ヨハネス・フェルメールといえば、静謐な室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
その初期には、意外にも神話をテーマにした作品も手がけていました。
そのひとつが、今回ご紹介する『ディアナとニンフたち』です。
この絵には、フェルメールが後に確立する「静かな光」と「内面的な物語性」の萌芽がしっかりと刻まれています。
本記事では、『ディアナとニンフたち』について、初心者にもわかりやすく、
作品の背景や見どころ、フェルメールらしさまで丁寧に解説していきます。
静かにたたずむディアナとニンフたちの姿に、フェルメールが込めた思いを一緒にひもといていきましょう。
作品基本情報

タイトル:ディアナとニンフたち(Diana and Her Companions)
制作年:1655〜1656年頃
サイズ:98.5 cm × 105 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:マウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ)

犬かわいい
・ギリシャ神話の女神と従者たち。
・神話画ながら親しみやすい雰囲気。
・フェルメール初期の意欲作。
作品概要|フェルメール初期の異色作
『ディアナとニンフたち』は、
フェルメールがまだ20代の若き日に描いた、珍しい神話画です。
題材は、ローマ神話(ギリシャ神話)に登場する月と狩猟の女神ディアナ(アルテミス)と、彼女に仕えるニンフたち。
しかし、一般的な「ディアナとニンフ」の場面(狩猟やアクタイオンの悲劇)とは異なり、
この絵は穏やかで静かな休息の場面を描いています。

みんなリラックスしてるみたい。
ディアナさん、すごくおだやかだね!
どこを見たら面白い?|静かな一体感に注目
ディアナの威厳とやさしさ

→ ニンフに足を洗われながらも、凛とした雰囲気を保つ女神。
神としての威厳と人間的な親しみが同時に感じられます。
ニンフたちの自然な仕草

→ 互いに寄り添い、静かに手をつなぐニンフたち。
騒がしさや誇張はなく、まるで一つの生き物のような落ち着きがあります。
抑えた光と色彩
→ 日差しの強い演出は避け、やわらかな陰影の中で人物たちが浮かび上がっています。
後年のフェルメール作品に通じる「静謐な空気感」が、すでに漂っています。
フェルメールらしさの兆し
この作品は、神話画という点ではバロック期の一般的なトレンドに沿っていますが、
フェルメールの表現はとても独特です。
・劇的な動きがない
・感情を爆発させない
・場面の静けさ、密やかさを大切にしている
普通ならディアナとニンフたちは、狩猟やスキャンダルのシーンで活発に描かれることが多いですが、
フェルメールはそれを拒み、「ただ静かに過ごす女性たち」を描く選択をしました。
この「静かな尊厳をたたえる目線」は、後の『牛乳を注ぐ女』や『レースを編む女』へと繋がっていきます。

フェルメールさんって、本当に“静かだけどすごく強い”瞬間を見つけるのが得意なんだね!
豆知識|なぜディアナだったのか?
フェルメールが選んだディアナは、「純潔」「慎ましさ」の象徴でもありました。
彼のカトリック改宗と関係する宗教的な影響があった可能性も指摘されています。
また、女性たちを清らかな存在として描きたいという意図が、初期からあったとも考えられます。
さらに興味深いのは、この作品が
あえて物語的な事件を描かず、
ひたすら静かな祈りのような雰囲気を選んだこと。
ここに、フェルメールの物語を内に秘める美学が、すでに現れているんですね。
まとめ|静かな神話の中に宿るフェルメールの魂
『ディアナとニンフたち』は、
若きフェルメールが「静けさ」と「尊厳」をテーマに神話を描こうとした、
野心的で繊細な試みです。
動きも劇的な感情表現もないけれど、
見れば見るほど深く心に染み込んでくる──
そんな不思議な魅力を持った一枚です。
若き日のフェルメールが、
後に世界を魅了する「静かな光の魔術師」へと成長する萌芽を、
ぜひこの作品に見つけてみてくださいね。