同じ構図でも、一度描き切ってからもう一度描くと、絵は別の表情になります。フィラデルフィア版は、1888年に生まれたミュンヘン版の“ライブ感”を受け止め、テンポと明度のバランスを整えたリテイク。背景の青緑が澄み、花弁の輪郭がわずかにおだやかになり、画面全体に落ち着いた呼吸が広がります。
この記事では、制作の事情から色と構図の仕組み、ミュンヘン版との違いを一気に整理します。
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黄色まみれなのに、ちゃんと見えるの不思議。
“設計”が強いと、同系色でも立つんだよ。

《ひまわり》(12本)フィラデルフィア
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:ひまわり(十二輪) Sunflowers
制作:1889年1月|アルル(ミュンヘン版1888の再制作)
技法・サイズ:油彩/カンヴァス、約 92 × 73 cm(30号前後)
所蔵:フィラデルフィア美術館
識別のヒント:背景が青〜青緑、花瓶の胴に赤系で“Vincent”の署名、右下のうなだれる花が効きどころ

青い空気+右下のうなだれ=フィリーって覚えとく。
ナイス。サインの位置も一緒にチェックだ。

背景|“黄色い家”の連作、その再設計

ゴッホはアルルで、来訪予定のゴーギャンを迎えるため部屋を《ひまわり》で飾る計画を立て、1888年8月に一気に連作を制作しました。翌1889年1月、気に入った構図を同サイズで再制作。フィラデルフィア版はその一本で、勢いの整理と明度の最適化が主要テーマです。

目的が“飾る”だから、画面全体が光の設計図なんだね。
そう。リピートは“最良の明るさ”を探す行為でもある。

構図|円と楕円の“旋回”を、安定させる

十二の円(花頭)が右上から左下へ大きな渦を描き、楕円(花瓶)が下で安定を与えます。右上の張りのある二輪が視線の起点、中央の重い花頭群が重心、右下のうなだれる花が終止符。
ミュンヘン版より、輪郭と配置の隙間(呼吸)がわずかに広く、視線がスムーズに巡回します。

回遊性が高いから、見てて疲れない。
渋滞がないんだよね、視線の。

色と光|寒色背景×黄金色の“押し出し”、透明度アップ
背景は淡い青〜青緑。補色関係にある黄〜橙の花が、前へふっと浮き出る設計です。
フィラデルフィア版は、ミュンヘンより背景が澄み、黄の階調がきめ細かく整理されています。黒に頼らず、明度差と色相差だけで立体を作るゴッホのやり方が、いっそうクリアに。

同じ対比でも、こっちの方が“澄んだ押し出し”だね。
うむ。にごりが少ない分、黄がきれいに鳴る。

筆致と絵肌|“触覚”はそのまま、テンポは整える

花頭の中心は放射状の短いストロークで、種のざらつきまで触覚的に見せます。花弁の縁(キワ)はインパスト(厚塗り)で立ち上げ、葉や茎は方向性のある線でリズムをつける。
ミュンヘンの“勢い”に対して、フィラデルフィアはストロークの間合いが少し整い、見通しの良さが増しています。

近づくとちゃんと“手仕事”の熱はある。
熱は残して、テンポだけ整えた感じだね。

ミュンヘン版との違い

- 背景:ミュンヘン=やや青緑が強め/フィラデルフィア=澄んだ青寄りで透明感
- テンポ:ミュンヘン=勢い、フィラデルフィア=整理と見通し
- 色階調:フィラデルフィアは黄の中間域が丁寧で、画面の落ち着きが上がる

ライブ盤(ミュンヘン)とスタジオ再録(フィリー)!
それ、いちばん伝わる例えだと思う。

よくある質問(FAQ)
Q. これは“コピー”ですか?
A. ゴッホ自身による同サイズの再制作です。単なる複写ではなく、明度・テンポの最適化を伴う“別テイク”。
Q. どこで見られますか?
A. フィラデルフィア美術館に所蔵されています(展示替え・貸出の可能性があります)。
Q. なぜ枯れかけの花が混ざるの?
A. ひとつの花瓶に時間の層を同居させるため。生・盛り・衰えを並置して、画面に物語を生みます。

時間を一枚に閉じ込めるって、何度聞いても痺れる。
静物だけど“時間画”なんだよ、ひまわりは。

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まとめ
《ひまわり(十二輪)フィラデルフィア》は、寒色背景で押し出す型の洗練版です。ミュンヘン版の勢いを愛おしみつつ、こちらの整えられた明度と透明度を味わうと、《ひまわり》という連作の幅が一段と深まります。
ロンドンや東京の十五輪(黄背景)を見る前後に挟むと、対比で押す/同系色で包むの違いが鮮明になります。
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