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パオロ・ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》を解説!ドラゴン退治の絵

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初期ルネサンス
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深い青緑色の空の下、白馬にまたがった騎士が、槍で竜を突き刺そうとしています。左側では、王女が竜に細い紐をかけ、まるで犬を散歩させるように落ち着いた様子で立っています。

パオロ・ウッチェロの《聖ゲオルギウスと竜》は、誰もが知るドラゴン退治の場面を描きながら、どこか夢の中のような静けさと、ゲームのステージのような人工的な空間が同居している、不思議な一枚です。

背景には、穴の開いたような黒い洞窟と奇妙な雲の渦が描かれ、地面には四角い芝生のパッチが規則正しく並んでいます。宗教画でありながら、遠近法の実験と幻想的なイメージが組み合わさった、ウッチェロらしい作品と言えます。

ぬい
ぬい

ドラゴン退治なのに、全体的にちょっと静かでシュールなのがクセになる絵だよね。

わかる。なんか“夢で見た戦い”をそのまま描き起こしたみたいな、現実味のなさがいい味出してる。

レゴッホ
レゴッホ
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《聖ゲオルギウスと竜》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

・作品名:聖ゲオルギウスと竜
・作者:パオロ・ウッチェロ(Paolo Uccello, 約1397〜1475年)
・制作年代:約1470年ごろと考えられている
・技法:油彩・キャンバス
・サイズ:55.6×74.2cm
・所蔵:ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
・主題:聖ゲオルギウスが竜を打ち倒し、王女を救う伝説の一場面

ぬい
ぬい

サイズだけ見るとそんなに大きくないけど、画面の情報量がぎゅっと詰まってるよね。

実物はキャンバスならではの質感もあるし、小ぶりなのに存在感ずっしりってタイプの絵だと思う。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

パオロ・ウッチェロを解説!遠近法に取り憑かれた初期ルネサンスの画家

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パオロ・ウッチェロとは|遠近法に取りつかれた幻想派画家

パオロ・ウッチェロは、フィレンツェで活躍した初期ルネサンスの画家です。同時代の記録では、彼が遠近法の研究にのめり込みすぎて、夜通し線を引き続けていたというエピソードが語られています。

パオロ・ウッチェロ《サン・ロマーノの戦い》を解説!ルネサンスの戦闘画

同じく名高い作品《サン・ロマーノの戦い》でも、地面に散らばる槍や武具を遠近法のガイドラインのように並べて、画面の奥行きを強調しています。《聖ゲオルギウスと竜》ではそれほど派手な消失点の演出はありませんが、地面の四角い芝生のパッチや、洞窟から広がる道筋などに、やはり幾何学的な構成へのこだわりが見て取れます。

ただしウッチェロの魅力は、数学的な正しさだけではありません。騎士や竜の姿には、ゴシック風の装飾性や童話のような誇張があり、遠近法とファンタジーが同時に顔を出すところが大きな特徴です。《聖ゲオルギウスと竜》は、そのバランスがとてもよく表れた一作になっています。

ぬい
ぬい

ウッチェロって、頭の中が“方眼紙とファンタジー”でできてる人ってイメージ。

それめっちゃしっくりくる。計算された図形の上に、ちょっと不気味でかわいいドラゴン乗せちゃう感じ。

レゴッホ
レゴッホ
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聖ゲオルギウス伝説のあらすじと絵の場面

この作品が描いているのは、キリスト教世界で広く知られた聖ゲオルギウス(聖ジョージ)の伝説です。

ある町が竜に悩まされ、最初は家畜や財宝で竜をなだめていましたが、やがて差し出すものが尽き、人間を生け贄にすることになります。くじ引きで順番が決められ、ついには王の娘が選ばれてしまいます。王女が竜の住む洞窟へ向かう途中、たまたま通りかかった騎士ゲオルギウスが事情を聞き、竜と戦ってこれを打ち倒し、王女と町を救うという筋書きです。

ウッチェロの絵では、戦いのクライマックスが描かれています。右側で聖ゲオルギウスが白馬に乗り、槍を竜の口元へ突き出しています。一方左側では、王女が竜の首に細い帯をかけ、まるで手なずけた家畜のように扱っています。この「王女が竜を手綱で引く」モチーフは、中世末期からルネサンスにかけて広まった伝統的な図像です。

ぬい
ぬい

王女、めちゃくちゃ落ち着いて竜を散歩させてるのがシュールなんだよね。

たしかに。“え、もう勝つ前提なんだ?”ってくらい、聖ゲオルギウスより冷静に現場を仕切ってる。

レゴッホ
レゴッホ
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不思議な空間構成と「舞台セット」のような地面

まず目につくのが、地面に四角く切り取られた芝生のパッチです。まるで庭園のタイルのように規則正しく並んでいて、自然の草むらというよりは舞台上の装置に近い印象を与えます。これらのパッチは、手前から奥へ向かって少しずつ小さくなっていき、遠近感を視覚的に補強する役割も担っています。

画面左奥には、大きく口を開けた洞窟があり、内部は真っ黒に塗りつぶされています。この暗い穴は、竜が潜んでいた棲み処であると同時に、地の底や異界への入り口を連想させるモチーフです。その手前で竜が頭を垂れて倒れ込むような姿勢をとっているため、「闇から出てきた悪」が今まさに押し戻されようとしている構図にも見えます。

右側の空には、渦を巻くような雲が描かれています。渦の中心の「目」が、聖ゲオルギウスの槍先の延長線上に来るように配置されているため、「天からの目」が戦いを見守り、彼の行為に神の承認が与えられているという解釈がされています。

