スポンサーリンク

エル・グレコの《オルガス伯の埋葬》を解説!どこでみれる?

アフィリエイト広告を利用しています。
マニエリズム
スポンサーリンク

エル・グレコの《オルガス伯の埋葬》は、スペインのトレドにある小さな教会サント・トメに今も掛けられている巨大な祭壇画です。
幅3.6メートル、高さ4.8メートルというサイズいっぱいに、甲冑姿の貴族の葬儀と、その上空で展開する天上界のビジョンが描かれています。

この絵は、14世紀の領主ゴンサロ・ルイス・デ・トレド(一般には「オルガス伯」と呼ばれる)の葬儀に起きたとされる奇跡を題材にしています。信仰と慈善に篤かった彼の棺を、聖ステファノと聖アウグスティヌスが天から降りて来て自ら墓に納めた、という伝説です。

エル・グレコは、この地元伝承を単なる物語としてではなく、「善行と聖人崇敬が救いにつながる」というカトリック改革のメッセージに結びつけ、地上と天上を一体化させる構図で描き出しました。トレドの名士たちを実在の肖像そのままに描き込んだ下半分と、ねじれた人体と冷たい光に満ちた上半分。そのコントラストこそが、この作品を特別なものにしています。

ぬい
ぬい

ただの“お葬式の絵”かと思ったら、伝説と神学と地元の名士紹介が全部詰まってるんだね。

そうそう。トレドの人にとっては、信仰のシンボルでもあり、同時に“うちの街の誇りアルバム”でもある一枚なんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

《オルガス伯の埋葬》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

タイトル:オルガス伯の埋葬

作者:エル・グレコ

制作年:1586〜1588年ごろ

技法:油彩・カンヴァス

サイズ:約480 × 360 cm

所在地:サント・トメ教会(トレド/スペイン)

主題:オルガス伯ゴンサロ・ルイス・デ・トレドの葬儀で、聖ステファノと聖アウグスティヌスが自ら遺体を墓に納めるという奇跡の伝説

依頼主:同教会の主任司祭アンドレス・ヌニェス。オルガス伯の礼拝堂整備の仕上げとして注文された

ぬい
ぬい

いまも美術館じゃなくて教会に掛かってるっていうのがいいね。

うん、観光名所だけど、もともとは地元の信仰のための“現役の祭壇画”なんだよ。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

エル・グレコを解説!ギリシャ生まれの「異端の巨匠」とは?

スポンサーリンク

エル・グレコ《オルガス伯の埋葬》とは

エル・グレコはギリシャのクレタ島出身で、ヴェネツィアやローマで修業したのち、40代でスペインのトレドに落ち着きました。
《オルガス伯の埋葬》が描かれたのは、トレドでの暮らしが10年ほど経ち、彼のスタイルが完全に固まりつつあった時期です。研究者たちはこの作品を「エル・グレコの成熟期を決定づけた転機」と評しています。

画面は大きく上下2つの世界に分かれます。下半分はトレドの教会で行われる葬儀の場面で、黒い礼服に白い襟の男たちがぎっしり並ぶ中、金色の祭服を着た司教が甲冑姿のオルガス伯の遺体を手厚く抱えています。
上半分は雲に包まれた天上界で、中央には復活したキリスト、その左に聖母マリア、右に洗礼者ヨハネが位置し、聖人や天使たちが渦を巻くように取り囲んでいます。

一見すると二つの場面はまったく別世界ですが、人物の縦の並びや、司祭の持つ十字架、天へ昇っていく魂の流れなどを通して、地上と天上が一本の軸でつながるように設計されています。グレコ特有の細長い人体や波打つような雲の形が、現実と幻視の境目をあいまいにしているのも特徴です。

ぬい
ぬい

上下に分かれてるのに、なんか一枚の世界として見えちゃうのが不思議だね。

エル・グレコの“縦の流れ”がうまいからだね。視線が自然と地上から天上に吸い上げられていくんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

