最初にこれらの絵を見たとき、多くの人が「どこから顔で、どこまでが動物なの?」と戸惑うと思います。
《四元素》は、イタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルドが1566年ごろに描いた4枚組の油彩画です。描かれているのは、古代から世界を形づくると言われてきた四つの元素──「大地・水・火・大気」。それぞれが人の横顔のように見えますが、よく見ると中身はすべて動物や武器、鳥などの細かなモチーフでできています。
この連作は、神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世のために制作されました。自然界のあらゆるものを束ねる四元素すら、自分の宮廷画家の手で「一つの顔」にまとめあげられている──そんな形で、皇帝の権威と世界支配のイメージをほのめかしていると考えられています。
同じアルチンボルドの連作《四季》と対になるシリーズでもあり、「春=大気」「夏=火」「秋=大地」「冬=水」という対応関係を持たせた、非常に知的な構成になっています。
四元素を全部「顔」にしちゃう発想、ぶっ飛んでるよね。
しかも皇帝のヨイショまで忍ばせてるの、やり手すぎる。
四元素(連作)
- 作品名:四元素(大地・水・火・大気)
- 作者:ジュゼッペ・アルチンボルド
- 制作年:1566年ごろ
- 技法:油彩、板
- サイズ:各図およそ 67×51cm 前後(作例によってわずかに異なります)
- 所蔵:
・《火》《水》:ウィーン美術史美術館(オーストリア・ウィーン)
・《大地》:オーストリア国内の個人コレクション
・《大気》:原画は失われ、現在は同時代の写しが知られています
四枚すべてが横顔の形にそろえられており、シリーズとして一体感を持つように設計されています。
展示で4枚が並んでると、まさに「元素会議」って感じになるよ。
推し元素どれにするか、絶対悩むやつだな。
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ジュゼッペ・アルチンボルドを解説!奇想と教養が詰まった宮廷画家
皇帝のための知的なパズル──制作の背景
アルチンボルドはミラノ出身で、宗教画の下絵やステンドグラスのデザインなどを手がけたあと、ハプスブルク家に仕え、ウィーンやプラハで宮廷画家として活躍しました。新しい動物や珍しい植物が各地から集まる宮廷環境は、彼の想像力を刺激する格好の材料でした。
《四元素》は、そうした宮廷の知的遊戯の延長にあります。自然史や占星術、四体液説、錬金術など、当時流行していた学問や思想を背景に、「世界の仕組み」を絵画に置き換えた高度なアレゴリー(寓意)です。四つの元素を一つずつ人格化し、さらにそれらを皇帝のイメージと重ねることで、「宇宙の秩序を司る理想の君主」というメッセージを視覚化しているのです。
ただのジョーク絵じゃなくて、ガチで宮廷インテリ向けの作品なんだね。
そうそう、笑って終わりじゃなくて「意味わかった?」って試されてる感じ。
《大地》:陸上動物がぎゅっと集まった重厚な横顔

《大地》では、シカやウシ、ゾウ、ライオンなど数多くの陸上動物が積み重なって、力強い男性の横顔が形づくられています。頭頂部を囲むツノを持つ動物は王冠のように見え、中央にはゾウの頭部がどっしりと構えています。顎から胸元にかけては、大きなライオンのたてがみと、ふわふわした羊毛がマントや襟のような役割を果たしています。
ライオンや羊毛の衿は、ハプスブルク家が誇る騎士団「金羊毛騎士団」を連想させるモチーフとも言われます。つまり《大地》は、陸の支配者である動物たちを統べる力と、皇帝の威光を重ねたイメージとして読むことができます。
よく見ると、一匹一匹の描写もちゃんとリアルなんだよね。
写実ガチ勢が、全力で悪ノリしてる感じが最高。
《水》:60種以上の海の生き物がつくる宮廷婦人

《水》は、四枚の中でもとくに細部が緻密な一枚です。横顔をかたちづくるのは、魚類や甲殻類、貝、サンゴなど、おびただしい数の海の生き物。研究者の数え方にもよりますが、60種以上の生物が描き分けられているとされています。
胸元にはカニとカメ、ロブスターが並び、まるで金属の胸当てのように見えます。首には真珠の首飾り、耳にも大粒の真珠のイヤリング。つまり、この「水の精霊」のような女性は、海から採れる宝物によって装われた宮廷淑女としてデザインされているのです。
水のモチーフは、豊かさと同時に変化しやすさ、不安定さも暗示します。海の恵みをも自国の富として取り込む皇帝の姿を、アルチンボルドはこの奇妙な肖像に託していると考えられます。
この人、よく見るとかなり貫禄あるおばさまだよね。
でも真珠アクセでちゃんと貴婦人スタイルなのがまたじわる。
《火》:炎と武器でできた戦いの化身