ぬい
ぬい

地面の四角い芝生、どう見ても“スーパーマリオの足場”にしか見えないんだよね。

それな。でもああいう人工的な足場があるおかげで、逆に夢っぽさと遠近感が同時に出てるのがおもしろい。

レゴッホ
レゴッホ
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竜と嵐雲に込められた象徴|「汚染」と「土地の回復」という読み方

この絵の竜は、一般的な西洋ドラゴンに比べてどこかユーモラスです。体は緑色で、背中には穴のあいた羽根のようなひれがつき、頭は犬と爬虫類を混ぜたような形をしています。口からは血がしたたり落ちていますが、全体としては怖ろしいというより奇妙で不気味な存在です。

伝統的には、竜は悪魔や異教の象徴として解釈されてきましたが、近年の研究では、竜を「土地の汚染」や「不毛さ」のメタファーと見る読み方も提案されています。イタリアの研究者エマヌエーレ・ルッリは、この絵を「汚れた土地を浄化し、農作に適した状態に取り戻す」というメッセージを持つ作品として読み解いています。洞窟から湧き出る水や、整然と区切られた畑のような地面が、その解釈を支えているというわけです。

こうした読み方が正解かどうかは別として、竜が単なるモンスターではなく、環境や秩序の乱れを象徴する存在として描かれている可能性は十分にあります。その乱れを正す役として聖ゲオルギウスが登場し、天からの目と一直線につながる槍で「悪いもの」を貫く構図は、視覚的にも非常にわかりやすいメッセージになっています。

ぬい
ぬい

竜=公害とか汚染っていう読み方、意外と現代的でおもしろいね。

たしかに。環境問題版ヒーローものとして見ると、一気に今っぽいテーマに見えてくる

レゴッホ
レゴッホ
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王女の横顔と衣装に見る、当時の“憧れの女性像”

画面左端に立つ王女は、ドラマチックな場面のわりにとても落ち着いた表情をしています。横顔は白く滑らかな肌で描かれ、細い首と高い額、上品にまとめられた金髪が、当時のフィレンツェ貴婦人の理想像をそのまま写したかのようです。

彼女のドレスは、淡いピンクと緑色を組み合わせた優雅な色合いで、長い袖が床近くまで垂れています。これは、実際の上流階級の女性の礼服に近いスタイルで、観る者にとっては「聖人伝説のヒロイン」であると同時に、「街で見かける憧れの美女」とも重なって見えたはずです。

王女が手に持つ紐は、実は腰帯(ベルト)のようにも見えます。伝説では、竜を手なずける紐としてよく描かれるモチーフですが、「女性のベルト」が「暴力的な竜」を制御しているという構図には、柔らかな存在が荒々しいものを抑えるという象徴性も感じられます。

ぬい
ぬい

王女、ファッションだけ切り取ると普通にフィレンツェのオシャレお姉さんって感じだよね。

うん。ドラゴンと並んでるのに、足元の裾とか髪型とか、“今日のコーデ”って言いたくなるくらいちゃんと描かれてる。

レゴッホ
レゴッホ
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ウッチェロの他の作品とのつながりと《聖ゲオルギウスと竜》の位置づけ

《聖ゲオルギウスと竜》は、ウッチェロの晩年にあたる頃の作品で、《サン・ロマーノの戦い》より後に描かれたと考えられています。

《サン・ロマーノの戦い》では、画面全体が騎士と馬で埋め尽くされ、遠近法の線がむき出しになったような構図でしたが、《聖ゲオルギウスと竜》では人物の数を絞り、よりシンプルで寓話的な世界に変わっています。そのぶん、地面のパターンや洞窟の形、雲の渦といった要素に、ウッチェロらしい幾何学性と想像力が凝縮されています。

また、同じ主題を扱った別バージョンがメルボルンのビクトリア国立美術館やパリのジャックマール=アンドレ美術館にも残されており、ウッチェロがこの伝説に何度も取り組んでいたことがわかります。ロンドン版はその中でも最も劇的で、構図が洗練された例とされています。

ぬい
ぬい

同じテーマで何回も描き直してるって、相当このモチーフが気に入ってたんだろうね。

たぶん、“騎士+ドラゴン+遠近法+不思議な背景”って、ウッチェロの好きな要素全部乗せセットだったんだと思う。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ|ドラゴン退治の名場面に潜む、静かな実験精神

パオロ・ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》は、勇者がモンスターを倒すという分かりやすい物語を描きながら、その裏側で遠近法や象徴表現の実験が静かに進んでいる作品です。

四角く区切られた地面、穴のように黒い洞窟、渦巻く雲の目、そして竜を手綱でつなぐ王女。それぞれのモチーフは一見バラバラに見えますが、視線を誘導し、意味を重ね合わせるために細かく計算されています。聖ゲオルギウスの槍先が、竜の口から嵐雲の中心まで一直線につながる構図は、善が悪と汚れを貫き、天と地を結ぶというメッセージを視覚的に伝えています。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーにあるこの絵は、《サン・ロマーノの戦い》と並んで展示されることも多く、ウッチェロの“戦場の遠近法”と“幻想的なドラゴン退治”を見比べることができます。どちらも、数学好きの画家が自分の好奇心をとことん追いかけた結果生まれた、一種のビジュアル・実験室のような作品だと言えるでしょう。

ぬい
ぬい

改めて見ると、子どもの頃に憧れた“勇者とドラゴン”のイメージを、めちゃくちゃ凝ったデザインで描いた一枚って感じだね。

うん。派手なアクションってより、じわっとくる違和感と美しさで勝負してるのが、ウッチェロのオタク魂って感じで好きだわ。

レゴッホ
レゴッホ
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