スポンサーリンク

パオロ・ウッチェロ《サン・ロマーノの戦い》を解説!ルネサンスの戦闘画

アフィリエイト広告を利用しています。
初期ルネサンス
スポンサーリンク

画面いっぱいに馬と兵士がひしめき合い、折れた槍と倒れた騎士が散らばる。パオロ・ウッチェロの《サン・ロマーノの戦い》は、静かな宗教画が多い初期ルネサンスの中で、ひときわ異彩を放つ戦闘シーンです。

描かれているのは1432年、フィレンツェ軍とシエナ軍が激突したサン・ロマーノの戦いの一場面で、中央の白馬に乗るニッコロ・マウルーツィ・ダ・トレンティーノが敵将ベルナルディーノ・デッラ・チャルダを馬から突き落とす瞬間がクライマックスになっています。

一見するとごちゃごちゃして何が起きているのかわかりにくいのですが、地面に散らばる槍や武具は一本一本が遠近法のガイドラインのように計算されていて、画面の奥へと視線を誘導します。ウッチェロが幾何学的な構図に夢中になっていたことを物語る一枚です。

ぬい
ぬい

初めて見ると“カオス!”ってなるけど、よく見ると全部きっちり並んでるんだよね。

そうそう。戦場っていうより、遠近法の実験場って感じがしてくるのがウッチェロっぽいわ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

《サン・ロマーノの戦い》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

・作者:パオロ・ウッチェロ(Paolo Uccello/1397年頃〜1475年)
・制作年:1430年代後半〜1440年代頃と考えられている
・技法:板に卵テンペラ(一部に油も使用)、銀箔・金箔による装飾
・サイズ:約182×320cmの大型パネル
・主題:1432年6月1日に行われたサン・ロマーノの戦いにおける、フィレンツェ軍の将ニッコロ・ダ・トレンティーノが敵将ベルナルディーノ・デッラ・チャルダを落馬させる場面
・三連作:ロンドン(ナショナル・ギャラリー)、フィレンツェ(ウフィツィ)、パリ(ルーヴル)の三館に分かれている《サン・ロマーノの戦い》連作のうち、ウフィツィ・バージョンとされるパネル

このウフィツィのパネルは三連作の中で唯一署名が確認されており、構図の中心性から「もともと中央に掛けられていたのではないか」と考えられています。

ぬい
ぬい

横3メートルって、実際に見ると壁一面が戦場って感じだろうね。

家の寝室にこれ掛けたメディチ家、だいぶ攻めてるよな。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

パオロ・ウッチェロを解説!遠近法に取り憑かれた初期ルネサンスの画家

スポンサーリンク

サン・ロマーノの戦いとは何か|フィレンツェとシエナの因縁

作品の舞台となったサン・ロマーノの戦いは、1432年に現在のピサ近郊で起きた実際の戦闘です。フィレンツェ共和国軍を率いたのが傭兵隊長ニッコロ・ダ・トレンティーノ、対するシエナ側にはミラノ軍も加わっていました。

この時期のトスカーナでは、沿岸都市ピサの支配権や、各都市国家の勢力拡大をめぐって小競り合いが絶えませんでした。サン・ロマーノの戦いもその一つで、結果としてフィレンツェ側が優勢だったとされますが、シエナ側の記録では「勝利」と書かれているものもあり、解釈の余地が残る戦いです。

いずれにせよ、この戦いはフィレンツェにとって「宿敵シエナに対する勝ち戦」として記憶され、のちに絵画によって豪華に祝われました。ウッチェロの三連作は、フィレンツェの有力商人バルトリーニ・サリムベーニ家の一員が、1440年前後に自邸の装飾として注文したものと考えられています。

ぬい
ぬい

歴史書的には“微妙な勝ち”でも、絵にすると完全勝利ムードなのが人間らしいね。

だな。負けたかもなんて家のサロンの壁に描かないよね、そりゃ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

パオロ・ウッチェロと遠近法への「甘い誘惑」

パオロ・ウッチェロは、初期ルネサンスの中でもとくに遠近法へのこだわりが強かった画家として知られています。同時代の伝記作者ヴァザーリによれば、ウッチェロは妻から「早く寝なさい」と言われても、夜通し机に向かい、消失点の研究に没頭していたと言われます。

