フィンセント・ファン・ゴッホがパリで過ごした1886〜1888年は、わずか2年ながらその画風を根本から変えた激動の期間です。
オランダで暗い農民画を描いていた画家が、なぜこれほど短期間で鮮やかな色彩の画家に変貌できたのか。その背景には、印象派や新印象派の画家たちとの出会い、日本美術との衝撃的な遭遇、そして兄テオとの生活がありました。本記事では、パリ時代の出来事や人間関係、制作の変化、代表作を時系列で詳しく解説します。
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ここからが“色彩革命”の本番ってわけだね。
そう、この時期がなかったら《ひまわり》も《星月夜》も生まれなかったはずだよ

パリ移住の経緯と兄テオとの同居

1885年末、ヌエネン時代の集大成《ジャガイモを食べる人々》を描いたゴッホは、さらに技術を磨くためにアントワープへ渡ります。そこで美術学校に入学しますが、アカデミックな指導方針になじめず、健康も悪化。1886年2月、予告もなく兄テオが暮らすパリに現れます。
テオは画商として印象派や新進気鋭の画家を扱っており、フィンセントをパリの美術界に自然と引き合わせました。同居生活は、画材費や生活費の援助だけでなく、芸術情報や人脈の提供という面でも非常に重要でした。

兄弟仲が良かったっていうより、テオが相当献身的だった感じだね。
そう。彼の支えなしにパリ時代のゴッホは成立しなかったよ。

芸術界の中心・モンマルトルでの生活

パリでゴッホが拠点としたのはモンマルトル地区。ここはカフェや画廊が集まり、画家たちが交流する文化の中心地でした。モンマルトルの丘からは街を一望でき、風車や庭園、路地などのモチーフも豊富でした。
ゴッホはこの地で数多くの風景画を描き、《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》などが生まれます。これらは印象派的な軽やかな筆致と、色彩の明るさが顕著に見られる初期の例です。
印象派・新印象派との出会いと影響
テオを通じて、ゴッホは印象派の巨匠モネやルノワール、ピサロ、ドガの作品を間近で鑑賞します。彼らの明るい色彩と光の表現に衝撃を受け、陰影を黒で描く従来の方法をやめ、補色や明度差を活用する技法を試み始めます。
さらに、新印象派のスーラやシニャックと交流し、色を分割して置く「点描」の理論を学びます。完全な点描画は少ないものの、その理論は筆致の短いストロークや色の並置に応用され、のちのアルル時代の背景処理や空の描写に活きました。

理論も吸収してたんだね。
そう。感覚派と思われがちだけど、ゴッホはすごく勉強熱心だった。

日本美術(浮世絵)との出会い

1880年代のパリはジャポニスム全盛期。モンマルトルの画材店や古物商には、歌川広重や葛飾北斎の浮世絵が安価で売られていました。ゴッホはこれに魅了され、大量に購入して壁に飾ります。
彼は《梅の開花(広重模写)》など、直接的な模写を行いながら、平面的な色面構成や力強い輪郭線を自分の作品に取り込みました。背景の省略や構図の大胆さは、後の《ひまわり》や《アイリス》にも通じています。
代表作品と作風の変化
《タンギー爺さん》(1887年)

画材商ジュリアン・タンギーを描いた肖像画。背景いっぱいに浮世絵が貼られており、鮮やかな色彩と異国趣味が融合しています。
《ムーラン・ド・ラ・ギャレット》(1886年)

モンマルトルの風車を描いた風景画で、印象派的な光の表現と軽快な筆致が特徴。
《おいらん(栄泉を模して)》(1887年)

日本の浮世絵師・渓斎英泉の花魁図を模写した作品。大きく平面的な色面と太い輪郭線、装飾的な背景パターンが特徴で、ジャポニスムへの傾倒がよく表れています。背景にはカエルやクモといったユーモラスなモチーフも描き込まれ、ゴッホ流のアレンジが加わっています。

この時期の作品って、暗い農民画と並べるとびっくりするくらい違うね。
でもモチーフへの真剣さは変わらなかったんだよ。

パリ時代の課題と疲弊
刺激的な都会生活は創作に大きな影響を与えましたが、ゴッホにとっては精神的にも体力的にも負担でした。過密な社交、画家同士の競争、そして健康の悪化。1888年初め、彼は静かな環境と新しい光を求めて南仏アルルへ移住します。
アルル編もお楽しみに。

パリ時代が残したもの
- ・色彩の明るさと補色の活用
- ・筆致の多様化と自由化
- ・日本美術からの構図・装飾性
- ・アルル時代の創造爆発の下地

日本が影響を与えているのなんか誇らしいね。
日本は日本で西洋からの影響受けていたのも面白いよな。

豆知識
- ゴッホはパリで200点以上の油彩画を制作
- 浮世絵は1枚数フランで入手可能だったため、50枚以上収集
- テオの部屋には常に最新の印象派作品が飾られていた
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まとめ
パリ時代(1886〜1888年)は、ゴッホが色彩を手に入れ、世界を新しい視点で描き始めた転換期です。印象派・新印象派の画家たち、そして日本美術との出会いが、短期間での画風の進化を可能にしました。この経験がなければ、アルルやサン=レミでの名作群は生まれなかったでしょう。
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短期間でも、環境が変わると人はここまで変われるんだね。
まさに“変化のための2年間”だったんだ。
