ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
その中でも『合奏』は、音楽をテーマにしながらまったく音のしない空間を描いた、不思議な魅力を持つ一枚です。
描かれているのは、楽器に向き合う3人の男女。けれど視線は交わらず、音も動きも感じられない――
その沈黙の中にこそ、関係性・緊張・期待といった“見えない物語”が静かに漂っています。
この記事では、フェルメールの『合奏』について、構図・象徴・空気感などを初心者にもわかりやすく解説。
また、現在この作品が抱える特別な背景(盗難)についても触れながら、その意味を丁寧にひもといていきます。

音楽の絵”なのに、しーんとしてる。だけどその“しーん”が気になるの…なんでだろうね?
作品基本情報

タイトル:合奏(The Concert)
制作年:1664年頃
サイズ:72.5 cm × 64.7 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:所在不明

音は出てないのに、“このあと鳴りだす”感じがしてソワソワしちゃう…!
・若い男女が音楽を奏でる、静かで親密なひとときを描いた作品。
・フェルメール特有のやわらかな光が、室内に静かな緊張感をもたらす。
・現在は盗難に遭い、行方不明となっている幻の名作。
作品概要|3人の沈黙が語る、心の音楽

『合奏』は、ヨハネス・フェルメールによる音楽をテーマとした室内画のひとつで、
男女3人が静かに音楽を奏でる、あるいは始めようとする場面が描かれています。
描かれているのは、
ヴァージナルを弾く女性

男性

作品に描かれている中央の男性は、椅子に腰掛け、女性たちと一緒に演奏に加わっていると考えられる人物です。
彼の膝上あたりに暗い色の物体が描かれており、かつて多くの研究者はそれを「リュート」だと解釈していました。
ただし、この部分は陰影が強く描き込みも細かくないため、リュートであると断定できる明確な形状が見えにくいのです。
一部の専門書では「リュート」として紹介されていますが、
他の研究では“楽譜かもしれない”“手ぶらで歌っているかもしれない”という説もあり、確定ではありません。
このような不確かな要素も含めて、フェルメール作品の“読みの余地”とされることもあります。

なるほど、難しい
歌おうとしている、または聴いている別の女性

誰も観客と目を合わせず、会話も感情も描かれていないのに、
その空間には張りつめた空気と、共鳴しあう気配が静かに流れています。
見どころ|構図・小道具・表情の“距離”
三角形の構図と距離感

人物たちは三角形をなすように配置され、互いの距離も微妙にあいています。
これは“親密さ”よりも“緊張と集中”を強調しており、共演者としての関係性を示唆しています。
背景の絵画(キプロスのヴィーナス)

背後にはティツィアーノ風の絵画が掛かっており、
神話上の恋愛や誘惑を暗示することで、この空間に潜む男女の気配に複層的な意味を与えています。
衣装と道具の細密描写

楽器、家具、カーペット、女性のドレスの質感に至るまで、
当時の富裕層の生活をリアルに再現した写実性もフェルメールならではの魅力です。

“演奏してるのに会話してない”って、なんだか意味深な関係…気になる…!
豆知識|盗まれたフェルメール
『合奏』は、1990年にイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から盗まれた13作品のひとつです。
これは美術品盗難事件として史上最大規模のもののひとつで、今なお未解決。
そのため現在は、原画を観ることができず、写真資料や調査記録のみが頼りとなっています。

いまはもう見られないなんて…
フェルメールさんの音が、どこかでひっそり鳴ってるといいなあ…
フェルメールらしさ|音のない音楽、感情のない感情
フェルメールはしばしば音楽を題材にしていますが、
演奏の“音”ではなく、音楽が流れる“空気”や“間(ま)”を描くことに長けていました。
感情をあらわにしない登場人物
表情は抑えられていて、むしろ鑑賞者が感情を読み込む余地が残されています。
沈黙の重さを描く構成
3人の間に生じる沈黙や気配の交差は、視覚的なリズムとして絵の中に響いています。
絵の中の“見えない音”
リュートやヴァージナルといった楽器の存在は、あくまで音楽の象徴としての記号であり、
実際には、“いまにも始まりそうな静けさ”を描いた作品といえるでしょう。
まとめ|“失われた名画”が今も語りかけるもの
『合奏』は、目の前で何かが起きているわけではありません。
けれどそこには、3人の間に流れる緊張・関係・期待といった、言葉にならない物語が詰まっています。
残念ながら原画は盗まれたままですが、
この作品が今も語り続けている“音のない音楽”を、心で聴いてみてください。