奇跡の物語と注文の背景

この絵の元になったのは、14世紀初めに実在した領主ゴンサロ・ルイス・デ・トレドの葬儀に関する伝説です。
彼はオルガスの町を治める貴族で、慈善事業や教会への寄進を惜しまなかった人物とされています。なかでも、自分が埋葬されることを望んだサント・トメ教会には多額の資金を残し、その拡張と装飾に大きく貢献しました。

彼の死の際、棺を納めるときに奇跡が起こります。参列者の前に聖ステファノと聖アウグスティヌスが姿を現し、ひとりがオルガス伯の足元を、もうひとりが上体を抱きかかえ、自ら墓に横たえたというのです。
この奇跡は、オルガス伯の敬虔な信仰と善行に対する天からの報いとして語り継がれました。

16世紀後半、サント・トメ教会の司祭アンドレス・ヌニェスは、この伝説の舞台となった礼拝堂を整備し直し、最終的な仕上げとしてエル・グレコに大作を依頼しました。契約書には、奇跡の内容や、聖人たちの装束、参列する聖職者や貴族の姿まで、かなり細かく指定されていたことが分かっています。

当時のスペインはトリエント公会議後のカトリック改革のまっただ中で、「聖人への信心」と「善行」の重要性が強調されていました。オルガス伯が聖人に直接埋葬してもらうという伝説は、その教えを地元の人びとに分かりやすく伝える絶好の題材だったのです。

ぬい
ぬい

ただの“地元のいい話”じゃなくて、当時の教会の教えともバッチリ噛み合ってたんだね。

だからこそ、司祭もお金をかけてグレコに大作を頼んだんだろうね。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

地上の場面:写実的なトレド市民の“集合写真”

画面下半分は、地上の葬儀の場面です。中央では聖ステファノと聖アウグスティヌスが豪華な祭服をまとい、甲冑姿のオルガス伯の遺体をやさしく抱えています。二人はそれぞれの衣に、自分の殉教や生涯を示す小さな場面を刺繍として身につけており、誰なのかがひと目で分かるようになっています。

その周囲を取り囲む黒い礼服の男たちは、ほとんどがエル・グレコと同時代のトレドの名士たちです。聖職者、法学者、貴族、学者など、当時のトレド社会の「精神的エリート」が実物そっくりの肖像として描き込まれています。

参列者の中には、注文主の司祭ヌニェスの姿もあり、手前で読んでいる司祭がそれにあたると考えられています。また、左端で灰色の修道服を着た聖人風の人物の足元には、小さな少年がこちらを見上げていますが、この少年はエル・グレコの息子ホルヘ・マヌエルの肖像とされ、その少年の帽子にはグレコのサインと制作年が書き込まれています。

地上の人物たちは、衣装や表情が非常に写実的で、光沢のある質感やレースの細部まで緻密に描かれています。その一方で、顔つきはやや引き伸ばされ、長い指と細い手が印象的で、すでに彼特有のマニエリスム風の歪みも感じられます。

この「リアルな集合肖像」としての側面が、当時から大きな人気を集めました。16世紀末の記録には、トレドの人びとがこの絵を見にサント・トメ教会に押し寄せたと書かれており、地元の名士がどこに描かれているかを探すのがひとつの楽しみだったようです。

ぬい
ぬい

地元民からしたら、“有名人ウォーリーをさがせ!”みたいな楽しみ方もできたんだね。

うん。信仰の物語+当時のトレドの“顔写真名鑑”っていう二重の役割を果たしてたわけだね。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

天上の場面:ねじれた人体と光に満ちた霊的世界

画面上半分は、地上の葬儀を見守る天上界の光景です。中央には白い衣をまとったキリストが座し、その左に赤と青の衣の聖母マリア、右には痩せた身体の洗礼者ヨハネがひざまずくように配置されています。彼らを中心に、使徒や聖人たちが渦を巻くように集まり、空間はぐっと圧縮されています。

