ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
『赤い帽子の娘』は、その作風とは一線を画す“異色作”として知られています。
小さな板に描かれたこの肖像風の絵は、鮮やかな赤と青の対比、そして強い視線が印象的です。
しかし一方で、「これは本当にフェルメールの作品なのか?」という真作性をめぐる議論も存在してきました。
この記事では、作品の特徴、構図や色彩の意味、真贋に関する見解までを、初心者にもわかりやすく解説していきます。

真作性をめぐる議論!?
作品基本情報

タイトル:赤い帽子の娘(Girl with the Red Hat)
制作年:1665〜1666年頃
サイズ:22.8 cm × 18 cm(小品)
技法:油彩/板(キャンバスではなく木の板)
所蔵先:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(アメリカ・ワシントンD.C.)

小さいね
・鮮やかな赤い帽子をかぶった少女が、ふとこちらに目を向ける小品。
・ざっくりとした大胆な筆遣いと、光の効果が実験的に使われている。
・フェルメールの作品の中でも、特に親しみやすく、生き生きとした印象を与える一作。
・本当にフェルメールの作品かの議論が今でも続いている
作品概要|鮮烈な赤が印象に残る肖像画

『赤い帽子の娘』は、フェルメールの現存する数少ない肖像風作品のひとつで、
ほかの室内画とは異なる、強い色彩と大胆な構図が印象的な作品です。
鮮やかな赤い帽子、大ぶりの真珠のイヤリング、青いローブ――
この一枚は、フェルメールが色彩と光の効果を探求した“実験的作品”とも言われています。
見どころ|光・色彩・視線
赤と青の対比

帽子の赤と上着の青の強いコントラストが、人物を印象づけています。
特に帽子には太い筆使いが見られ、フェルメールには珍しい即興的な筆致も注目点です。
正面からの視線
モデルの少女はやや首をかしげながら、正面からまっすぐこちらを見つめており、
鑑賞者との距離をぐっと縮める親密な視線が画面に強い印象を残します。
光の扱いと反射
左からの光が顔や真珠に反射し、細やかな質感描写とともに、フェルメールの光の観察眼が感じられます。

この子、すごく近くにいるみたいな感じがして…目が合ってるって思っちゃった!
豆知識|モデルは誰?作品の位置づけは?
モデルの少女については記録が残っておらず、名前や背景は不明。
そのため、理想化された肖像またはトローニー(習作風人物画)であると考えられています。
本作はキャンバスではなく板に描かれており、サイズも小さいことから、
正式な依頼による肖像画ではなく、私的・実験的な作品であった可能性が高いとされています。
「赤い帽子の娘」というタイトルも後世の仮題で、フェルメール自身が名付けたものではありません。

この子がだれか分からないままなのも、ちょっと物語っぽくていいなあ…
フェルメールの作品かどうか? 真作性をめぐる議論
『赤い帽子の娘』は長らくフェルメールの真作とされてきましたが、
その真贋については一部の研究者の間で議論の対象となってきました。
主な理由:
他の作品と比較してタッチが粗い
特に赤い帽子の部分はフェルメールにしては筆致が大胆で、即興的な印象が強いため、
「模倣ではないか?」という疑問を持たれたことがあります。
支持体が木の板であること
フェルメール作品の多くはキャンバスに描かれているのに対し、本作は板絵。
そのため、「習作やトローニー(見本的な人物画)」としての私的な制作だった可能性が指摘されています。
科学調査ではフェルメールと一致する点が多い
一方で、顔料分析やX線調査では、フェルメールが他作品で使用したウルトラマリンや鉛白などと一致する画材が確認されており、
現在では多くの美術館や専門家がフェルメールの真作であると認定しています。

すこし荒っぽく見えるのも、“ためしに描いてみた”って感じがして逆におもしろいかも…!
議論はあるが、ほぼ真作と見なされている
現在では、ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(所蔵館)をはじめ、
国際的なフェルメール研究者の大多数がこの作品を真作と認めており、
“フェルメールの色彩と構図実験の一例”として高く評価されています。
フェルメールらしさと“異色”が同居する作品
『赤い帽子の娘』は、通常の室内画とは異なる要素を持ちながらも、
やはりフェルメールらしい光・静けさ・人物の深みが詰まった一枚です。
小さなサイズで大きな印象
わずか20cmあまりの作品ながら、人物の存在感は強く、視線を引きつけます。
柔らかくも緊張感のある空気
表情に大きな動きはないものの、正面からの視線や赤のインパクトによって、
絵に緊張と余韻が共存しています。
まとめ|フェルメールが描いた“最も身近なまなざし”
『赤い帽子の娘』は、フェルメールの作品の中でも異色の存在です。
大胆な色使いと構図、そしてこちらをじっと見つめる少女の姿から、
画家とモデル、そして鑑賞者の視線が交差する、特別な一瞬が浮かび上がります。
この小さな絵が放つまっすぐな視線に、あなたは何を読み取りますか?