ヨハネス・フェルメールといえば、静かな室内画や「真珠の耳飾りの少女」で知られていますが、
『真珠の首飾りの女』は、身支度のひとときを描いた、より内面的で私的な作品です。
鏡に向かってリボンを結ぶ女性。誰かに見せるためなのか、それとも自分自身のためか――
フェルメールはこの静かな場面の中に、感情の気配と自己との対話をそっと描き込んでいます。
この記事では、この絵に込められた構図・象徴・フェルメールらしさを、初心者にもわかりやすく解説します。

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作品基本情報

タイトル:真珠の首飾りの女(Woman with a Pearl Necklace)
制作年:1663〜1665年頃
サイズ:56.1 cm × 47.4 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:ベルリン美術館(ドイツ)

鏡の前で首飾りをつけてるのに、なんだか“きれいになる”っていうより、“何を思ってるの?”って気になるね
・鏡の前で真珠の首飾りを身につける女性を描いた作品。
・身だしなみを整える静かな所作に、気品と慎ましさが漂う。
・淡い光に包まれた、フェルメールらしい優雅な一瞬。
作品概要|「身支度」の中に潜むまなざし

『真珠の首飾りの女』は、フェルメールが描いた「身支度」をテーマにした代表的な作品です。
壁にかかった鏡の前で、女性が首元にリボンを結び、真珠のネックレスに手を添えています。
この絵には“誰かのために装う”という外見的な要素の裏に、
自分自身を見つめる時間や心の静けさが描かれていると感じられます。
見どころ|鏡、衣装、光の演出
鏡に映る“描かれない顔”

鏡には女性の姿が映っていることが考えられますが、鑑賞者には顔は見えません。
これにより、鑑賞者は彼女の感情を直接読み取ることができず、“何を思っているのか”を想像する余地が生まれます。
窓からの光と室内の構成

左側の窓から入る自然光が、女性・机・カーテン・鏡をやわらかく照らし、
静かな室内にやさしい奥行きと時間の流れを与えています。

この光…なんだか“きょう一日が始まる音”がしそうな朝の空気だね…!
豆知識|真珠と鏡に込められた象徴性

真珠は17世紀のオランダ絵画において、富、純潔、虚栄心などさまざまな象徴を持ちます。
この作品では「貞淑と内省」のイメージが強いとされ、あくまで派手さよりも静かな高貴さが表現されています。

鏡もまた、当時の寓意画において自己認識や虚栄、真理の象徴とされることがあり、
この場面では「外見を整える行為」が、内面を見つめる行為へと重なるように描かれています。
フェルメールらしさ|「描かないことで見せる」
この作品にも、フェルメールが好んだ静けさと象徴性が満ちています。
女性は私たちを見ない

視線がないことで、鑑賞者は部屋の外側=“覗き見る存在”としての立場を与えられ、
絵の中にそっと入るような感覚を味わえます。
物語の前後を描かない構成
手紙も相手も描かれていない。ただ身支度する姿のみ。
けれどその中に、その人の人生の一場面がしっかり感じられるのはフェルメールの力ね。

じっと見てたら、“だれかを想ってる”気持ちまで伝わってくる気がして…
しずかに胸があつくなるよ
まとめ|首飾りの輝きの向こうにあるもの
『真珠の首飾りの女』は、ただ美しく装う女性を描いた絵ではありません。
そこには、自分を見つめる時間、誰かのために整える思い、そして他人には見えない内なる沈黙が流れています。
フェルメールは、この一瞬の身支度のなかに、静かな詩のような人生の断片を封じ込めたのです。