白っぽい空の下、斜面の菜園と小屋のむこうに風車の羽根が交差します。
パリ北端の丘、モンマルトル。ゴッホはここで筆触をほどき、色を明るくし、オランダ時代からの歩みを一段跳ね上げました。
1886年に描かれた《モンマルトルの風車》は、移住直後のゴッホが、都市の光と庶民の暮らしが混ざり合う丘を、軽やかなタッチでとらえた一作です。
絵の前に立つと、羽根を切る風と、畑の土の乾きまでが目に浮かびます。
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空が軽くて、風車がちゃんと風を切ってるね。
だろ?パリに来て、空気の明るさが一気に絵肌に出てるんだ。

《モンマルトルの風車》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:モンマルトルの風車(英題例 Windmills at Montmartre)
制作年:1886年(パリ、モンマルトル)
技法:油彩/カンヴァス
主題:丘の菜園・小屋と風車(モンマルトルに残っていた風車群)
所蔵:石橋財団アーティゾン美術館

“連作の一環”って理解で見ると、位置づけが掴みやすい。
そう。丘をいろんな角度と距離で何度も描いてるんだ。

パリ移住とモンマルトル|光量が変える筆致
1886年、ゴッホはパリへ移り、兄テオのもとで印象派や新印象派の作品に触れます。
モンマルトルの丘は、当時まだ畑や風車が残る“都市の端境”でした。
彼はここで、オランダ時代の重い土色から離れ、空と地面の反射光を拾う明るいパレットに切り替えます。筆触も短く、方向を揃えすぎず、風の流れを優先させています。

空気の透明度が上がると、タッチまで軽くなるんだね。
うん、光が強いと、絵具は“置く”より“乗せる”に変わる。

構図と視線設計|斜面と羽根の対角線
画面は斜面の菜園が手前から奥へゆるやかに上り、左の主風車が垂直軸と斜めの羽根で空を切ります。
右奥に小さめの風車を置くことで遠近が生まれ、視線は“畑→小屋→風車→空”と階段状に上がっていきます。
地面の明るい砂色と、フェンスや茂みの暗色が交互に並ぶため、足元のリズムも自然に感じられます。

視線が坂道を登って、羽根で空に抜ける感じが気持ちいい。
その“抜け”を作るために、羽根を対角で切ってるんだよ。

パレットの変化|白を含む明るい混色へ
空は白と淡い青が混ざる高明度、地面は黄土に少量の緑と灰を混ぜ、影は黒に頼らず補色気味に落としています。
ストロークの間から地の明るさが透けるため、全体が呼吸するように見えます。
この“明るい混色+地を生かす”方法は、パリで吸収した印象派以後の語法が、彼なりの速度で身に付いた証拠です。

暗部も真っ黒じゃなくて、色がちゃんと生きてる。
そう、影を“色”として扱い始めてるのがパリ以後だね。

風車というモチーフ|田園と都市の境界線
モンマルトルの風車は製粉や娯楽施設として使われ、田園の道具でありながら、都市文化の象徴にもなっていました。
ゴッホは畑や小屋を描き込みつつ、羽根のシルエットで都会の空へ線を引きます。
農村を描いてきた彼にとって、風車は“過去と現在”“労働と余暇”が交差するちょうどいい節点でした。

田舎道具なのに、都会の空気を連れてくるのが面白い。
境目のモチーフって、絵に物語の幅をくれるんだよ。

同主題の変奏と展開|距離・天気・季節を替える
1886〜87年にかけて、ゴッホは同じ丘を天候や視点を変えて何度も描きます。
近景では菜園の杭や柵のタッチが主役に、遠景では風車のシルエットと空のトーンが主役に。
反復は単なる繰り返しではなく、明るさ・空気・構図の調整実験であり、その延長にパリ終盤の点描的筆触が見えてきます。

同じ場所でも、距離を変えるだけで作品の性格が変わるんだね。
そう。“何を見るか”より“どこから見るか”が肝なんだ。

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まとめ|“丘の風”が開けたパリの第一歩
《モンマルトルの風車》には、オランダの土の重さと、パリの光の軽さが同居しています。
斜面のリズム、羽根の対角、白の明るさ。
ここで得た手ごたえが、のちの花束やセーヌ河畔、さらには南仏の強烈な色へと道をつないでいきます。

小さめの風景なのに、転機の実感がぎゅっと詰まってる。
だよね。風が変わると、絵の重力も変わるんだ。

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