ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
ヨハネス・フェルメールといえば、『真珠の耳飾りの少女』や静かな室内画で知られる画家ですが、
その中には「これは本当に本人が描いたのか?」と議論されてきた作品も存在します。
その代表が『フルートを持つ女(A Lady Holding a Flute)』です。
優雅に楽器を持つ女性、穏やかな構図、そしてやわらかい光――
一見するとフェルメールらしい一枚に見えますが、構図の不自然さや人物の描写などから、
近年では「工房作」「弟子による模倣作」とする説が有力になっています。
この記事では、この作品の構成や特徴を丁寧に読み解きながら、
“なぜ真作かどうかがこれほどまでに議論されてきたのか”という謎にも迫っていきます。

たしかに似てるけど…
この感じ、“フェルメールっぽい”って言ったほうが合ってるかも…!」
作品基本情報

タイトル:フルートを持つ女(A Lady Holding a Flute)
制作年:1665〜1670年頃
サイズ:20.2 cm × 17.8 cm(小品)
技法:油彩/板
所蔵先:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(アメリカ・ワシントンD.C.)

この絵、小さいけど“この人どんな人?”ってずっと見ちゃう感じがある…
・小さなフルートを持った女性が、控えめな姿勢でこちらを見つめる作品。
・やや粗い筆致や表現から、フェルメールの工房作または未完成作とも言われる。
・それでも光の扱いや静かな雰囲気に、フェルメールらしい魅力がにじむ。
作品概要|“フェルメールの作”とされるが真作かは不確定

『フルートを持つ女』は、長らくフェルメール作とされてきましたが、
現在では工房作(フェルメールの弟子や近い関係者による作品)とする見方が強くなっています。
2022年に行われたナショナル・ギャラリー・オブ・アートによる調査では、
「フェルメール本人が直接描いた可能性は低い」とされ、真作とは断定されていません。
とはいえ、技法・主題・構図にフェルメール風の要素が多く見られることから、
「フェルメールのスタイルを反映した工房作」として貴重な研究対象になっています。
見どころ|構図・主題・不自然さ
フルートと音楽の寓意

楽器を手にする女性は『リュートを調弦する女』等、フェルメール作品にしばしば登場し恋愛や調和、教育などの寓意を持つことが多い。
本作でもその文脈は引き継がれていると考えられます。
不自然なポーズと表情

一部の美術史家は、女性の視線やポーズにぎこちなさがあると指摘しており、これが「真作ではない」とされる理由の一つです。
顔料・技法の違い
顔料分析では、フェルメールがよく使用したラピスラズリや鉛白の使用が認められた一方で、
筆遣いや層の作り方にフェルメール本人の典型的手法とは異なる部分が見られました。

顔料分析とか駆使すると色々なことがわかるんだね。
豆知識|なぜ“真作かどうか”が重要なのか?
フェルメールは現存作がわずか37点前後しかなく、
そのすべてが精緻に技術分析・保存管理されているため、1点の真贋が大きな意味を持ちます。
『フルートを持つ女』はその中でも、真贋が最も疑問視されている作品のひとつ。
近年のX線・赤外線・化学顔料分析により、「工房作」の可能性が高まっています。
ただし、“フェルメール風”を学ぶ弟子や模倣画家のレベルも非常に高かったため、完全な否定はされていません。

なるほど
フェルメールらしさと“らしくなさ”の間で
らしさ:主題、衣装、室内光
女性像・楽器・構図など、フェルメールが好んだ要素が盛り込まれています。
らしくなさ:人物表現の硬さ、色調の濁り
一方で、フェルメールが得意とした柔らかな肌の描写や光の透明感がやや欠けており、これが真贋判断の根拠の一つとなっています。

フェルメールに直接聞きたい!
まとめ|フェルメールをめぐる問いを描いた作品
『フルートを持つ女』は、フェルメールの作品群に含まれるものの中で、最も真贋が問われている一枚です。
しかしその問い自体が、フェルメールとは何かを探るヒントにもなっています。
この絵を通じて浮かび上がるのは、フェルメールという画家の特異性、
そしてその技術と感性がどれほど精緻に構成されていたかという事実です。
真作か、工房作か――
いずれにしても、17世紀オランダ絵画の世界を知る上で、この作品は価値ある手がかりを提供してくれます。