夜空に浮かぶ「くじら座(ケートス座)」は、その名の響きから穏やかな海の哺乳類を思い浮かべるかもしれません。でも実は、この星座が由来とするのは、ギリシャ神話に登場する恐ろしい海の怪物「ケートス」。美しい王女アンドロメダを襲うために送り込まれたこの怪物は、英雄ペルセウスの活躍によって倒されるという劇的なエピソードを持ちます。
本記事では、「くじら座」の基本情報に加え、その背後にある神話や美術作品の読み解きまで、幅広くわかりやすく解説します。星座がどのように神話と結びつき、どんな文化的意味をもって語られてきたのか。秋の夜空をもっと楽しむためのガイドとして、ぜひご活用ください。
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神話の怪物大好き
ケートス座の基本情報

秋の夜空に浮かぶ「くじら座(Cetus)」は、ギリシャ神話に登場する海の怪物ケートスの姿を星座にしたものです。名前に“くじら”とありますが、実際には現代的なクジラではなく、ドラゴンのような恐ろしい怪物とされていました。
くじら座は、うお座・みずがめ座・ペガスス座・エリダヌス座などと隣接する位置にあり、秋の星座のひとつに数えられます。
星座のなかで最も明るい星はメンカル(Menkar, α星)で、星座全体としては控えめな輝きですが、古くから知られる星座のひとつです。夜空をぐるりと見渡すように広がる形から、“海の怪物”らしい巨大さを感じさせます。

くじら座って名前から「かわいいクジラ」かと思ったら、神話の怪物がモデルなんだね!
星空にもモンスターがいたなんてびっくり。
神話のケートス|アンドロメダを襲う海の怪物

ケートスが登場するのは、ギリシャ神話の有名なエピソード「アンドロメダ救出譚」の中です。
エチオピアの王妃カシオペアは、ある日「自分や娘アンドロメダの美しさは海のニュンペーたちよりも勝る」と高慢な発言をします。これに怒ったのが海神ポセイドン。彼は怒りの報復として、ケートスという海の怪物をエチオピアに送り込みます。
国中が荒らされ、人々は恐怖に震えます。神託によって「アンドロメダを怪物の生贄に捧げれば災いは収まる」と知った国王ケフェウスとカシオペアは、涙ながらに娘を岩場に繋ぐ決断を下します。
そんなとき、空から通りがかったのが英雄ペルセウス。彼はゴルゴンのメドゥーサを倒した帰り道で、海辺に囚われたアンドロメダを見つけ、ケートスと戦うことになります。
戦いの中でペルセウスは、討伐したばかりのメドゥーサの首を用い、ケートスを石に変えて打ち倒すのでした。
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神話ってほんと残酷……。でもペルセウスが来てくれてよかったね。
ケートス、ただの悪者じゃなくて「神の怒りの象徴」ってとこが深いよね。
ケートスはなぜ星座になったのか?
ケートスはペルセウスに討たれた存在です。それにもかかわらず、なぜ星座として天に上げられたのでしょうか?
はっきりとした神話的理由は伝わっていませんが、古代の人々が「大海原の恐怖」を星空の中に投影したという説があります。ケートスのような海の怪物は、地中海を渡る航海者たちにとって、常に「出会うかもしれない未知の恐怖」の象徴だったのです。
つまり、星座になったケートスは、「恐怖を記憶するための空のモニュメント」とも言えるかもしれません。

星ってきれいなだけじゃないんだね。
昔の人たちは、自分たちの怖い記憶も空に刻んで残してたんだなあ……ちょっと切ないかも。
美術作品に見るケートス
ケートスは美術作品の中でしばしば描かれますが、その姿は「くじら」よりも「ドラゴン」に近いものとして表現されることが多くあります。
ルーベンス《アンドロメダを解放するペルセウス》

ルーベンスのバロック絵画では、倒されたケートスの姿が確認できます。
ギュスターヴ・モロー《アンドロメダ》

象徴主義のモローもまた、海の怪物を幻想的かつ神秘的に描いています。ケートスは画面の片隅に暗示的に描かれ、その姿よりも不気味な気配や不安定な構図で、怪物の存在を観る者に意識させます。
このようにケートスは、西洋美術の中で「ただの敵役」ではなく、人間の恐怖・罪・罰といったテーマを象徴する存在として描かれてきたのです。

ケートスの描かれ方、時代や画家によって全然ちがうんだね!
姿が見えると怖いけど、見えないほうがもっと怖いって……ほんとに不思議な存在。
まとめ|くじら座は「怪物」の記憶
くじら座(ケートス座)は、単なる“星のくじら”ではなく、神話の中で人々を恐怖に陥れた怪物の記憶です。
神話を知ることで、夜空に浮かぶ星座がより立体的に見えてくるはずです。秋の澄んだ空にくじら座を見つけたとき、その背後にある壮大な神話と美術の物語を思い出してみてください。