ギリシャ神話の英雄ペルセウスが、美しいアンドロメダを怪物から救い出す瞬間――その劇的な物語を、バロック絵画の巨匠ルーベンスが情熱的な筆致で描きました。
力強さと官能性、荘厳さと優雅さが共存する本作は、バロック美術の魅力を凝縮した1枚です。
この記事では、作品の構図や神話とのつながり、登場人物たちの表情に込められた意味まで、深掘りしていきます。

この主題の神話、面白いんだよね
作品概要

タイトル:アンドロメダを解放するペルセウス(Perseus frees Andromeda)
制作年:1620年-1622年
サイズ:99,7 × 139,6 cm
技法:油彩/板
所蔵先:絵画館(ベルリン)

わちゃわちゃしている
・ギリシャ神話の英雄ペルセウスが、怪物からアンドロメダを救い出す場面を描いた作品。
・力強い動きと劇的な構図が、バロック絵画らしい緊張感とドラマ性を生み出している。
・アンドロメダの美しさとペルセウスの英雄性が際立つ、ルーベンスの技術が光る名作。
バロック絵画の巨匠ルーベンスによるこの作品は、ギリシャ神話の英雄ペルセウスが怪物からアンドロメダを救う劇的な瞬間を描いています。ルーベンスらしいダイナミックな構図と豊かな色彩、そして人物たちの官能的な肉体表現が特徴の一作です。

ルーベンスの絵は見てると圧倒されるよね!
人も馬も天使もぜんぶ全力で描かれてる感じする〜!
主題の解説|ペルセウスとアンドロメダの神話

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この作品は、ギリシャ神話に登場する「ペルセウスとアンドロメダの物語」を主題としています。
神託を受けた王ケーペウスは、娘アンドロメダを海の怪物の生贄として差し出すことを決め、岩に縛り付けます。そこに、ゴルゴン退治の帰り道だった英雄ペルセウスが通りかかり、怪物を退治して彼女を救い出し、妻として迎えます。
ルーベンスはこの神話の中でも、「救出の瞬間」を選び、人物たちを力強く、生命感あふれるタッチで描いています。中世やルネサンス期に多く描かれたこのテーマを、ルーベンスはバロック的な熱量でよみがえらせました。
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ギリシャ神話ってほんとにドラマチックな話が多いよね!
これはまさに王道のヒーロー&プリンセスものだ〜!
登場人物と描かれ方の解説
この作品には、ギリシャ神話の有名な登場人物たちが、ルーベンスらしい肉感的で劇的な様式で描かれています。
ペルセウス

画面中央の筋肉質な男性がペルセウスです。英雄らしく鎧をまとい、左手にゴルゴン・メドゥーサの首が付いた盾アイギスを持っています。
この「メドゥーサの首」は石に変える力を持っており、ペルセウスはそれを使って怪物を退治したとされています。彼の身体の動きと表情からは、救出直後の緊張と達成感が伝わります。
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アンドロメダ

左側に立つ裸婦がアンドロメダです。かすかに手で身体を隠すポーズが、恥じらいと感謝を同時に表現しています。アンドロメダの肉体は柔らかく描かれており、彼女の無垢さと美しさが際立ちます。
ペガサス

右側にいる羽を持つ美しい馬は、英雄の乗り物ペガサス。実際にはメドゥーサの首から生まれるとされる存在で、ここでは神話の時系列を大胆にミックスして描かれています。ルーベンスはペガサスを、力強く神聖な存在として画面右で堂々と配置しています。
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天使(キューピッドたち)と女神

画面上部には、ペルセウスに月桂冠を授けようとする勝利の女神と、祝福のキューピッドたちが飛んでいます。この構図は、神話の英雄譚に天界からの加護を示唆しており、物語に荘厳なトーンを加えています。

アンドロメダもペルセウスも、ルーベンスが描くとめっちゃゴージャスになるね!
ペガサスもかっこよすぎ!
見どころ
肉体美と動きの躍動感

この作品では、ペルセウスの筋肉、アンドロメダのしなやかな体、そしてペガサスの力強い馬体など、すべてが極めて生々しく描かれています。ルーベンスの筆致は、静的な構図に生命を与えるようなダイナミズムに満ちており、まるで登場人物たちが今まさに動き出しそうな勢いを感じさせます。
メドゥーサの首のリアルな描写

ペルセウスが手にしているメドゥーサの首のついた盾は、単なる道具としてではなく、神話の力の象徴として強く描かれています。髪の毛には蛇が絡み、瞳には未だ石化の力が宿っているような迫力。観る者に威圧感すら与える緊張のアイコンです。
天界の介入と祝福のモチーフ

画面上部には、勝利の女神ニケと思われる存在が月桂冠を掲げ、キューピッドたちがペルセウスとアンドロメダの結ばれし未来を祝福しています。人間世界の英雄譚と、神々の意思が交差する構図は、バロックならではの壮麗な世界観を形作っています。
コントラストを強調する色彩と光
ルーベンスは、暗い背景と光が差す人物の肌の対比を用い、視線を自然にペルセウスとアンドロメダに誘導しています。赤、金、白といった色彩が画面にリズムを生み出し、荘厳な印象を深めています。

筋肉も愛も神々の演出もぜんぶ盛りで、絵なのに映画みたい!
目が忙しいけどずっと見ていられる!
豆知識|メドゥーサの首とペガサスはセット?

この作品には、ペルセウスが討ち取ったメドゥーサの首が、盾についた状態で描かれています。注目すべきは、そのすぐそばにいる有翼の馬ペガサス。ギリシャ神話では、メドゥーサが命を落とした瞬間にペガサスがその首から誕生したとされており、メドゥーサとペガサスは切っても切れない関係にあります。

ルーベンスはこの神話的な背景を巧みに取り入れ、ペルセウスがメドゥーサの首とともに戦利品のように盾に掲げ、そばにはペガサスを従えているという“神話の続編”のような構図に仕上げています。これは神話知識が豊富な観客へのサービス精神とも言え、ルーベンスの教養と遊び心が光る一面です。
また、ペルセウスの鎧や兜、アンドロメダの髪型や宝飾品など、細部にわたってルーベンスの時代の様式が反映されており、古代神話を17世紀の視覚文化で再解釈した好例ともいえるでしょう。
まとめ|ルーベンスが描いた英雄譚の到達点
ルーベンスの《アンドロメダを解放するペルセウス》は、ギリシャ神話のクライマックスをドラマティックに描いた名画です。愛と救済、神々の贈り物、勝利の祝福といった要素が、バロック絵画ならではの動き・光・情熱に満ちた筆致で描かれ、観る者を壮大な神話の世界へと引き込みます。
アンドロメダの恥じらいやペルセウスの英雄的な構え、メドゥーサの首、ペガサスの登場など、1枚の絵に濃密な神話の要素が凝縮されています。さらに、画面を埋め尽くすキューピッドたちや女神のような天使など、神話には登場しないルーベンス独自の演出も見逃せません。
この作品を通して、ルーベンスが単なる英雄像を描くだけでなく、人間の感情の豊かさ、肉体の美しさ、神話の奥深さを統合した視覚叙事詩を完成させたことがわかります。古典を現代に語り直す力、それこそがこの絵の真の価値でしょう。