机(あるいは床)の上に、ごろりと横たわる二つのひまわり。
左は緑が沈み、右は黄が熱を帯び、背景の赤・橙・黄の短いストロークが渦のように回転します。
1887年夏、パリで描かれたこの《ひまわり》は、翌年アルルで爆発する「花瓶のひまわり」連作の直前に生まれた、重要な助走の一枚です。
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花瓶じゃなくて、切り取った“頭”をどんと置いてるのが新鮮。
だよね。生と熟し、黄色と緑、コントラストが直球で来る。

《ひまわり》(1887)
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:ひまわり(英題例 Sunflowers/しばしば “Two Cut Sunflowers” と呼ばれる図)
制作:1887年夏、パリ
技法:油彩/カンヴァス
主題:切り取られた二つのひまわりの花頭(種子盤と総苞片を強調)
所蔵:ベルン美術館(スイス・ベルン)
備考:同年夏に手がけられた“ひまわり”の作品群の一つと位置づけられます

この年だけで複数点、試してるんだね。
うん、色と構図の実験を重ねて、翌年の連作につないでる。

1887年パリの《ひまわり》とは|アルル連作の前夜
この絵は、のちにアルルで描かれる花瓶の《ひまわり》の“予告編”のような存在です。
パリ時代に身につけた高明度のパレットを、花そのものにぶつけ、黄と緑、赤と橙の補色に近い組み合わせで画面の温度を一気に上げています。
主役を花の“顔”(種子盤)に絞り込むことで、誇張のないリアルさと象徴性を同時に手に入れました。

アルルの眩しい黄色の前に、もう火種が見えてる感じ。
そう、ここで燃料をため込んでるんだ。

構図の大胆さ|花瓶を外し、二輪を水平に置く
画面は思い切った近接トリミングで、二つの花頭が水平に転がるように配置されています。
ステム(茎)は斜めに走り、総苞のとげとげしい縁が強い輪郭をつくります。
人物も器物も排して、重さ・手触り・成熟だけを見せる潔さが、花の“生命の時間”を際立たせています。

背景が少ないから、花の重量感がダイレクトだね。
うん、構図の引き算で“密度”を前に押し出してる。

色と筆触|補色の衝突で熱を上げる
背景は赤・橙・黄の短いストロークが幾層にも重なり、光の振動をつくります。
左の花は緑が深く、右は黄が優勢。互いに補い合う色同士をぶつけることで、画面の中で温度差のドラマが生まれます。
黒で影を作らず、色を混ぜ切らずに置く分割的な筆致が、油絵具そのものの明るさを保っています。

粒が踊ってるのに、花の重みは失われないのがすごい。
筆触が“躍り”、インパストが“重さ”を受け止めてるんだ。

下に隠れた別の絵──科学調査が明かした“もう一つの層”
制作から一世紀ほど後、科学的な撮像調査によって、この《ひまわり》の下に別の人物像が描かれていることが判明しました。
帽子をかぶり、青い衣服を着た人物で、外見の特徴からゴッホ自身ではないと推測されています。
もとは縦長のキャンバスにその人物を描き、のちにキャンバスを横向きに変えてひまわりで上書きした可能性が高いとみられます。
絵具の厚い塗り重ねのため、現在でもところどころに下層の痕跡が肉眼でうっすら感じ取れる箇所があります。

キャンバスを回して、上から“ひまわり”で覆ったってこと?
そう。素材を無駄にしないし、下の絵のリズムが少し残ってるのも面白い。

絵肌とマチエール|種の重みをインパストで掴む
種子盤の盛り上がりは、厚塗り(インパスト)と筆圧の変化で彫り出されています。
総苞片の鋭さは暗色の輪郭で切り、背景の斜めストロークが断熱材のように熱を蓄える。
触覚に近い絵肌が、乾いた花の匂いまで想像させてくれます。

見てると、種を指でなぞりたくなる。
わかる。触りたくなる絵肌は、ゴッホの“説得力”そのものだよね。

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まとめ|“二輪の顔”が告げる、連作の出発点
この《ひまわり》は、花瓶の連作へ向かう直前に、色と構図とマチエールを一気に詰め込んだ要点集です。
花の顔を真正面から見据え、補色の衝突で温度を上げ、厚い絵肌で種の重量を刻む。
アルルの大輪に心が飛ぶ方こそ、パリのこの一枚に潜む“はじまりの熱”を確かめていただきたいと思います。

有名連作の“前章”って知ると、見え方が変わるね。
だよね。完成形の前にある試行錯誤こそ、いちばん面白い。

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