青緑の背景に、火のようなオレンジの花頭が三つ。重たげなガラスの花瓶は、南仏の光を跳ね返しながら卓上にずっしりと腰を下ろしています。
この《ひまわり》は、アルルで《十二輪》《十五輪》の大作を連続制作する直前に描かれた作品です。色の設計、ストローク、花の配置――後に“黄色の革命”へとつながる要素が、ここでいっせいに立ち上がります。
【ひまわりシリーズ一覧解説記事】
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もう“あの黄色の時代”が始まる直前の空気って感じ。
うむ。ここでギアが一段上がってるのが見えるよ。

《ひまわり》(個人蔵)
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

- 作品名:ひまわり
- 制作年/場所:1888年・夏|アルル
- 技法:油彩/カンヴァス
- サイズ:およそ73×58cm前後(資料により数値差あり)
- 所蔵:個人蔵(一般公開は不定期)
- 関連:同年8月に《十二輪》《十五輪》の大作が続く/翌年に再制作(リピート)作が生まれる

個人蔵なのか。だから“幻の三輪”って言われがちなんだ。
展示は巡回しづらいけど、系譜の中ではすごく重要だよ。

背景|“黄色い家”の装飾を見据えた試運転

アルルに移ったゴッホは、ゴーギャンを迎える準備として部屋を花の絵で満たす計画を立てます。本作はそのウォーミングアップに位置づけられ、花の高さの段差、種のざらつき、反り返る花弁など、後の大作で核になる語彙がすでに採用されています。
パリで身につけた黒に頼らない影の作り方(寒色で明度を落とす)も、青緑の背景にしっかり根づいています。
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ただの“少ない本数”じゃなくて、設計の実地テストなんだね。
そう。三輪だからこそ配置の妙が際立つんだ。

構図|三角と対角線で“ぐるっと回る”視線
三つの花頭はゆるい三角形を作り、右上の一輪が対角線に向けて視線を引っ張ります。左下の二輪は重心をつくり、画面を安定させる役。
花瓶はやや左寄りに置かれ、卓の水平線が低く走ることで、花の量感が持ち上がって見えます。画面内の“空気の余白”は多めで、のちの大作より呼吸が深いのも特徴です。

三角の安定感+右上の斜めの抜け。視線が気持ちよく回る!
花数が少ない分、配席(配置)の巧さがバレやすいね。

色と光|青緑×オレンジが鳴らす“補色の和音”
背景の青緑は、花弁の赤みの強い黄(オレンジ)の補色。この組み合わせが、ひまわりを前へ“ポン”と押し出す効果を生みます。
卓は赤褐色の短いストロークで敷き詰め、花瓶の透過光は白と淡緑のハイライトで表現。黒で強く締めず、明度差と色相差で画面のリズムを取っています。

青緑の“クール”に、オレンジの“熱”が当たって見える。
冷温の差を使って、陰影より“鳴り”で立体を出してるんだ。

筆致と絵肌|“触れるためのストローク”
花頭の中心は放射状の短いタッチが重ねられ、種のざらつきまで触覚化。花弁は輪郭線をわずかに残しつつ厚塗りで、反り返りの影を作ります。
花瓶のガラスは滑るような横ストロークで、反射と中身のゆらぎを一度に表現。机は四角いタイル状の筆触で“面のノイズ”をつくり、静物の重さを支えます。

寄ると、ほんと“手触りの絵”なんだよね。
ストロークの向きが、そのままモノの質感になってる。

ここが見どころ(3つ)
- 三輪の個性の差
右上=元気、左下手前=種が詰まった重量、左下奥=萎れ気味。時間違いの花を一つの花瓶に入れて、画面にドラマをつくっています。 - 青緑の背景
のちの“全面イエロー”型と対照的。補色で押し出す設計を堪能できます。 - 余白の呼吸
花数が少ないため、背景が空気として機能。のちの密度の高い大作より、視線の散歩が長く楽しめます。

同じひまわりでも、時間帯が違う三人が座ってるみたい。
生と萎れを同居させるのがゴッホ流の“時間術”。

《十二輪》《十五輪》との関係


《三輪》(本作)は、配置(段差・向き)と色設計(補色・明度差)を固めた“前章”です。直後の《十二輪》《十五輪》では、
- 花数の増加=リズムの高速化
- 背景の黄一色=“光源化”
- 画面サイズの拡大=視覚的な圧
が一気に押し寄せ、シリーズは“黄色の交響曲”へ到達します。その意味で、《三輪》は旋律の提示に該当する一枚です。

この曲の“Aメロ”がここにある、って感覚。
そう。Aメロを知ると、サビ(十五輪)の効きが倍になる。

よくある質問(FAQ)
Q. どこで見られますか?
A. 現在は個人蔵とされ、展示は不定期です。公開情報は巡回展やカタログで確認するのが確実です。
Q. パリ時代の《ひまわり》とは何が違いますか?
A. パリ期(1887)は実験的な小品が中心。アルルの《三輪》は、色・筆致・配置が大作フォーマットに近いのが特徴です。
Q. なぜ三輪だけ?
A. 配置と色の試運転として効率がよく、花数を増やす前に見せたい要素がすべて揃うからです。

少数精鋭で“芯”を見せるってやつだね。
花数より設計。これがゴッホの強さ。

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まとめ
《花瓶の三輪のひまわり》は、アルルの“黄の交響曲”が始まる直前の合図です。三輪というミニマムな編成で、配置・色・筆致の要点を先に決め、のちの大作群を一気に加速させました。
この一枚を起点に《十二輪》《十五輪》を見ると、連作全体の設計図がくっきり浮かび上がります。

助走の一枚、だけど完成度もガチ。好き。
うん。“少ない”ことで逆に強い——そんなタイプの名作だね。

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