彼が口にしたと伝えられる言葉「なんて甘美なものなんだ、この遠近法は」は、ほとんど決め台詞のように引用されます。数学的な思考と絵画を結びつけ、平面のパネルの中に奥行きと秩序を作り出すことこそ、ウッチェロの情熱の的でした。

《サン・ロマーノの戦い》でも、その研究成果が存分に発揮されています。槍や旗、落馬した馬の足、倒れた兵士の身体、さらには前景の果物や武具までもが、画面奥に向かって整然と並ぶように配置され、地面に見えない方眼紙が敷かれているかのようです。

ぬい
ぬい

“甘美な遠近法”にハマってるウッチェロを想像すると、ちょっとかわいい。

でもそのオタク気質のおかげで、こんなカオスなのにちゃんと整理された戦場が生まれたと思うと侮れないよな。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

ウフィツィ版《サン・ロマーノの戦い》の場面解説

このウフィツィ所蔵のパネルは、三連作の中でも最も激しい接近戦が描かれている場面です。中央の白馬に跨るのがフィレンツェ軍の指揮官ニッコロ・ダ・トレンティーノで、青い手綱と鎧を身につけています。その槍が敵将ベルナルディーノ・デッラ・チャルダの馬に命中し、敵は落馬寸前、あるいはすでに地面に投げ出されています。

画面下部には倒れた馬や騎士が横たわり、その間を折れた槍や剣が斜めに走っています。これらの直線は、単に戦闘の激しさを表すだけでなく、透視図法の補助線のように画面奥へ向かって収束するよう意識されています。

一方、背景の丘や畑は、実際の地形というよりも、舞台装置のように段々と積み重なっています。丘の斜面を駆け上がる兵士や、逃げるウサギ・鹿などの小さなモチーフが散りばめられ、戦場でありながらどこか寓話的な雰囲気も漂います。

ぬい
ぬい

真ん中の白馬、完全に“主役です”ってオーラ出してるね。

しかも地面の槍が全部、白馬のあたりに向かってるから、視線が勝手にそこに吸い寄せられるのがニクい。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

色彩とディテールに見るゴシックとルネサンスのミックス

《サン・ロマーノの戦い》は、遠近法の実験であると同時に、装飾性の高い「飾り絵」としての側面も持っています。馬たちは黄色や赤、白など鮮やかな色で塗り分けられ、鎧には元々銀箔が貼られていました。現在は酸化して黒っぽくなっていますが、制作当時は光を反射してきらきらと輝いていたと考えられています。

画面右側には、槍の束の間から真っ赤なユリのような花が伸び、まるで戦場を飾る舞台装飾のようです。また、兵士の鎧や馬具には細かな文様や金具が描き込まれており、現実の戦闘というよりも、祝祭のパレードを連想させます。この「童話のようなゴシック的装飾」と「数学的なルネサンス遠近法」同居している点こそ、ウッチェロならではの個性です。

現代の私たちには少し暗く見えますが、これは顔料の変化や保存状態によるもので、当時はもっと鮮やかな色彩だったと考えられます。大広間の壁に掛けられ、蝋燭や窓からの光を受けてきらびやかに輝いていた姿を想像すると、現在の印象とはまた違った迫力が浮かび上がってきます。

ぬい
ぬい

たしかに、今のくすんだ色合いも渋くてかっこいいけど、当時のキラッキラ版も見てみたい。

銀箔ピカピカの鎧で想像すると、戦場っていうよりゲームのボス戦ステージみたいだよな。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

三連作としての《サン・ロマーノの戦い》とメディチ家

サンロマーノの戦い①
サンロマーノの戦い③

《サン・ロマーノの戦い》は本来一枚ではなく、三つのパネルからなる連作として構想されていました。ロンドンのナショナル・ギャラリーにある「ニッコロ・ダ・トレンティーノ率いるフィレンツェ軍」、ウフィツィのこの作品、そしてルーヴル美術館にある「ミケレット・ダ・コティニョーラの反撃」が、ひとつのセットを成しています。

