ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
その中でも『音楽の稽古』は、構図の美しさと“鏡の使い方”が光る傑作です。
ヴァージナルに向かう女性と、それを見守るように立つ男性。
部屋に満ちる静けさの中で、ただひとつの鏡が、見る者にもうひとつの視点=感情のヒントをそっと差し出します。
本記事では、『音楽の稽古』の魅力を初心者にもわかりやすく解説しながら、
フェルメールが仕掛けた鏡の構図、光の使い方、そして沈黙の物語を一緒に読み解いていきましょう。

鏡の中の“ほんとの顔”が見える感じがして…
なんだかちょっとドキッとしたよ
作品基本情報

タイトル:音楽の稽古(The Music Lesson)
制作年:1662〜1665年頃
サイズ:74.6 cm × 64.1 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:バッキンガム宮殿(ロイヤル・コレクション、イギリス)

“音がしない”絵なのに、こころに音楽がきこえてくる気がするよ…!
・若い女性が音楽の先生と向き合う、静かなレッスンの場面。
・控えめな視線や緊張感のある空気に、微妙な心理がにじむ。
・柔らかな光が、室内の空気まで感じさせる名作。
作品概要|フェルメールが描いた“静かな緊張”

『音楽の稽古』は、フェルメールが最も得意とした室内空間・人物・自然光の描写が見事に調和した作品です。
楽器(ヴァージナル)を前に座る若い女性と、隣に立つ男性──
2人は直接視線を交わしていないようでいて、室内には微妙な緊張感と親密さの気配がただよっています。
この絵は「誰と誰が、どんな関係で、なにを思っているのか?」という想像を刺激しながら、
フェルメールらしい“沈黙のドラマ”を描き出しています。
見どころ|構図・視線・光と陰影
鏡に映る女性の顔

女性は正面を向いておらず、唯一その顔がはっきり見えるのは、背景の鏡に映る姿。
鏡に映る視線からは、意識の動きや感情の気配を読み取ることができます。
男性の位置と役割

男性はヴァージナルを弾く女性の傍に立ち、譜面に目をやっているように見えます。
彼が教師なのか恋人なのか、明確な答えは描かれていませんが、
その曖昧さこそが、見る人に“想像の余地”を残す魅力となっています。
左から差し込む自然光

フェルメールが多用する左側からの光源が、この絵でも効果的に使われており、
人物や室内の質感をやさしく、かつリアルに表現しています。

鏡にうつる顔って、なんでこんなに気になるんだろう…ほんとうの気持ちがかくれてるのかな?
豆知識|イギリス王室所蔵のフェルメール
『音楽の稽古』は現在、イギリス王室が所有するロイヤル・コレクションの一部です。
エリザベス2世の時代から保管されており、バッキンガム宮殿で展示されることもあります。
19世紀には英国の収集家チャールズ・セント・ジョンによって取得され、
フェルメールが広く再評価されるきっかけとなった重要な1枚でもあります。
作中のヴァージナル(鍵盤楽器)やタイル張りの床、鏡、カーテンなどは、
フェルメールが繰り返し描いたモチーフであり、オランダの家庭的文化と密接に関係しています。

この絵、むかしイギリスで“あやしい作者の絵”って思われてたなんてビックリ…!
フェルメールらしさ|音のない“心の音楽”
『音楽の稽古』には、典型的なフェルメールの特徴が詰まっています。
演奏中ではなく“稽古中”
音楽を描くのに、演奏の最中ではなくその途中・準備・余白を描くのがフェルメール流。
それにより、人物の内面や空気感が前面に出てきます。
画面の“沈黙”が雄弁に語る
台詞も感情も描かれていないようでいて、見る人の心の中で、
さまざまなドラマが立ち上がってくるような構図と演出がなされています。
写実を超えた空気の表現
遠近感・光の拡がり・人物の自然なポーズなどが組み合わさり、
実際にその部屋に“入ってしまいそう”な没入感を生み出しています。

音が鳴ってないのに、なんだか“気まずい音”とか“うれしい音”が聞こえる気がするの、ふしぎ…!
まとめ|フェルメールが描く“見えない関係”
『音楽の稽古』は、派手な動きも明確な物語もありません。
けれど、部屋の空気、視線、鏡、そして楽器が織りなす静かなやりとりから、
私たちの想像を刺激する“関係の絵”として今なお高く評価されています。
「何を教えているのか?」「どんな気持ちなのか?」「この後どうなるのか?」
そんなふうに想像を重ねながら、この絵と向き合ってみてください。