マリアの足元あたりからは、オルガス伯の魂を象徴する小さな白い人物が、天使に導かれて上へと引き上げられています。グレコは魂を「新生児のような存在」として描き、アウグスティヌスの霊魂観と結びつける解釈も提示されています。

天上界の人物たちは、現実的な重力から解放されたかのように、細長く引き伸ばされ、体のねじれも極端です。雲は細い帯のようにうねり、色は青、灰色、黄緑、黄色などが入り混じり、境界があいまいになっています。この独特のフォルムと色彩は、グレコがギリシャで学んだビザンティン・イコンと、ヴェネツィア絵画の光の表現、マニエリスムの誇張表現を融合させた結果だと考えられています。

地上の写実的な描写との対比により、天上界は「触れられない、しかし確かに存在する別世界」として浮かび上がっています。地上の人物の視線の多くが上方へ向けられているため、見る側の視線も自然とこの霊的世界へ誘導される構造になっています。

ぬい
ぬい

上の世界、色も形も現実離れしてて、夢の中みたいだね。

でも、下の“リアルな葬儀”とつながってるから、ただの夢じゃなくて“信仰のリアリティ”として感じられるんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

エル・グレコらしさが詰まった、スペイン美術史のランドマーク

《オルガス伯の埋葬》は、エル・グレコの画業の中でも特に重要な作品とされています。トレドの歴史研究では、「スペイン社会を最も真実味をもって描いた一ページ」と評されたこともあり、スペイン・マニエリスムの最高傑作として美術史に位置づけられています。

ここには、彼の特徴がほぼすべて凝縮されています。
地上の部分に見られる、精密な肖像表現と布地の質感へのこだわり。
天上の部分に現れる、細長い人体と強い色彩、形の歪み。
そして、二つの世界を縦方向の構図と光の流れでつなぐ独自の構想。

この一枚をきっかけに、エル・グレコはトレドで「宗教画の第一人者」としての評価を確立し、晩年にかけてますます抽象度の高いビジョンを描いていくことになります。

トレドのサント・トメ教会を訪れると、今も礼拝堂の壁いっぱいを占めるこの作品が、観光客だけでなく地元の人びとにも信仰の対象として大切にされている空気を感じることができます。絵画としての独創性と、地域の記憶・祈りを支える役割が、500年近く経っても同時に生き続けている稀有な例だと言えるでしょう。

ぬい
ぬい

エル・グレコってクセ強いイメージだったけど、この一枚に全部凝縮されてる感じがするね。

うん。この作品を押さえておくと、エル・グレコの“地上と天のあいだを描き続けた画家”っていうイメージが一気につかめると思う。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク

おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。


まとめ

《オルガス伯の埋葬》は、単なる歴史画でも宗教画でもありません。
地上の葬儀と天上の救いという“ふたつの世界”を一枚の中に重ね、人は死後どうなるのか、救いとは何かという普遍的な問いを、誰も真似できないエル・グレコ独自のビジュアルで形にした作品です。

地上には、重厚な金糸の法衣と写実的な人物たちが並び、天上には、引き伸ばされた身体と発光する色彩で描かれた霊的な空間が広がります。
この対比は、“現実世界の重み”と“神の世界の軽やかさ”がぶつかり合うような緊張感を生み出し、
絵を見る私たちを自然と上へ上へと導いていきます。

さらに、この作品が地域社会の依頼で制作され、墓地の礼拝堂という「実際の死と向き合う場所」に飾られたことも重要です。
絵は単なる鑑賞物ではなく、トレドの信徒たちが死者を送り届ける儀式の中で“本当に機能していた”宗教イメージでした。

だからこそ500年近く経った今でも、この絵の前に立つと、どこか胸がざわつき、「救いとは何か」という問いがひっそりと心に浮かぶのだと思います。

ぬい
ぬい

なんか、この絵って“美術作品”っていうより、祈りのための道具だったんだって思うと見え方変わるね。

そうそう。グレコの霊的な光の描き方って、ただの技術じゃなくて、本気で“向こう側”を描こうとしてた気配があるんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました