祝宴の最中、突如現れた“浮かぶ文字”が、王とその宮廷を恐怖に包み込む――。
レンブラントの《ベルシャザルの饗宴》は、旧約聖書に登場するバビロン王ベルシャザルの最期を描いた、バロックの名作です。
黄金の器、豪奢な衣装、驚愕の表情、そして神の警告が光の文字として現れるその一瞬。
本記事では、この劇的な構図の意味と背景を、レンブラントならではの光と心理描写の技術とともにわかりやすく解説します。

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作品基本情報

タイトル:ベルシャザルの饗宴(Belshazzar’s Feast)
制作年:1635年から1638年の間
サイズ:167.6 × 209.2 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:ナショナル・ギャラリー(ロンドン)

物語の一場面って感じ!
・旧約聖書の「ダニエル書」に登場する王の傲慢と神の裁きを描いた作品です。
・壁に浮かぶ謎の文字と、恐怖に満ちたベルシャザル王の表情が、劇的な瞬間を印象づけます。
・緻密な質感描写と光の操作が、神秘と緊張を画面に満ちあふれさせています。
主題と背景|旧約聖書ダニエル書の一場面
この作品の主題は、旧約聖書「ダニエル書」第5章に描かれたバビロン王ベルシャザルの最期の場面です。
王ベルシャザルは父ネブカドネザルがエルサレム神殿から略奪した聖なる器で酒盛りを開き、異教の神々をたたえました。
その冒涜行為に対し、神は裁きを下すべく、宴の最中に謎の「手」が現れ、壁にヘブライ語で裁きの言葉を記します。
その文字はこう書かれていました:
「メネ、メネ、テケル、ウ・パルシン」
―― あなたの王国は量られ、終わりが来た
この文字の意味を解読できたのは、預言者ダニエルのみ。
この夜、ベルシャザルは命を落とし、バビロンは陥落することとなります。
見どころ①|“神の手”が浮かび上がる神秘の瞬間
本作最大の見どころは、右上に出現する謎の手と光る文字です。

黒い背景から浮かび上がるように描かれた手が、神の裁きを象徴。
発光するヘブライ語の文字が、画面全体を照らし、ベルシャザルの視線と観る者の目を導きます。
この超自然現象の演出は、レンブラントのバロック的演出力を象徴する要素です。

絵の中に“音”が聞こえそう。あの手が動いた瞬間の、空気のざわつきまで伝わってくる…!
見どころ②|ベルシャザルの“恐怖の表情”

王ベルシャザルの顔は、この作品の感情の核です。
・驚愕と恐怖に見開かれた目
・背後にのけ反り、腕を突き出す身振り
・豪華な衣装とは対照的な、無力さと混乱がにじみ出るポーズ
この一瞬に込められた演技的な動きは、レンブラントがイタリア絵画から得たカラヴァッジョ的影響とも言われます。
見どころ③|質感の描写と光の操作
レンブラントはこの作品において、金属、宝石、織物などの質感描写に細心の技を注いでいます。

- 王の豪奢な金刺繍のローブやターバン
- 銀器や金器の重厚な描き込み
- 女性のパールや髪飾り、衣装の絹の輝き
そして、これらが一斉に神の文字の光に照らされているという構成が、
この絵に神秘性と一体感を与えています。
見どころ④|レンブラントのユダヤ文化への関心

レンブラントはアムステルダムのユダヤ人地区に住み、多くのユダヤ人学者と交流していました。
この作品で描かれているヘブライ語の文字や衣装、風貌には、そうした文化的背景の影響が見られます。
文字は実際にヘブライ語で書かれ(右から縦書き)
一説にはレンブラント自身がラビに助言を求めて描いたとも伝えられます。
豆知識|実は“読めない文字”だった?
ベルシャザルとその家臣たちは、文字を読めなかったと聖書に記されています。
それは、「右から縦に並んだ単語」だったため、当時の人々には意味が取れなかったという説があります。
ダニエルがそれを並び替え、解読したことで、“神の裁きが読まれた”のです。
まとめ|“描かれた文字”が物語を支配する絵画
レンブラントの《ベルシャザルの饗宴》は、旧約の一場面を、キアロスクーロを用いて劇的かつ心理的に表現したバロックの名作です。
文字が光り、神の存在が顕れた瞬間に、王の権力も宴の騒ぎもすべて凍りつきます。
この作品は単なる歴史画ではなく、目に見えないもの(神、運命、罪)を視覚化した絵画として、
今日においても強い衝撃とインパクトを与え続けています。

王様って、なんでも手に入れられると思ってたのに…“文字”ひとつで、すべてが終わるなんて…こわいけど、目が離せないよ…
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