ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
その初期の作品『ワイングラスを持つ娘』では、にこやかな社交のひと場面に見せかけて、
その奥に緊張感や駆け引きの気配をたくみに描いています。
本記事では、『ワイングラスを持つ娘』を初心者にもわかりやすく解説。
構図や登場人物のしぐさ、背景に隠された寓意を読み解きながら、
フェルメールがこの絵に込めた繊細なドラマを一緒に探っていきましょう。

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作品基本情報

タイトル:ワイングラスを持つ娘(Girl with a Wine Glass)
制作年:1658年頃
サイズ:77.5cm×66.7cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:ヘルツォーク・アントン・ウルリッヒ美術館所蔵(ドイツ・ブラウンシュヴァイク)

にこにこしてるけど…
ほんとに楽しいのかな?
・明るい室内でワイングラスを持つ若い女性を描いた作品。
・楽しい社交の裏に、駆け引きや意味深な視線が漂う。
・フェルメールらしい光の表現と細やかな心理描写が見どころ。
作品概要|フェルメールが描いた“社交”のワンシーン

『ワイングラスを持つ娘』は、フェルメールがまだ20代後半の頃に描いた、
男女のやりとりをテーマにした初期の室内画のひとつです。
ワイングラスを手に笑顔を浮かべる若い女性と、その隣で彼女を見つめる男性。
背景にはもう一人の人物も。見た目には和やかな光景ですが、
細かく観察すると、場の緊張や駆け引きの気配が感じられます。
どこを見たら面白い?|視線・構図・小道具の読み取り
女性の視線

女性はグラスを手にしながらも、どこか視線をそらしているようにも見えます。
これは「快く応じている」より、「警戒や戸惑いを含んだ笑顔」なのかもしれません。
男性の位置と表情
男性は女性に身を乗り出し、積極的な態度を見せています。
この配置によって、画面の中に主導権をめぐる力のバランスが生まれています。
テーブルの小物たち

テーブルの上には果物、器などが並び、
当時これらは「誘惑」や「恋愛の暗示」を含むモチーフとされていました。

果物とか、意味があるなんて知らなかったよ…!
フェルメールらしさ|沈黙の中の心理劇
この作品でも、フェルメールはセリフのないドラマを得意とする画家らしく、
登場人物たちの内面を、光・構図・表情のわずかな動きで語っています。
柔らかい自然光

左の窓から入る光が、人物やテーブルをやさしく照らし、
空気の層すら感じさせるフェルメール特有の光の演出が楽しめます。
色彩の計算
赤、金、白、青といった色彩が画面に調和をもたらし、
社交の華やかさと個々の孤独を同時に際立たせています。
豆知識|この絵に登場する“もうひとつの登場人物”

背後の壁に掛けられたステンドグラスには理性(Temperantia)を象徴する女性像が描かれています。
これは、節度と自制を促す寓意であり、絵の中でのやりとりに「注意深くあれ」という視点を加えています。
つまりフェルメールは、ただの恋の場面ではなく、
理性と感情のせめぎ合いというテーマを、この絵にこっそり仕込んでいたのです。

『紳士とワインを飲む女』と同じ!?
まとめ|笑顔に隠された、静かなかけひき
『ワイングラスを持つ娘』は、
にこやかに見える空間の中に、恋・駆け引き・社会的なルールといった複雑な人間関係をしのばせた作品です。
フェルメールは、派手な演出ではなく、
沈黙・視線・光といった繊細な要素で物語を紡ぐ名人。
本作はその技術が育ちつつある初期の重要作といえるでしょう。
あなたもぜひ、この絵の中の空気を感じ取りながら、
登場人物たちの“本当の気持ち”を想像してみてください。