こんにちは!
今回は、バロック美術の巨匠カラヴァッジョが描いた名作『キリストの埋葬』をじっくり解説します。
この作品は2025/4/13-2025/10/13に開催される「大阪・関西万博」のバチカン館で見ることが出来ます。
バロック絵画の最高峰にして、普段はバチカン美術館に厳重に保管される門外不出の名画です。

見に行ける人は是非見に行ってもらいたい作品です!
作品詳細:カラヴァッジョ『キリストの埋葬』

基本データ
項目 | 内容 |
---|---|
作品名 | キリストの埋葬(The Entombment of Christ) |
作者 | ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio) |
制作年 | 1603年 – 1604年 |
技法 | 油彩・カンヴァス(Oil on canvas) |
サイズ | 約300 cm × 203 cm |
所蔵 | ヴァチカン美術館(Pinacoteca Vaticana) |
制作背景
この作品は、ローマのオラトリオ会(聖フィリッポ・ネリ創設)による依頼で制作されました。
オラトリオ会は、当時「信仰をわかりやすく、心に響く形で伝える」ことを目指していたため、
カラヴァッジョのリアルで感情的な作風はぴったりだったのです。
カラヴァッジョは、聖書の記述をベースにしつつ、登場人物やシーンを再構成。
宗教的荘厳さよりも、人間の感情と現実の重みに焦点を当てました。
技法・素材
カンヴァス(麻布)に油彩。
この当時、教会の壁画はフレスコ(壁に直接絵を描く)も多かったのですが、移動可能なカンヴァス画にすることで、保存や展示の自由度が増しました。
下地は暗いトーンで、上から明るい部分を重ねるカラヴァッジョ独自のレイヤー技法が使われています。
光源は一方向(画面左上)から当たる想定で描かれ、全体に強烈な明暗のコントラストがつけられています。

カラヴァッジョは、モデルに実在の市民や友人を使うことが多く、この作品でも「生活の中の人間らしさ」が感じられます!
構図と象徴性
画面下部に広がる墓石(石板)は、絵の内部と観る者の空間をつなぐ象徴的な役割を持っています。
人物配置は斜め下方向への流れを持ち、イエスの遺体の重みを強調。
さらに、マリア・クリオパスの上向きのジェスチャーが「救い」「復活」への希望を示唆しています。
通常の「キリストの降架(十字架から下ろす場面)」や「ピエタ(死体を抱く聖母)」とは異なり、「埋葬そのもの」に焦点を当てた構図になっているのが特徴です。
この作品の美術史的意義
カラヴァッジョはこの作品で、バロック美術における「ドラマティックなリアリズム」の基礎を築きました。
その後、レンブラント、リベラ、ラ・トゥールなど、多くの画家たちに直接的な影響を与えます。
また、19世紀リアリズム運動や現代の視覚表現にも、彼の方法論(リアルな身体表現+心理描写)は間接的に受け継がれています。
ぬいの旅のしおり ~鑑賞前に知っておきたいこと

カラヴァッジョの『キリストの埋葬』を鑑賞する前に知っておくとより楽しめる情報を伝えるね!
カラヴァッジョとは?

・1571年イタリア・ロンバルディア地方生まれ。
・本名はミケランジェロ・メリージ。
・「現実そのままを描く」革命的なスタイルを確立。
・ドラマティックな明暗法(キアロスクーロ)を使い、バロック美術を切り開いた。
バロック時代とは?
・1600年頃に始まったヨーロッパの芸術運動。
・感情を激しく揺さぶる表現、光と影のコントラスト、観る者を巻き込む構図が特徴。

『夜警』とか『真珠の耳飾の少女』が有名だよ!


この絵はどこに?
・ローマのオラトリオ会(祈りと奉仕を重んじた修道会)が依頼。
・最初はサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会に飾られたが、現在はヴァチカン美術館所蔵。
・2025/4/13-2025/10/13では大阪・関西万博のバチカン館で見ることが出来きる。

日本で見られる大チャンス!
『キリストの埋葬』 絵画の物語とコンセプト
この作品が描くのは、キリストが十字架で亡くなったあと、墓へ運ばれる場面です。
聖書では、ニコデモとアリマタヤのヨセフがイエスを葬ったと記録されています(ヨハネ福音書19章)。
しかしカラヴァッジョは、あえてアリマタヤのヨセフを省略し、5人の人物+イエスだけでこの場面を描きました。
これは単なる簡略化ではありません。
登場人物を絞り、感情を凝縮させ、観る者が「悲しみ」と「人間性」に集中できるようにした、極めて意図的な選択なのです。
また、亡くなった1人のイエス、それを支える2人の男性、背後で悲しむ3人の女性という構図にするためにも登場人物を絞ったともいわれています。

人がいっぱいいると、ごちゃごちゃしちゃうもんね。
絵の構成・登場人物
ここでは『キリストの埋葬』の構成や描かれている人物について解説します。
イエス・キリスト

・生気を失った重たい肉体。
・腰から足にかけて自然に落ちる体重表現がリアル。
・ 傷跡や血のにじみもあえて隠さず描かれている。
カラヴァッジョは、理想化された「神の子」ではなく、苦しみを経た「人間のイエス」を描こうとしました。

確かに神様らしさは無いね。
ニコデモ

・足元を持つ老人。
・カラヴァッジョ自身の顔がモデルと言われる。
・ 彼の腰のかがめ方、腕に入る力、表情の疲労感までリアル。

ニコデモは画面手前に大きく描かれており、彼の身体の向きは観る者を絵の中へ導く役割も持っています。
ヨハネ

・若く静かな弟子。
・イエスの上半身を支え、表情は穏やかだが目には涙が光る。

カラヴァッジョは、「悲しみの爆発」ではなく、耐え忍ぶ愛をヨハネに託しています。
聖母マリア

・ 理想美ではなく、年老いた母の姿。
・やや下を向き、口を閉じ、静かに悲しみをたたえる。

こんなに年老いた聖母マリアって珍しくない?
マグダラのマリア

・手を組み、顔を隠し、内にこもる悲しみを表す。
・ 彼女だけがイエスの方を向いていないのが特徴。

マリア2人目
クレオパのマリア

・両手を広げて天を仰ぐ。
・古代から続く「哀悼のポーズ」を力強く取り入れている。
・この手の動きは視線を上方へ導き、イエスの死が単なる終わりでないこと、救済の希望を暗示している。

女性陣みんなマリアなのね!!!
カラヴァッジョの革新ポイントをさらに深掘り!
大胆な明暗コントラスト(キアロスクーロ)
背景を完全な闇とし、イエスと抱える人々のみ光で浮かび上がらせています。
この手法で、絵に強烈な三次元感覚と心理的な緊迫感を与えました。

手前にせり出す構図
- 墓の蓋石は、画面の境界を超えてこちらへ飛び出して見えます。
- これにより観る者もこの埋葬に立ち会う感覚に巻き込まれます(バロック特有の空間突破表現)。

宗教画におけるリアリズムの刷新
当時の宗教画は「神聖な美」を求めたのに対し、カラヴァッジョは人間の痛み・肉体の脆さを直視しました。
これにより、絵が単なる礼拝用のイメージではなく、人間存在そのものを問い直す場になったのです。
ぬいの鑑賞コーナー

ぬいがこの作品をみて感じたことを書いていくね!
この絵は、すごく静かに描かれてるのに、観るだけで心の中に、大きなうねりみたいな感情が生まれました。
それは、悲しみとか痛みだけじゃなくて、「人を思う力ってすごいな」っていう、じんわりしたもの。
カラヴァッジョは、光と影だけで「絶望の中にも生きる力がある」って教えてくれてるんだと思います。
① 手の仕草で、それぞれの感情を読む!
② 光が誰に、どう当たっているか追いかけよう!
③ 石板の位置と自分の立ち位置を意識して「巻き込まれ体験」しよう
ぬいの「もしも冒険」コーナー

もしも、ぬいがカラヴァッジョ『キリストの埋葬』の中に入ったら。
もしも、ぬいが石板の上に立ったら、ニコデモと一緒にイエスを支える手を貸しているかも。
重たくて、切なくて、それでも力を込めて。
もしかしたら、マリア・クリオパスと一緒に空を見上げながら、「希望って、こんな暗闇の中からでも生まれるんだね」って祈っていたかもしれないな。
ちょこっとクイズコーナー!
Q.《キリストの埋葬》でイエスの遺体を支える若い弟子は誰?
① ペテロ
② ヨハネ
③ パウロ
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正解:② ヨハネ!

この若い聖ヨハネは、静かな愛と忠誠心を象徴しているんだよ!
お薦めの本
ここで、当サイトでも参考にしている、美術を学ぶ上でおすすめの本を紹介します。
まとめ 生と死、そして光の絵
カラヴァッジョの《キリストの埋葬》は、ただの宗教画ではありません。
それは、苦しみを認め、弱さを抱きしめそれでも前に進もうとする、そんな生きる力の絵です。
関西万博やヴァチカン美術館を訪れたら、ぜひこの絵の前で、静かに、でも心いっぱいに向き合ってみてくださいね。