レンブラントがわずか25歳で描いた《テュルプ博士の解剖学講義》は、当時のアムステルダムで実際に行われた公開解剖を記録した作品です。
静かな画面の中に張りつめた空気が漂い、視線や光の演出が、まるで映画のワンシーンのような臨場感を生み出しています。
しかも、解剖されている遺体は架空ではなく、実在の犯罪者アーリス・キント。
この絵は、美術と医学、そして人間の生と死が交差する、17世紀オランダを象徴する傑作なのです。

ちょっと怖いけど、目が離せない…絵なのに“生きてる”って感じがする〜
作品基本情報

タイトル:テュルプ博士の解剖学講義(De anatomische les van Dr. Nicolaes Tulp)
制作年:1632年
サイズ:216.5 cm × 169.5 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:マウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ)

目をそらしたくなる。(医療ドラマみれない)
・レンブラント25歳の頃の出世作で、公開解剖の様子を描いた集団肖像画。
・博士の手元に注がれる視線や光の演出が、緊張感ある場面を演出しています。
・科学と芸術が融合した、17世紀オランダを象徴する傑作です。
背景と制作経緯|若きレンブラント、注目の的に

この作品は、レンブラントがアムステルダムに移って間もない頃、25歳という若さで手がけたものです。
依頼主は、当時著名な医師であり、アムステルダム外科医ギルドのメンバーだったニコラース・テュルプ博士。
解剖講義は年に一度、一般市民にも公開される教育的かつ社交的なイベントでした。
この絵はその様子を記念する集合肖像画として依頼されたもので、
描かれている男性たちは**ギルドのメンバー(実在人物)**です。

なんとこれ、“記念写真”みたいなもんなんだって!でもドラマチックすぎる〜
見どころ①|動きと視線が生む“物語”
当時の集合肖像画は、人物が並んでこちらを見つめる“静的”なものが主流でしたが、
レンブラントはこの作品でそれを覆しました。

テュルプ博士が筋肉構造を説明する瞬間をとらえ、
他のメンバーがそれに注目し、驚きや関心を見せるように描かれています。
各人物の視線がバラバラであることで、場のリアルな緊張感と空気が伝わってくるのです。
見どころ②|キアロスクーロの効果と構図の妙

この絵では、レンブラントが得意とする**キアロスクーロ(明暗法)**が存分に発揮されています。
暗い背景の中から、解剖台の遺体(犯罪者アーリス・キント)が浮かび上がるように照らされ、
博士の手元と表情も、スポットライトのような光で強調されています。
この効果により、絵は単なる“出来事の記録”ではなく、
観る人の視線を操作し、絵の物語へと導く力を持った劇的な場面として完成しています。
豆知識|描かれた遺体は誰?

テュルプ博士が解剖しているのは、**アーリス・キント(Aris Kindt)**という実在の人物。
彼は当時、強盗殺人の罪で処刑され、その遺体が医学教育のために使われました。
こうした公開解剖は当時のオランダでは合法で、知識の共有と市民への啓蒙の場でもあったのです。

処刑された人が“学びの場”になるなんて…いろんな意味ですごい時代だね
なぜこの絵が革新的なのか?
この作品は下記の理由から革新的な作品とされました。
・集合肖像に“瞬間”を取り入れた:それまでの記念画とは一線を画す構図
・科学と芸術の融合:知的好奇心と人間の生々しさが共存
・光の演出で主題を明確に:何を見てほしいかが一目で伝わる
この作品により、レンブラントは一気にアムステルダムの芸術界にその名を轟かせ、
以降、注文が急増し、肖像画家としての地位を築いていきます。
まとめ|絵画が記録を超えて“語り出す”瞬間
《テュルプ博士の解剖学講義》は、単なる集合肖像ではありません。
それは、知と死、人と人の関係を、1枚の絵に凝縮した劇的なシーンです。
レンブラントはこの作品で、光と構図を操りながら、絵が“語る”芸術へと進化させる扉を開いたと言えるでしょう。
この1枚の中にある緊張、興味、驚きは、400年後の私たちにもリアルに伝わってきます。

絵なのに、まるで映画のワンシーンみたい。レンブラントすごすぎ…!
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