ハンス・ホルバインが描いた《ヘンリー8世の肖像》は、イギリス国王ヘンリー8世のイメージを決定づけた代表作として知られています。
金糸でびっしり刺繍された服、宝石だらけのネックレス、真っすぐこちらをにらむような視線。実際のヘンリー8世以上に「威厳」と「迫力」を盛り込んだこの肖像は、16世紀のプロパガンダ画像としても機能しました。
ここでは、作品の基本情報から、ポーズや衣装に込められた政治的メッセージ、ホルバインが宮廷画家として担った役割まで、できるだけわかりやすく解説していきます。
このヘンリー8世、絶対にケンカ売りたくないタイプの顔してるよね
わかる。ホルバインの“盛り方”がうますぎて、カリスマ増し増しだよね
《ヘンリー8世の肖像》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作者:ハンス・ホルバイン(子)
タイトル:一般に《ヘンリー8世の肖像》と呼ばれる王の胸像
制作年:おおよそ1536〜1537年頃
技法:油彩・板(オリジナルおよび同工房作と考えられる複数の板絵)
備考:失われた大壁画《ホワイトホール宮殿の壁画》をもとにした肖像タイプの一つ
オリジナルはもう残ってないって聞くと、ちょっとさみしいね
でも、その失われた元絵のおかげで、ヨーロッパ中に“この顔のヘンリー8世”が広まったんだよね
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ハンス・ホルバインを解説!宮廷を渡り歩いた肖像画のプロフェッショナル
ヘンリー8世とホルバイン:肖像画が生まれた歴史的背景
ホルバインはドイツ出身の画家ですが、ロンドンに渡ってからはイングランド宮廷で活躍しました。
人文主義者エラスムスの推薦もあり、外交官や学者たちの肖像を描きながら、次第に王家との距離を縮めていきます。
その中で決定的な仕事となったのが、ヘンリー8世のための大きな壁画でした。
この壁画はホワイトホール宮殿の一室を飾り、ヘンリー8世とその一族を等身大より大きく描いたと伝わっています。現在は火災で失われていますが、今回取り上げる胸像は、その壁画に基づいて制作されたタイプの一つです。
ヘンリー8世は、修道院解散や離婚問題などで国内外から批判を浴びていました。
そんな中で、王の権威を視覚的に示す肖像画は、政治的にも非常に重要な役割を担っていたと考えられます。
つまりこの肖像って、“ヘンリー最強説”を世界にアピールするポスターみたいなもの?
そうそう。ホルバインは、ただ似せるだけじゃなくて、王のブランドイメージを作ってたってことだね
正面から迫るポーズ:中世のイコンを思わせる構図
この肖像の一番の特徴は、ヘンリー8世がほぼ真正面からこちらを見つめていることです。
横向きや斜め向きが多いルネサンス肖像画の中で、正面向きはかなり珍しい構図です。
正面からの構図は、キリストや聖人を描いた中世のイコンや祭壇画を連想させます。
ホルバインはその伝統を踏まえつつ、ヘンリー8世を「神に選ばれた王」として見せる効果を狙っているとも解釈できます。
さらに、背景は暗く単純化され、王の上半身が画面いっぱいに迫ってきます。
余計な小物をほとんど排し、視線がすべてヘンリーの顔と衣装に集中するよう計算されています。
背景がシンプルだから、顔と服の迫力がすごく引き立ってるね
画面に“スキマ”がない感じがまた圧なんだよな。距離感ゼロの王様
衣装と宝飾に込められた「富」と「軍事力」のアピール
ヘンリー8世の肖像で次に目を引くのが、豪華な衣装と宝飾品です。
胸元には金糸で複雑な唐草模様が刺繍され、真珠や赤い宝石がびっしり並んでいます。帽子の縁にも、金の装飾や宝石が散りばめられています。
これらは単に王の趣味を表すだけでなく、国家財政の豊かさや、王が掌握する権力の大きさを視覚的に示す要素です。
当時のヨーロッパ宮廷では、衣装の豪華さがそのまま政治的なメッセージとして読まれていました。
また、ヘンリー8世は軍事力を背景にした王でもあります。
もともとホワイトホール宮殿の壁画では、全身像のヘンリーが足を大きく開き、剣の柄に手を添えるポーズで描かれていたと伝わります。胸像になっても、その堂々とした構えや肩幅の広さから、武力をもつ王のイメージが色濃く残っています。
服の模様も宝石も全部“俺が一番リッチだぞ”アピールなんだね
うん。しかもそれを超緻密に描き込むホルバインも、だいぶ仕事人だよね
顔の描写:冷静さと計算高さを同居させた表情
ヘンリー8世の表情は、一見すると感情が読みにくい無表情に近いものです。
しかし、よく見ると、わずかに細められた目と、引き結ばれた口元から、冷静さと計算高さがにじみ出ています。
ホルバインは、わざと感情を抑えることで、王の「揺るがない意志」を強調しているようにも見えます。
観る者は、この視線に真正面からさらされることで、自然と王の前にひざまずく臣下の視点へと引き込まれていきます。
怒ってるわけじゃないのに、なんでこんなに怖いんだろうね
感情が見えないからじゃない? 何を考えてるかわからない権力者が一番こわいってやつ
宮廷画家ホルバインの役割と、この肖像のその後
ホルバインは、このような肖像画を通じてヘンリー8世の「公式イメージ」を作り上げました。
宮廷内では、結婚相手候補の王女や貴婦人たちの肖像も多数手がけ、外交の場で使われる「写真の代わり」のような役目も担っていました。
ヘンリー8世の肖像タイプも、宮殿の装飾だけでなく、王家に関わる人々や外国の宮廷にまで複製されました。
その結果、実物の王よりも、ホルバインが描いたヘンリー8世のイメージの方が、ヨーロッパ中でよく知られるようになっていきます。
のちに、ホルバインは宮廷内の権力バランスの変化に巻き込まれ、不遇な最期を迎えたと考えられていますが、彼が作り上げたヘンリー8世像は、今もなお教科書や歴史ドラマのビジュアルの原型として生き続けています。
つまり、歴史の中で一番有名なヘンリー8世の顔は、ホルバインの“キャラデザ”ってことか
そう。歴史とアートとプロモーションが、きれいに一本線でつながってる好例だね
おすすめ書籍
このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。
まとめ|一人の画家が作り上げた「王のブランド」
《ヘンリー8世の肖像》は、単なる似顔絵をはるかに超えた作品です。
真正面から迫る構図、隙のない衣装描写、読み取りにくい表情。
そのすべてが組み合わさって、「絶対的な権力を持つ王」のイメージを徹底的に造形しています。
この肖像を入り口にして見ると、ルネサンス期の肖像画がどれほど政治的で、どれほど意図的に「見せたいイメージ」を作っていたかが、ぐっと実感しやすくなるはずです。
歴史の教科書で見慣れてる顔なのに、背景を知ると一気に立体的に見えてきた
でしょ。次にどこかでヘンリー8世を見たら、“ホルバイン案件だな…”ってちょっとニヤッとしてほしい


