ギリシャ神話のヒロイン、アンドロメダといえば、理想的な美しさと優雅な裸体を思い浮かべるかもしれません。
しかし、レンブラントが描いた《アンドロメダ》は、そんなイメージを根底から覆す作品です。
そこにいるのは、神話の中の女神ではなく、不安と恐怖に震える「ひとりの若い女性」。
完璧な美ではなく、人間の弱さや苦しみを赤裸々に描いたこの作品は、
当時の常識を超えた“リアリズムの裸婦像”として、今なお強い共感と衝撃を呼んでいます。
本記事では、この異色の神話画の見どころと革新性を、レンブラントの芸術観とともにわかりやすく解説します。

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作品基本情報

タイトル:アンドロメダ(Andromeda)
制作年:1630年頃
サイズ:34 × 24.5 cm
技法:油彩/板
所蔵先:マウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ)

ギリシャ神話に出てくるよね?
・救出前のアンドロメダが絶望の中に立つ姿。
・若き日のレンブラントが情感を探った作品。
・理想化されないリアルな人物像が印象的。
背景と主題|ギリシャ神話の王女アンドロメダ

この作品は、ギリシャ神話に登場するアンドロメダの受難を主題としています。
アンドロメダは、母カシオペイアが「娘は海のニンフよりも美しい」と豪語したため、
海神ポセイドンの怒りを買い、怪物の生贄として海岸の岩に鎖で繋がれる運命を背負います。
後にペルセウスが現れて彼女を救うという展開になりますが、
レンブラントはあえて「救出の直前」や「英雄の姿」は描かず、
恐怖と不安に震えるアンドロメダ単体をクローズアップしています。
見どころ①|神話にリアリズムを持ち込むレンブラント

ティツィアーノ・ヴェチェッリオを始めとする従来の画家たちは、アンドロメダを理想的な裸体美の象徴として描くことが多く、裸体で岩にしなだれる“受け身の美”を強調してきました。
しかし、レンブラントのアンドロメダは全く異なります。

肌には張りがなく、ポーズもぎこちなく、顔には恐怖と苦痛の表情。
手首は黒い帯で岩に縛られ、彼女は“生贄としての苦しみを感じている”女性として描かれています。
この表現により、レンブラントは神話の中の女性を「生きた人間」に引き戻したのです。

この子、ほんとに怖がってる…。
助けを待ってるだけの“お姫さま”じゃなくて、“誰かに助けてって言ってる人間”だよ…!
見どころ②|背景と構図の心理効果

画面の左側は暗く、右側の空間は明るく広がっています。
これは「恐怖」と「希望」あるいは「孤独」と「救済」を対比させているとも解釈されます。
また、画面全体が縦構図であるため、アンドロメダの縛られた姿がより「吊るされた」印象を与え、
視覚的にも不安定さや緊張感を増幅させています。
豆知識|モデルは誰だったのか?
この作品のアンドロメダは、当時の理想美とは異なる体型・表情をしています。
このことから、モデルは特定の庶民女性(おそらくレンブラントの身近な人物)と考えられており、
その点でもこの作品が“神話絵画の革新”であることがわかります。
まとめ|理想化ではなく「共感できる」アンドロメダ
レンブラントの《アンドロメダ》は、神話の一場面でありながら、
私たちが共感できる“人間の不安”や“救われたいという切実な願い”を描いた作品です。
英雄も怪物も登場しないこの絵は、
助けを待つ者の不完全さ、恐れ、そして人間らしさを、痛々しいまでにリアルに伝えてきます。

こんなに“怖がってるアンドロメダ”って、他に見たことない…。
見てるだけで、助けに行きたくなる絵だよ…
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