《火》だけは、ほかの三枚と違って生き物ではなく「モノ」で構成されています。顔の中心には火打ち石と火打ち金があり、鼻や耳を形づくっています。頭頂部から広がる炎の冠は、燃えさかる薪が放つ火花そのもの。胸から下は大砲や銃、砲弾などの武器が組み合わされ、火の持つ「破壊力」と軍事力が強調されています。
胸元には「金羊毛騎士団」の首飾りがはっきり描かれ、その下には神聖ローマ帝国の象徴である双頭の鷲が見えます。これは火という元素を、単に自然現象としてではなく「皇帝の軍事的力」として描いたものと解釈されています。
完全に「火=兵器」っていう発想、当時の帝国らしいよね。
現代でこれやったら、めっちゃ政治的って炎上しそう。火だけに。
《大気》:鳥たちが集まってできた軽やかな肖像

《大気》では、さまざまな鳥たちがぎゅっと押し合いながら、人の横顔を形づくっています。フクロウやアヒル、小鳥たちが顔の輪郭を構成し、胸元には孔雀の大きな羽根が広がってドレスのようなボリュームを生み出しています。
作品の一部には鷲や孔雀など、ハプスブルク家の紋章と結びつく鳥も紛れ込んでおり、空を支配する存在を通して「皇帝の威光が空の高みまで届いている」ことを暗示しているとも読み取れます。原画は失われていますが、当時のコピーからこうした構図が再現されています。
鳥だけでこんなに種類描き分けるの、普通にバードウォッチャー並みの知識だよね。
図鑑ガチ読みしてそう。オタク気質の宮廷画家。
《四季》とのペア構造──春夏秋冬と四元素のリンク
《四元素》は、それより少し前に描かれた連作《四季》と対になるシリーズです。春の花々でできた顔と《大気》、夏の果実の肖像と《火》、秋の収穫物と《大地》、冬の枯れ木と《水》が、それぞれ意味的に対応するように設計されています。




四季と四元素を組み合わせることで、アルチンボルドは「時間」と「物質」の両方を支配する宇宙像を提示しました。皇帝のコレクションとして二つの連作が並んでいたなら、見る者は季節の循環と元素のバランス、そのすべてを統べる支配者の姿をいっぺんに思い浮かべたはずです。
四季と四元素でフルセットにすると、世界観できあがりすぎ。
推し連作をコンプした皇帝、完全にアルチンボルド沼の住人だよ。
《四元素》が伝える世界観とアルチンボルドの魅力
《四元素》は、一見するとただのユーモラスなトリック・アートのように見えますが、その背後には自然科学への好奇心、宮廷文化の洗練、そして権力へのさりげない賛美が折り重なっています。アルチンボルドは、博物学的な観察にもとづいて動物や魚を正確に描きながら、それらをパズルのように組み替えて全く別のイメージに仕立て上げました。
この「部分は現実的なのに、全体としては幻想的」というギャップこそが、後世のシュルレアリスムの画家たちを惹きつけた理由でもあります。アルチンボルドは16世紀の宮廷という閉じた世界のなかで、自分なりのユーモアと知性を最大限に発揮し、見る者に「意味を読み解く楽しさ」を残しました。《四元素》は、その代表例として今も世界中の美術館や教科書、ポップカルチャーの中で引用され続けています。
改めて見ると、アルチンボルドってやっぱり時代を先取りしてるよね。
うん、16世紀の人なのに発想が完全に現代アート寄り。推すわ。
おすすめ書籍
このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。
まとめ:四元素を「顔」にした、世界観丸ごとパッケージの連作
アルチンボルドの《四元素》は、世界を構成する四つの力を、動物やモノでできた人の横顔として描き出した連作です。
宮廷の学問的な雰囲気や、ハプスブルク家の権力イメージを背景にしながら、同時に細部のユーモアや小さな発見で私たちを楽しませてくれます。同じく連作《四季》とのペアで考えると、より大きな宇宙観が見えてくる点も、このシリーズの魅力と言えるでしょう。
四季の記事とまとめて読むと、アルチンボルドの「世界設定」がかなり見えてくるね。
だね。次はどの顔をアイコンにしようか本気で悩んでる。


