ヨハネス・フェルメールといえば、『真珠の耳飾りの少女』のような静かな日常の一場面を描いた作品で知られています。
しかし、《信仰の寓意》はそうした印象とは異なり、**宗教的モチーフと象徴に満ちた“観念的な一枚”**です。
女性の姿勢や手元の球体、足元の蛇や林檎――そのすべてにキリスト教的な意味が込められ、
まるで“信仰とは何か”を問う静かな講義のようでもあります。
この記事では、この作品の象徴の意味、構図、宗教的背景を丁寧に解説し、
フェルメールの異色作を読み解く手がかりをご紹介します。

わかると楽しいし、わからない部分があっても、なんか“まじめな光”が感じられる絵だなって思ったよ!
作品基本情報

タイトル:信仰の寓意(The Allegory of Faith)
制作年:1670〜1672年頃
サイズ:114.3 × 88.9 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:メトロポリタン美術館(アメリカ・ニューヨーク)

これは“いつものフェルメール”とはちょっとちがう雰囲気があるね…
なんだか神聖な感じ!
・カトリック信仰を象徴する女性が、静かに天を仰ぐ荘厳な宗教画。
・リンゴ(原罪)、十字架、鏡など、象徴がぎっしりと描き込まれている。
・フェルメールにしては珍しい、教義を強く意識した寓意画。

絵の中にいろんな秘密がかくれてるんだね〜!
1. 作品概要|宗教画としての異色作

《信仰の寓意》は、フェルメールが描いた数少ない宗教的主題の作品であり、
同時にその構図や演出が非常に“象徴的”であることからも、特異な位置づけにあります。
描かれているのは、白と青の衣をまとい胸に手を当てる女性像。
その背後には十字架や絵画が配され、床にはリンゴ、蛇、球体など、キリスト教的な寓意がちりばめられています。

なんで蛇がいるの!?って思ったけど、意味があるんだね〜
2. 見どころ①|象徴の数々とその意味
この作品は、“寓意画”と呼ばれるジャンルで、抽象的な観念を視覚的に表現するための象徴が多数使われています。
女性像(信仰の擬人化)

- 胸に手を当て、上を仰ぐ姿勢の女性
- 白いドレスと青いショールは、伝統的に聖母マリアの純潔と天への信頼を象徴
- 顔はやや天を向き、内面に向かう祈りの姿勢を強調
▶ 意味:信仰の女神(Fides)を体現。物質ではなく精神に目を向ける、信仰そのものの姿
ガラスの球体(天井付近)

- 天井から吊るされた透明なガラス球
- 球は完全な形とされ、キリスト教ではしばしば神の全能性・永遠性・精神の純粋性を表す
▶ 意味:人間の理解を超える「神の完全さ」「天なるもの」の象徴。天上界との接点

この丸いガラス、なんでこんなとこにあるの?って思ったけど、“見えないもの”のイメージなんだね…!
足元の蛇と林檎(踏みつけられた)

- 女性の足元に、黒い蛇が横たわり、踏みつけられている
- そばにはかじられた林檎
▶ 意味:
- 林檎=アダムとイヴの原罪(創世記)
- 蛇=誘惑・悪・サタン
- 信仰の女神がそれを踏みつける構図=罪に対する信仰の勝利
※ このモチーフはカトリック美術の伝統(とくにマリア信仰)にも見られる
聖杯と十字架(テーブル上)

- 画面中央のテーブルには、金色の聖杯と十字架
- 後方の壁には、キリスト磔刑の画中画
▶ 意味:
- 聖杯=聖餐・キリストの血を象徴(ミサの中心儀式)
- 十字架と磔刑=救済の根拠、贖罪と復活
- 合わせて、**キリスト教の核心信条(受難と救い)**を表す
画中画(壁の絵)

- 背景に飾られた絵画は、磔刑直前のキリストの場面(おそらくヴァロニエン作の模写)
- キリストが十字架を担いで歩く姿で、受難の瞬間を伝えている
▶ 意味:
- キリストの犠牲によって人類が救われるという信仰の核心
- この寓意画全体の“背景”に置くことで、信仰の土台がここにあることを示唆

ただの背景じゃなくて、“この気持ちの元になってること”が描かれてるってすごい…!
本・ミサ道具(机の上)

- テーブルの上には厚い本(たぶん聖書)、ミサに使う天使の像がついた飾りなども確認できる
- 全体的に、部屋が“小さな祭壇”のように構成されている
▶ 意味:信仰は個人的な感情であると同時に、制度化された儀式・教義にも支えられているという両面性
これらが一体となって、「信仰によって罪を超え、神の真理に到達する」という思想を表現しています。

この絵って、説明されるたびに“あっ…そういうことか!”ってなるから楽しい!
3. 見どころ②|構図と空間の設計

フェルメールらしく、左上から差し込む自然光が空間をやわらかく照らしています。
女性像の白と青はマリア的でもあり、神聖性を強く感じさせる配色です。
一方で、背景にかかる画中画(十字架を背負うキリストの絵)は、フェルメール自身が描いたものではなく他の画家の作を模している可能性があります。
これは、主題の重厚さを補強するための演出と見られています。
また、他のフェルメール作品に見られる“静けさ”とは異なり、
本作では宗教的主題にふさわしい形式性と象徴の重なりが印象を深めます。

いつもの“生活の中の一瞬”とはちがって、“信仰の場面”をちゃんと作ってる感じがするね
4. 豆知識|なぜフェルメールは宗教画を描いたのか?
フェルメールは多くの作品で日常の女性像や静謐な室内を描いていますが、
この《信仰の寓意》は珍しい宗教画です。
オランダは当時プロテスタントが主流でしたが、フェルメールはカトリックに改宗したとされる人物。
この作品もカトリック的象徴が強く、私的またはカトリックのパトロン向けに描かれた可能性が高いと考えられています。
また、同時代には寓意画が人気を集めていたため、画商向けの作品だった可能性もあります。

この絵、フェルメールさんの“信じてたもの”が見えるような気がするね…
まとめ|“静かなドラマ”から“象徴の空間”へ
《信仰の寓意》は、フェルメールが得意とした“日常の沈黙”ではなく、
象徴と宗教的理念で構築された、より重厚で観念的な空間を描いています。
とはいえ、光の扱いや色の設計、女性の内面を感じさせる表情など、
細部にはフェルメールらしい静けさと観察眼が宿っています。
静かな空間の中に込められた、信仰という“見えないもの”を描こうとする試み――
それこそが、この作品最大の見どころです。

言葉じゃない“信じる気持ち”って、こんなふうに絵にできるんだね…すごい
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