同じ構図でも、時間をおかずにもう一度描くと表情が変わります。アムステルダム版は、アルルの夏に生まれた十五輪を翌年の初めに描き直した一本。黄色の響きはそのままに、明度の設計と輪郭の整理が進み、画面全体に落ち着いた均衡が生まれています。
本記事では、制作背景・構図と色の仕組み・ロンドン/東京との違い・見分け方・鑑賞のコツまで、初めての方にも分かりやすく整理します。
ゴッホの《ひまわり》一覧!全部で何枚ある?どこで鑑賞できる?

黄色まみれなのに、ちゃんと見えるの不思議。
“設計”が強いと、同系色でも立つんだよ。

《ひまわり》(15本)アムステルダム
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:ひまわり(十五輪)/Sunflowers
制作:1889年1月・アルル(1888年作の再制作)
技法/サイズ:油彩・カンヴァス、約 92 × 73 cm(30号前後)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
識別のヒント:背景・卓・花瓶が黄系で統一/花の中心は黄土〜褐の落ち着き/全体に設計が整って見える一本

キーワードは“落ち着き”。それで覚える。
ナイス。視線の流れがスムーズなのも特徴だよ。

制作背景|“黄色い家”の連作を、翌年に再設計

アルルでゴッホは、来訪予定のゴーギャンを迎えるため《ひまわり》で黄色い家の部屋を飾る計画を立て、1888年8月に《三輪》《五輪》《十二輪》《十五輪》を一気に描き上げました。
手応えのあった構図は同サイズで描き直すのがゴッホ流。1889年1月の本作は、ロンドン版の設計を明度と輪郭の面で整え直した“別テイク”といえます。

勢いで作った曲を、翌月スタジオで録り直すイメージ。
まさにそれ。テンポと音量を最適化してる。

構図|円・楕円・水平線の三重奏、より見通しよく

- 円(花頭):大小の円が渦状に配置。右上〜中央〜左下へ視線を回します。
- 楕円(花瓶):下部で重心を支える土台。
- 水平線(卓の端):低く一本引かれ、画面の安定を作ります。
アムステルダム版は、花の重なりの隙間がロンドンよりわずかに広く、視線が渋滞せず巡回します。

確かに“抜け”があるから、長く見てても疲れない。
見通しの良さは再制作の成果だね。

色と光|黄の三層+“休符色”で、まろやかな発光
画面は黄の階調で統一されていますが、単調にならないのは、
- 淡い黄(背景・卓の基調)
- 中庸の黄土(花や花瓶の大部分)
- 深い黄褐(花頭の中心や陰の役)
に分け、そこに緑や青、赤褐色を“休符”として点在させているからです。ロンドンより黄土域が厚く、まろやかな発光に感じられます。

黄の中に小さく入る緑と赤、あれが効いてるんだね。
うん。休符があるから長い旋律でも心地いい。

筆致と絵肌|熱量は残しつつ、輪郭のキワを整える
花頭は放射状の短いストロークで“種のざらつき”を触覚化。花弁は厚塗り(インパスト)で反り返りを立ち上げます。
本作は、ロンドンに比べて輪郭の整理が効き、ストロークの間合いが落ち着いて見えます。そのため、近寄ると手仕事の熱、離れると構図の安定という二つの顔を楽しめます。

近くは熱、遠くは安定。二度おいしい。
そのギャップが“再制作らしさ”なんだ。

ロンドン/東京との違い
- ロンドン(1888):黄の設計が鋭く明るい—“光源”のような眩さ。

東京(1888末〜89初):黄に黄緑の気配。差し色の赤も目に残る、呼吸感のある明るさ。

- アムステルダム(1889):黄土域が厚く、輪郭と明度が整い、落ち着いた均衡。


三兄弟で“眩い/やわらかい/整った”って覚えるわ。
その見分け、実戦で役立つよ。

見分け方チェックリスト

- 花は十五輪/背景・卓は黄で統一
- 花瓶の胴に**“Vincent”**の署名
- 全体に黄土〜褐の中域が効き、落ち着いたトーン
- 視線の通りがよく、抜けのある配置

“十五輪+黄一色+落ち着き”でピンと来たらアムス!
あとはサインと視線の抜けで確信を持とう。

よくある質問(FAQ)
Q. これは“コピー”ですか?
A. ゴッホ自身が同サイズで描き直した再制作です。単なる複写ではなく、明度や輪郭の最適化を狙った“別テイク”。
Q. なぜ枯れかけの花が混ざるのですか?
A. ひとつの花瓶に時間の層(生・盛り・衰え)を同居させ、静物に物語を与えるためです。
Q. どこで見られますか?
A. アムステルダムのファン・ゴッホ美術館。展示替えがあるため、来館前に最新情報をご確認ください。

時間を一枚に詰める、何度聞いてもしびれる発想。
静物なのに“時間画”。そこが《ひまわり》の核心さ。

LEGOにもなっている
《ひまわり》は美術館での展示だけでなく、現代のカルチャーにも取り入れられています。その象徴的な例が、LEGOセットになったことです。
ゴッホの代表作として世界中で認知されているため、アートファンだけでなく子どもや一般の人々にも親しまれる存在となりました。
LEGO化された《ひまわり》は、ブロックの質感が絵画のタッチをユーモラスに表現しており、遊びながら名画を体験できるユニークなプロダクトです。アートがインテリアやホビーの領域まで浸透していることを示す好例といえるでしょう。

ひまわりがLEGOになっちゃうなんて、やっぱりゴッホすごいな!子どもから大人まで楽しめるのがいいね。
もともと強い色と形が特徴だから、ブロックとの相性は抜群なんだよ。飾っても映えるしな!

おすすめ書籍
「ゴッホについて本で学びたいけど、どんな本が自分に合っているのかわからない」そんなお悩みを持つあなたへ贈る、ゴッホ入門編の本をご紹介します!Top5は別記事で紹介しています。
【関連記事】
・ゴッホの本ランキング!初心者におすすめのわかりやすい5選!
まとめ
アムステルダム版《ひまわり(十五輪)》は、熱を残したまま整えた1889年の再制作。ロンドンの眩しさ、東京のやわらかさと比べると、均衡のとれた明るさが際立ちます。
三作を行き来しながら「色の設計」と「視線の巡回」を味わうと、ゴッホが部屋そのものを光で満たそうとした意志が、手触りを伴って立ち上がってきます。
【関連記事】
・ゴッホの人生を年表で徹底解説!作品と出来事からたどる波乱の生涯
・ゴッホのアルル時代完全解説!耳切り事件と《ひまわり》誕生の背景