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ラファエロの《小椅子の聖母》を解説!丸い画面に詰まった親密な聖母像

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イタリア・ルネサンス
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ラファエロがローマで活躍していた円熟期に描いた《小椅子の聖母》は、数ある聖母子像の中でも「いちばん人間味のあるマリア」として愛されてきた作品です。
丸い画面の中で、マリアは幼子イエスをぎゅっと抱き寄せ、その腕の中にすっぽりと包み込んでいます。横には幼い洗礼者ヨハネがひざまずき、手を合わせてイエスを見つめています。

三人を取り巻く背景は、金や宝石で飾られた天上ではなく、遠くに丘や町並みが見える穏やかな田園風景です。聖なる物語でありながら、どこか日常の一場面を眺めているような親近感があるのが、この絵の大きな魅力です。

ラファエロが得意とした「調和」と「優美さ」はもちろん、たっぷりとした赤や緑の衣、ふっくらした子どもの体つきなど、視線を向けるたびに新しい発見がある作品でもあります。

ぬい
ぬい

なんか教会の絵というより、写真みたいな家族スナップに見えてくるね。

わかる。神さまの家族なんだけど、距離感がすごく近いから、こっちも一緒に座ってる気分になる。

レゴッホ
レゴッホ
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《小椅子の聖母》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

・作者:ラファエロ・サンツィオ
・制作年:1513〜1514年ごろ
・技法:板に油彩
・サイズ:約71cmの円形(トンド)
・所蔵:ピッティ宮殿 パラティーナ美術館(フィレンツェ)

「小椅子の聖母」というタイトルは、マリアが椅子に腰かけている姿からつけられました。もともとは個人の礼拝用として制作されたと考えられていて、礼拝堂の大壁画とは違い、かなり近い距離でじっくり眺めることを想定したスケール感になっています。

ぬい
ぬい

直径70センチくらいって、思ったより小さいね。

そうそう。大画面じゃない分、手に取るような親密さが出てるんだと思う。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

ラファエロ・サンティを解説!代表作《アテネの学堂》と聖母子像の魅力

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円形のトンドに収まる三人の関係性

この作品でまず印象に残るのは、画面が円形であることです。ヨーロッパでは、こうした円形の聖母子像を「トンド(円形画)」と呼び、家庭用の信心具として人気がありました。

円形という制約の中で、ラファエロは三人の体を渦巻きのように配置しています。
マリアの上半身と頭の傾き、腕の輪、イエスの丸い体と脚のライン、そして右側に置かれたヨハネの視線と手の動き。それらが一つの円運動を作り出し、見る者の視線を自然とマリアの顔とイエスの表情へと導きます。

マリアの体は、画面の中でやや斜めにねじれています。赤い上着の肩から腕へと流れるラインと、青いマントのボリュームによって、彼女自身が「生きた額縁」のようになり、イエスの体を包み込むクッションの役割を果たしています。

一方、幼いヨハネは、手を合わせて祈りながら二人を見上げています。彼の体は円の縁に沿うように置かれていて、トンドという形そのものが、三人の結びつきと信仰の輪を象徴しているようにも見えます。

ぬい
ぬい

三人がぎゅっと固まってるのに、窮屈に見えないのすごい。

動きが全部くるっと円を描いてるからだね。構図の設計図がめちゃくちゃ緻密なんだろうな。

レゴッホ
レゴッホ
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衣装と色彩に表れる「日常」と「聖性」のバランス

《小椅子の聖母》では、色彩の使い方にもラファエロらしさがよく表れています。
マリアの赤い上衣は愛と犠牲、青いマントは天と信仰を象徴する伝統的な組み合わせです。しかし、その赤と青は強烈なコントラストではなく、柔らかい光に包まれて、落ち着いた色調にまとめられています。

さらに目を引くのが、マリアの肩にかかったストールや袖口の刺繍の細かさです。柄の入り方や布の重なり方は、当時のイタリアの裕福な家庭の衣服を思わせるもので、聖母でありながら「現実にこういう人が町を歩いていそうだ」と感じさせるリアリティがあります。