現在もっとも広く受け入れられている並び順は、ロンドンのパネルが戦いの開始、ウフィツィのパネルが敵将を打ち破るクライマックス、ルーヴルのパネルが同盟軍の到着と決定的反撃の場面というものです。三枚はそれぞれ夜明け、正午、夕暮れの時間帯を暗示しているという説もあります。

もともとこの連作は、フィレンツェのバルトリーニ・サリムベーニ家の邸宅を飾っていましたが、15世紀後半になると、メディチ家当主ロレンツォ・デ・メディチがどうしても欲しくなり、一枚を購入し、残り二枚は半ば強引に自家の宮殿へ移させたと伝えられています。それほどまでに、この戦場絵は当時のエリート層を惹きつける存在だったのです。

ぬい
ぬい

ロレンツォが“欲しすぎて持って帰っちゃった絵”って聞くと、説得力ある名作感あるね。

三枚バラバラになっちゃったのは寂しいけど、そのおかげで今はいろんな都市で見られると思うと複雑だな。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

ウッチェロの他作品とのつながり|《聖ゲオルギウスと竜》への橋渡し

パオロ・ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》を解説!ドラゴン退治の絵

ウッチェロは《サン・ロマーノの戦い》以外にも、《聖ゲオルギウスと竜》や《ジョン・ホークウッド騎馬像》など、騎士や馬を主役にした作品を多く残しています。

《聖ゲオルギウスと竜》では、騎士とドラゴン、洞窟と姫君が、ほとんど舞台セットのような幾何学的空間の中に配置されており、《サン・ロマーノの戦い》の戦場がよりファンタジックになったような世界観が見て取れます。鋭い線で区切られた地面や、パターン化された草むらなど、遠近法と装飾性を両立させる工夫が共通しています。

フィレンツェ大聖堂の壁に描かれた《ジョン・ホークウッド騎馬像》や、同じく騎馬像として構想された《ニッコロ・ダ・トレンティーノ騎馬像》では、ウッチェロはモノクロームに近い色調で、台座や馬の姿を遠近法に基づいて厳密に描いています。それに比べると《サン・ロマーノの戦い》は、同じ騎士ものでもずっと色彩豊かで、物語性と装飾性が強いことがわかります。

ぬい
ぬい

ドラゴン退治の絵と並べて考えると、“戦場リアル版”と“おとぎ話版”みたいな関係に見えてくるね。

そうそう。どっちも“遠近法で遊びまくりたい欲”がにじみ出てるのが、ウッチェロらしくていい。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ|遠近法とファンタジーが出会った戦場の名画

パオロ・ウッチェロの《サン・ロマーノの戦い》は、フィレンツェ軍の勝利をたたえる歴史画でありながら、同時に遠近法の実験とゴシック風の装飾を融合させた、非常に個性的な作品です。

画面の下に転がる槍や武具は、幾何学的に配置された線となって空間を構成し、中央の白馬に乗るニッコロ・ダ・トレンティーノへと視線を導きます。一方で、鮮やかな馬の色や花、背景の狩猟風景は、現実の戦争というよりも、どこか夢の中の戦場のようなイメージを生み出しています。

三連作として他の二枚と合わせて考えると、戦いの始まりから終わりまでをドラマチックに見せる巨大なパノラマであり、メディチ家をはじめとする当時のエリートが「自分たちの勝利の物語」を部屋いっぱいに飾りたくなる気持ちも理解できます。

もしフィレンツェのウフィツィ美術館を訪れる機会があれば、ぜひこのパネルの前で少し時間をかけて眺めてみてください。最初は混沌として見えた戦場の中に、ウッチェロの几帳面な遠近法と、ちょっと不思議なファンタジー感覚が、じわじわと浮かび上がってくるはずです。

ぬい
ぬい

戦争画なのに、見れば見るほど“ウッチェロの頭の中の方眼紙”が見えてくるのがおもしろいね。

うん。“血なまぐさいリアル”じゃなくて、“遠近法とデザインで組み立てた戦場”ってところが、この絵の唯一無二さなんだろうな。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました