神話や美術の世界でしばしば目にする、翼のついた帽子と杖を持った青年神――それがヘルメスです。
ギリシャ神話において、ヘルメスは神々の使者であり、旅人・商人・詐欺師・死者の魂の案内人など、多彩な顔をもつ“境界の神”として登場します。
彼はオリンポス12神のひとりで彼の持つ「杖(カドゥケウス)」や「翼のあるサンダル」、そしてブランド「エルメス」との関係は、知れば知るほど奥深く、
西洋美術や図像の読み解きにも大きく関わってきます。
本記事では、ギリシャ神話のヘルメスとは何者か?という問いを軸に、
彼の役割、象徴、登場神話、美術作品での描かれ方、そして意外な雑学まで、どこよりも詳しく徹底的に解説します。

仕事人って噂を聞いているけど、実際どうなんだろう!
ヘルメスとは?神話の中のプロフィール

- ローマ神話名:メルクリウス
- 英語読み:マーキュリー
- 役割: 商業、旅行、伝令の神
- 特徴: 俊敏さと知恵を持つ。死者の魂を冥府へ導く。
- 象徴: 翼付きの帽子と靴、ケリュケイオン(ヘルメスの杖)
- 物語: トロイア戦争の際に偽りの夢を送った。
ヘルメスは、全知全能の神ゼウスと、プレイアデス七姉妹の一人マイアの間に生まれました。
誕生直後に牛を盗み、アポロンをだまし、リラを発明するなど、知恵と狡猾さ、機転を兼ね備えた神として登場します。
ヘルメスの役割一覧
- 神々の使者(メッセンジャー)
- 境界・通行の守護者(旅人、門番、道路標)
- 商業・富・詐欺・雄弁の守護神
- 死者の魂を冥界へ導く者(サイコポンポス)
- 幼児・家畜・運動・競技の守護

「これ一人で担っていいのか?」と突っ込みたくなるほど多機能な存在ですが、どの役割にも共通しているのは、“境界を越える者”という性格です。
ヘルメスのアトリビュートとその意味|図像で見分けるポイント
カドゥケウス(ケーリュケイオン)

蛇が2匹巻き付いた翼付きの杖。平和・中立・交渉の象徴。
現代では医療マークとして誤って使われることも。

翼のついた帽子(ペタソス)

旅の神を象徴する広いつばの帽子。機敏さと空間的自由の暗示。
翼のサンダル(タラリア)

神々の中でも最速で移動できる者としてのアイコン。
足元に小さな羽が描かれることが多い。

これらが描けれている=ヘルメスの可能性は高いけど
これらが描かれていない=ヘルメスではない場合もあるので注意!
美術作品に見るヘルメスの姿
西洋美術においてヘルメスは、神話のエピソードだけでなく、象徴的・寓意的に描かれることも多い神です。ここでは、時代ごとの代表作を通じて、彼がどのように視覚化されてきたかを見ていきましょう。
エイブラハム・ホンディウス『メルクリウスとアルゴス』

変身させられたイオを救うため、アルゴスを眠らせ、命を奪おうとするヘルメス。
ここでは暴力と知恵、任務遂行の冷徹さが描かれる。
ルーベンス《メルクリウスとアルゴス》

イオを見張る百目の巨人アルゴスを、ヘルメスが眠らせ命を奪う場面です。
ルーベンスらしいダイナミックな筆致で描かれたこの場面では、ヘルメスは神の任務遂行者として冷静かつ強靭です。杖と翼の帽子、サンダルなど典型的なモチーフも登場し、図像学的にも非常にわかりやすい作品です。
また、ルーベンスはこの主題で「知恵と力の融合」を強調しており、神話解釈の深みに美術表現が重なっています。
ドナート・クレティ『メルクリウスとパリス』

トロイア王子のパリスとメルクリウス(ヘルメス)が描かれています。
パリスの審判の一幕ですね。

パリスと女神たちのケンカの間に入って…なんだか気の毒だよね。
でも、あの場面がなかったらトロイア戦争もなかったし、西洋美術の名画もずいぶん減ってたかも?
「話をつなぐ神」として、いちばんドラマを動かす存在だったんじゃないかな。
寓意画におけるヘルメスの“顔”
ヘルメスは単なる神としてだけでなく、“商業”や“雄弁”“取引”“移動”などの抽象概念の象徴としても登場します。たとえば17〜18世紀の寓意画では「富と幸運」を象徴する女性の横にカドゥケウスがあることや、「外交」や「説得」を擬人化した人物がペタソスをかぶっていることが多いです。
こうした表現を読み解けるようになると、西洋絵画の背景にある“教養”がどんどん見えてきます。

読み解けたときのレベルアップ感がたまらん。
現代アートにおけるヘルメスの再構成
近現代では、ヘルメスの「移動性」「境界性」を再評価する形で、抽象芸術や概念アートの中にその名残が登場します。
特に「情報を運ぶ存在」「翻訳する存在」として、ヘルメスはメディア論や記号学的な象徴としても扱われています。
ヘルメスを探すときの美術鑑賞ポイント
表情は冷静か?柔らかいか?それによって「任務遂行中」なのか「育成・交渉中」なのかが読み取れる
帽子・サンダル・杖の3点セットがあるかどうか
他の人物との“力関係”や“役割”に注目(使者?殺し屋?教育者?)

こういうときに先述した「アトリビュート」が役立つよ
ヘルメスという神の本質とは?
神々の命令を地上に伝える一方で、盗みや嘘、反抗も辞さない。
ヘルメスは、“規範と逸脱”“秩序と自由”のはざまを行き来する神です。
その性格は、神話を超えてさまざまな思想や芸術に影響を与えました。
ヘルメスと解釈学(hermeneutics)
「hermeneutics(解釈学)」は、文字通りヘルメスの名に由来。
意味を“運ぶ”=意味の橋渡しをする神として、後世の哲学や神学にその姿を残しました。

解釈学って学問を今知ったよーってひと―?
他神との比較で見るヘルメス
比較対象 | 違い・対比 |
---|---|
アポロン | 音楽・理性 vs 詐術・自由(でも兄弟で協力も) |
アテナ | 静的な知恵 vs 動的な知恵・機転 |
ディオニュソス | 集団的陶酔 vs 個人的奔放 |
聖書の天使(ガブリエルなど) | どちらも神のメッセンジャー。ただし性質と倫理観は対照的。 |
豆知識・トリビア
現代の医療マークには「アスクレピオスの杖」が正しいが、しばしばヘルメスのカドゥケウスと混同されている。


また、高級ブランド「エルメス(Hermès)」の名は、創業者の姓が由来で、神話のヘルメスとは直接関係しない(が、イメージは重なる)
おすすめ書籍
下記記事でギリシャ神話を学ぶ上でおすすめの書籍を紹介します。

リンク飛ぶのめんどくさい人向けにここでも紹介!
どちらもわかりやすくて初心者から上級者までおすすめの本です。
おわりに
ヘルメスは、単なる“神々の配達員”ではありません。
神と人、秩序と混沌、境界と移動、そのすべてを内包する流動的な神です。
次に美術館で彼の姿を見かけたら、帽子と杖だけでなく、その描き方の意図まで読み解いてみてください。

ヘルメスって、頭もキレるし足も速いし…ずるい!
でも一番人間っぽくて、感情移入しやすい神だと思うよ。
美術作品で見かけたら、ぜひ足元と帽子をチェックしてね。