幼子イエスの黄色の服は、温かい光を集めるように画面の中心で輝き、ふっくらした腕や脚に柔らかい影を落としています。その肌の描写は、宗教画というより、愛情を込めて子どもを見つめている親の視線そのものです。

ヨハネの着ている地味な青緑の衣は、彼がやがて荒野で活動する預言者になることを予感させる、慎ましい雰囲気をまとっています。三人の衣装の差が、役割と性格の違いを静かに語っています。

ぬい
ぬい

マリアの服、普通にオシャレなんだけど。

だよね。聖書の世界なんだけど、ラファエロの時代のフィレンツェかローマで見かけそうなセンスが混ざってる。

レゴッホ
レゴッホ
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視線が交差するドラマ:母としての不安と未来への予感

この絵のドラマは、三人の視線の交差にあります。
マリアは、こちらを見るようでいて、少しだけ視線を落とし気味にしています。イエスを抱きしめる腕には、守ろうとする強さと、不安をこらえる緊張が同時に感じられます。

イエスは、見る者の方をまっすぐ見つめています。幼児らしい丸い顔ですが、その目には驚くほどの落ち着きがあり、どこか「自分の行く末を知っている」ような静かな覚悟が読み取れます。

ヨハネは、手を合わせてイエスを見つめることで、彼がやがて「神の子を指し示す預言者」になることを暗示しています。三人の視線は一つの三角形を作り、未来の受難と救いの物語を、言葉ではなく視線のやりとりだけで示しています。

こうした心理の重なりが、家庭的で優しい雰囲気と同時に、どこか切なさのある聖母像を生み出しています。鑑賞者は、ただかわいらしい親子を見ているつもりが、いつのまにか「この先に起こる十字架の物語」まで想像させられてしまうのです。

ぬい
ぬい

マリアの目、よく見るとちょっと心配そうなんだよね。

うん。幸せな時間を噛みしめつつ、この先を知ってる大人の目をしてる。そこが胸にくる。

レゴッホ
レゴッホ
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ラファエロの聖母像の中での《小椅子の聖母》の位置づけ

ラファエロは、生涯を通じて数えきれないほどの聖母子像を描きました。その中で《小椅子の聖母》は、とくに「親密さ」と「即興性」が高く評価されている作品です。

円形トンドという形式は、彼がフィレンツェ時代から好んで用いてきたものですが、この作品では構図もポーズもより自由で、スケッチ帳に描かれた一瞬の抱擁を、そのまま大切に残したような印象があります。

後世の画家たちもこの絵に強い影響を受けました。マニエリスムやバロックの時代になると、母子像はより感情的でドラマティックなものへと変化していきますが、その原点のひとつとして、この親密な聖母子のイメージが意識され続けたと考えられます。

現在もフィレンツェのパラティーナ美術館で多くの人に親しまれ、ラファエロの代表的な聖母画として、美術史の教科書にも必ず登場する存在となっています。

ぬい
ぬい

ラファエロの聖母っていっぱいあるけど、《小椅子の聖母》は“近所のお母さん感”がダントツだね。

そうそう。完璧に美しいだけじゃなくて、ちょっと生活感もある。そのバランスが現代人にも刺さるんだと思う。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ:円い画面の中に凝縮された「理想」と「日常」の聖母像

《小椅子の聖母》は、ラファエロが築き上げた「理想の美」と、目の前の家族を見つめるような温かなまなざしが、ひとつに溶け合った作品です。
円い画面の中で寄り添う三人は、信仰の対象であると同時に、いつの時代にも変わらない母と子の姿を映し出しています。

構図の緻密さ、色彩の調和、衣装の細やかな描写、そして視線がつくり出す静かなドラマ。どの切り口から見ても、ラファエロの力量がぎゅっと詰まった名品だと言えるでしょう。

ぬい
ぬい

トンドって飾るの難しそうだけど、この絵なら家にあったら毎日眺めちゃうな。

だね。部屋に一枚あるだけで、空気がふわっと柔らかくなりそう。ラファエロの聖母って、やっぱり強い。

レゴッホ
レゴッホ
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