイメージを確立します。
つまり、ゴルゴンは「破壊される怪物」であると同時に、「神の武器」として再利用される運命も背負っていたのです。
現代文化に残るメドゥーサの顔
現代でもメドゥーサは、アートやブランド、ファッション、映画など多様なかたちで登場します。
- ファッションブランド「ヴェルサーチ」のロゴ
- 映画『タイタンの戦い』『パーシー・ジャクソン』シリーズ
- 女性の怒りや力を象徴するフェミニズム文脈での再評価
ときに怪物、ときにヒロイン――メドゥーサはその“多面性”によって、時代を超えて生き続けている存在なのです。

「見る者を石に変える」って、ただの呪いじゃなかったんだね。
怖がられる存在から、守ってくれる存在に変わっていくなんて、神話のキャラって奥が深いなあ……!
おすすめ書籍
下記記事でギリシャ神話を学ぶ上でおすすめの書籍を紹介します。

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まとめ|ゴルゴン三姉妹は“恐怖”だけじゃない
ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹――ステンノ・エウリュアレ・メドゥーサ。
彼女たちは古代ではただの怪物として恐れられていましたが、時代が進むにつれてその意味合いは複雑になり、美術や現代文化にも大きな影響を与えてきました。
- ・ゴルゴンとは「恐ろしい者たち」を意味する三姉妹
- ・ステンノとエウリュアレは不死、メドゥーサだけが死すべき存在
- ・メドゥーサは後世、「呪われた美女」として再解釈される
- ・ペルセウスによって討たれ、その首はアテナの盾となる
- ・美術では「恐怖」と「美」の象徴として多面的に描かれる
- ・現代では“守護”や“女性の力”のシンボルとしても再評価されている
一言で「怪物」と片付けるにはもったいない、豊かな物語と象徴性をもつゴルゴンたち。
今後、美術館や神話に触れるとき、彼女たちの多層的な姿をぜひ思い出してみてくださ

いやー、ゴルゴンってめっちゃ奥が深いんだね!
ただの怖い存在じゃなくて、時代や人間の感情に合わせて意味が変わっていくところが面白い!
これから美術作品を見るとき、メドゥーサの顔にちょっとドキッとしちゃうかも……!