画面そのものが明るくなる――《ひまわり(十五輪)》ロンドン版は、背景も卓上も花瓶も黄の階調だけで組み上げた、連作の核となる一枚です。黒い影をほとんど使わず、わずかな青や緑を“休符”のように散らして、十五輪の密度をくっきり見せます。
アルルの「黄色い家」を飾るために描かれたこの作品は、同系色で包み込む設計が極まった“決定版”。生気あふれる花と、萎れ始めた花を同じ花瓶に入れ、時間の層まで一枚に同居させています。
本記事では、制作背景から構図と色の仕組み、東京・アムステルダム版との違いの要点、最短距離で解説いたします。読み終える頃には、「なぜこの黄色が心地よいのか」が腑に落ちるはずです。
【ひまわりシリーズ一覧解説記事】
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黄色まみれなのに、ちゃんと見えるの不思議。
“設計”が強いと、同系色でも立つんだよ。

《ひまわり》(12本)
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:ひまわり(十五輪)
制作:1888年8月、アルル
所蔵:ロンドン・ナショナル・ギャラリー
技法/サイズ:油彩・カンヴァス/約 92 × 73 cm(30号前後)
署名:花瓶の胴に**“Vincent”**

サインが画面の“支点”になってて好き。
小さいけど、視線が着地するんだよね。

背景|“黄色い家”を飾る、連作の核心

アルルでゴッホは、友人ゴーギャンを迎えるために家(黄色い家)を花の絵で満たす計画を立てました。8月の短期間に《三輪》《五輪》《十二輪》《十五輪》と一気に描き上げます。
ロンドン版はその中でも、背景まで黄で統一した決定的ヴァージョン。のちに自ら再制作(リピート)も行われ、この設計がいかに気に入っていたかが分かります。

誰かのため、場所のために描いたってとこが効いてる。
目的が明確だと、画面の集中力が上がるんだ。

構図|円と楕円、水平線の三つ巴

円(花頭):大小の円が渦を巻くように配置され、視線が自然に巡回。
楕円(花瓶):下半分でどっしり支える土台。
水平線(卓の端):低い位置で一本引かれ、全体の落ち着きをつくる。
15輪の密度がありながら、一本一本の向き・高さ・咲き具合に段差があり、単調にならないリズムが生まれます。

“丸ばっかり”なのに、ちゃんとメロディがある。
同じ音でも配置で音楽になるんだ。

色と光|黄だけで明暗を作る“設計”
この絵のコアは、黄の三層です。
- 淡い黄(背景・卓面の基調)
- 中間の黄土(花瓶・花の大部分)
- 深い黄褐(種の部分や影の役)
そこにほんのわずかな青や緑、赤褐色が「休符」みたいに置かれています。黒で締めず、明度差と色相差で立体を成立させているため、画面が**“自発光”**して見えます。

休符の色を探すと、黄色がうるさくなくなるね。
休符の色を探すと、黄色がうるさくなくなるね。

筆致と絵肌|触覚を呼び起こすストローク
花頭の中心は短い放射状のタッチで、種のざらつきを“触れる”レベルまで可視化。花弁は厚塗り(インパスト)で反りを出し、輪郭線を控えめに残して形のキワを効かせます。
花瓶は水平気味のストロークで光を受け止め、卓面は四角い小片状の塗りで面の重さを支えます。近寄ると「絵具そのものの光」を実感できます。

近くで見ると、ほぼ彫刻。
絵肌が第二のモチーフってやつだね。

ロンドン版が“決定版”と呼ばれる理由
黄の統一感:背景から卓まで黄で包み込む設計が完成。
明度の設計力:黒なしで明暗を成立させ、画面全体が“光の場”になる。
テンポの良さ:15輪の密度にも関わらず、視線の巡回が淀まない。

包み込まれる感じ、まさに“部屋の絵”だ。
空間を照らす目的が、そのまま画面の性格になってる。

近いヴァージョンとの違い
東京(SOMPO)十五輪:ロンドン構図に近いが、黄〜黄緑寄りの空気感や筆触のスピードが異なる。

アムステルダム十五輪(再制作):構図は近いが、明度設計がやや整理され、縁の扱いなど細部が違う。

ロンドンは高揚感のある明るさ、東京は黄緑が混ざる柔らかさ、アムステルダムは練られた安定――そんな印象で見比べると楽しめます。

同じ十五輪でも“気圧”が違う感じ。
空気の色とテンポの差、要チェックだよ。

よくある質問(FAQ)
Q. どうして枯れかけの花まで混ざっているのですか?
A. ひとつの花瓶に時間の層を同居させるためです。生・盛り・衰えを並置することで、画面に物語が生まれます。
Q. 黄色は当時より変色していますか?
A. 一部の黄色は経年で落ち着く性質がありますが、明度設計そのものが強いため、作品全体の“光”は保たれています。
Q. どこで見られますか?
A. ロンドン・ナショナル・ギャラリー常設コレクションです(展示替え・貸出の可能性あり)。

色が少し変わっても“設計が勝つ”んだな。
芯が強い絵は、時間にも負けないんだ。

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まとめ
ロンドン版《ひまわり(十五輪)》は、黄で世界をつくるというゴッホの挑戦が、もっとも気持ちよく結実した一枚です。対比で押す《十二輪》に対して、こちらは同系色で包み込む設計。
同じ連作の東京・アムステルダム、さらにはミュンヘン/フィラデルフィアと見比べると、《ひまわり》の“音程差”がいっそうクリアに立ち上がってきます。
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まずはロンドンで“黄の場”を体験、からの比較だね。
その順番、理解が一段深くなるよ。
