にわか雨が斜めに走り、橋の上の人々が身を縮めて足早に渡っていきます。
画面の周囲には緑と朱の縁取り、そこに装飾的な文字列。平面の木版画だったはずの情景が、油絵の厚みで立ち上がってくる──それがゴッホの《雨の大橋(歌川広重による)》です。
元になったのは、歌川広重の《名所江戸百景・大はしあたけの夕立》。構図はほぼ忠実に踏襲しつつ、波や雨脚、橋脚の木組みにまで絵具を盛り、質感そのものを見せ場にしています。
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雨の線が全部、絵具の“筋”になってて気持ちいい。
だよね。紙の版画を、手で触れそうな油絵に変換してるんだ。

ゴッホ《雨の大橋(歌川広重による)》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:雨の大橋(歌川広重による)
制作年・場所:1886–1887年、パリ
技法・サイズ:油彩/カンヴァス、約73×54cm
所蔵:ゴッホ美術館(アムステルダム)
出典モチーフ:歌川広重《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》
備考:ゴッホが油彩で拡大・翻案した“浮世絵の模写”の代表作(三点現存するうちの一つ)

模写っていっても、ただのコピーじゃないね。
うん、“油絵にする”っていう別ジャンルの仕事なんだ。

広重の構図を尊重しつつ、厚みで更新する
画面の大枠は広重と同じです。弧を描く大橋、雨を裂くような斜線、対岸の青い帯。
ただしゴッホは、木版のフラットさをそのままにせず、厚塗り(インパスト)で波を起こし、橋脚に陰影を刻みます。雨脚も細い線を重ねて絵具の“筋”に変え、平面の韻律を触覚的なリズムへと引き上げています。

版画の“平ら”を、油絵の“盛り”に置き換えてるんだ。
そう、素材が変われば、感じ方も変わる。その違いを楽しんでる。

縁取りと文字──装飾としての“漢字”への憧れ
画面を囲む緑と朱の枠は、浮世絵の見当や彫りの余白を思わせる装飾的な額縁です。
そこに配された漢字の列は正確な転写というより、書のリズムを借りた意匠として配置されています。パリでジャポニスムが熱を帯びる時期、ゴッホは文字そのものの姿形に魅了され、画面の“縁”を異国のリズムで締めました。

読める/読めないより、線のカッコよさを選んでる感じ。
うん、意味より“かたち”で効かせるのがデザインなんだ。

色彩の翻案──空と川の青、橋の黄、雨の灰青
広重の清澄な配色を踏まえつつ、ゴッホは黄の橋を強く押し出し、周囲の青や緑との補色関係で輝かせます。
空と川は青の階調をずらし、雨の帯には灰青を混ぜることで、夕立の冷たさを視覚化。黒に頼らず色で沈めるやり方は、同時期のパリで身につけた分割的な筆触とつながっています。

黄色い橋が、雨の中で逆にあったかく見える。
補色がぶつかると、温度差まで見えてくるんだよ。

“三つのジャポネズリ”の一角として
ゴッホが油彩で拡大・翻案した浮世絵は、代表的なものが三作知られています。

ゴッホ《梅の花(広重による)》を解説!ジャポニスムを油彩で増幅した実験作

ゴッホの《おいらん(英泉による)》完全解説!黄色の画面に花魁が躍る
《梅の花(広重による)》、渦を巻く水面と扇形の構図《花魁(英泉による)》、そして本作《雨の大橋》。
いずれも単なる複製ではなく、油絵の物質感・明度・サイズを通して、パリの観客にも届く“日本趣味の新しいかたち”を提示しました。

まとめて見ると、ゴッホの“日本”がはっきり見えるね。
でしょ。尊敬と実験を、同じキャンバスでやってるんだ。

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まとめ──紙の詩情を、絵肌の現実に
《雨の大橋(歌川広重による)》は、平面の詩情を失わずに、油絵の現実感へ橋渡しした一枚です。
構図は忠実に、質感は大胆に。縁取りと文字で“日本”の余韻をまとわせ、雨の冷たさは色の温度差で示す。
ゴッホがパリで見出した新しい言語が、ここで確かな形になっています。

版画から油絵へ、まさに“橋”の仕事だったね。
うん、広重の雨に、自分の絵肌という屋根をかけたんだ。

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