ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
『中断された音楽の稽古』は、その名の通り“何かが止まった”瞬間を捉えた、不思議な緊張感を持つ一枚です。
淡い光が差し込む室内で、若い女性が演奏をやめ、ただ静かに立つ男性の前に座っています。
この沈黙の中に、音楽以上に雄弁な物語が流れているかのようです。
本記事では、この作品の構図・モチーフ・人物配置などを、初心者にもわかりやすく解説。
フェルメールならではの「語らないことで語る」美学を丁寧に読み解いていきます。

「音が止まったはずなのに、心の中でなにかが響きつづけてる気がするんだ…
作品基本情報

タイトル:中断された音楽の稽古(The Interrupted Music Lesson)
制作年:1658〜1659年頃
サイズ:39.4 cm × 44.5 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:フリック・コレクション(アメリカ・ニューヨーク)

ほんのちょっと手が止まってるだけなのに、“何かあったの…?”って気になるよね
・音楽のレッスン中、ふと手が止まった瞬間を描いた室内画。
・師弟らしい二人の間に流れる、微妙な緊張感がリアル。
・フェルメールらしい光と静けさの魔法に包まれた一枚。
作品概要|音楽の“間”に潜むドラマ

『中断された音楽の稽古』は、フェルメール中期の作品で、
彼が得意とする静謐な室内空間と登場人物の微妙な関係性が丁寧に描かれています。
画面中央にはヴァージナル(鍵盤楽器)に向かう若い女性。
その隣には男性が立ち、視線を彼女に向けています。
演奏は一時中断されており、その沈黙の空気こそが、この作品の最大の魅力です。
どこを見たら面白い?|構図・視線・象徴に注目
女性の姿勢と視線

フェルメールの《中断された音楽の稽古》に登場する若い女性は、鑑賞者のほうをまっすぐ見つめているように描かれています。
男性と視線を交わしているわけではなく、第三者である私たちを巻き込む視線とも解釈できます。
視線はやや伏せがちに見えるかもしれませんが、実際には前方をしっかりと見据えている構図です。
この視線は、鑑賞者と直接“目が合う”ような構図になっており、場面の静寂を破るような緊張感や、沈黙のなかでの“気配”のやりとりを演出しています。

見られてる気がしてドキッとしちゃったよ…
まるで“何を見てるの?”って聞かれてるみたい!
男性の立ち位置と役割

男性は女性の左手側、少し奥に立つように配置されています。彼の姿勢は直立で、やや体を女性の方に向けつつ、視線を注いでいるように見えます。
手にしているのは何らかの楽譜か紙で、音楽の指導者、あるいは付き添いの立場とも解釈されてきました。
この位置関係により、二人の距離感にはある種の緊張や間合いが漂っており、観る者は「会話があったのか?」「何が中断されたのか?」という想像をかき立てられます。

声をかけようとしてるのか、ただ見守ってるのか…
ふたりの空気がすごく繊細なんだよね
象徴的なモチーフたち

テーブルのワイン瓶や音楽の道具は、17世紀絵画において恋愛や誘惑の暗示とされることが多く、
この場面も単なる音楽の稽古ではない、感情的な駆け引きの一瞬を捉えていると考えられています。

恋のにおいがするぞ
フェルメールらしさ|“語らないことで語る”技法
この作品ではフェルメールの代表的な技術や作風が凝縮されています。

自然光の魔法
左の窓から入る光が、人物や壁、家具にやわらかな陰影をつくり、室内に空気感を生み出します。
空間構成の巧みさ
奥行きのある部屋の構図と、人物・調度品の配置が完璧にバランスされており、視線が自然に動く設計になっています。
沈黙の演出
顔の表情もセリフもないこの絵が、ここまで雄弁に感情を語るのは、フェルメールならではの静謐の力です。

フェルメールさんって、“だまってる空気”を描くのがうますぎる…!
豆知識|音楽と恋愛が象徴するもの
本作に描かれている楽器(ヴァージナル)やワインの瓶は、17世紀のオランダ絵画においてよく使われた「恋愛」や「誘惑」の象徴とされるモチーフです。
しかし、フェルメールはそれらを劇的ではなく、抑制された空気の中で描写しており、
単なる寓意画というよりも、感情の余白を感じさせる詩的な表現がなされています。
また、本作には背景に寓意的な絵画や人物の登場がないため、フェルメール作品としては珍しく、非常に簡潔で静かな構成になっています。

あえて“なにも描かれてない”ことで、想像する余地が広がってるのかもね…!
まとめ|“中断”の中に宿る物語を聴く
『中断された音楽の稽古』は、
演奏されていない音、交わされていない言葉、語られない心の動き──
そうした「欠けているもの」の中に、フェルメール独自の物語と美が込められた作品です。
この絵の前に立つと、まるでこちらまで演奏の続きを待たされているような気分になります。
ぜひあなたも、この一瞬の「間(ま)」に流れる音や感情を、心で聴いてみてください。