ゴッホの“出発点”は、華やかな南仏ではなく、湿った土と低い光に満ちたオランダの村でした。
ここでは、これまで個別に解説してきたオランダ期(1881–1885)の記事を、場所とテーマでたどれるように整理します。
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まずは根っこからってことだね。
うん、オランダの暗調と“土のパレット”が、のちの色を支えてるんだ。

作品詳細(このまとめで飛べる記事)
- ・1881年:エッテン《種まく人(ミレーによる)》
- ・1882–83年:ハーグ《悲しみ》《防水帽を被った漁師の顔》
- ・1884–85年:ニューネン《ルナリアを生けた花瓶》《ニューネンの教会の会衆》《小屋》《掘る農婦》《服喪のショールをまとう女性》《女性の顔(ホルディーナ・デ・フロート)》《干しわらと風車》《鳥の巣》《聖書のある静物画》《ジャガイモを食べる人々》《ニューネンの牧師館》《秋のポプラ並木》《ジャガイモを植え付けをする人々》《白い帽子をかぶった女の頭部》

ラインナップだけで“村の一年”が見えてくる。
だろ?家・畑・人・卓上で一つの世界ができてるんだ。

エッテン(1881)
ミレーの構図を自分の線で“翻訳”した最初期の臨写。
線の方向で土の重さと歩幅の運動をつかむ、のちの油彩の“設計図”です。
《種まく人(ミレーによる)》

ゴッホが1881年に描いた《種まく人(ミレーによる)》を解説!
作品名:種まく人(ミレーによる)
作者:フィンセント・ファン・ゴッホ
制作年:1881年(エッテン期〜ハーグ期にまたがる初期)
技法:ペン・淡彩/紙
サイズ:48 × 36.5 cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム/オランダ)
備考:同主題の素描は複数残り、所蔵先も分散

写すより“訳す”、ってやつね。
そう。ここでフォームを作ったから、後年の色が乗るんだ。

ハーグ(1882–83)
生活の縁にいる人へ寄り添った素描と、北海の風に刻まれた顔の研究。
色は最小限でも、線とトーンの幅で体温が立ち上がります。
《悲しみ》

ゴッホ《悲しみ》を解説!ハーグ時代、シーンの素描に宿る社会的まなざし
作品名:悲しみ
制作年:1882年(ハーグ)
技法:紙に鉛筆・チョーク・ペンとインク
モデル:クラシナ・マリア・ホールニック(通称シーン)
備考:同年、同主題をもとにリトグラフ版も制作/紙縁にフランス語の銘文(歴史家ミシュレの言葉を引用した趣旨)が添えられた作例が知られる
所蔵:ウォルソール・ニュー・アートギャラリー蔵(イギリス・バーミンガム)

素描と版画、両方やってるのが面白い。
うん。安価な版にして広く届かせたい意図もあったんだ。

《防水帽を被った漁師の顔》

ゴッホ《防水帽を被った漁師の顔》を解説!1883年ハーグ期の作品
作品名:防水帽を被った漁師の顔
制作年:1883年1月(ハーグ)
技法:紙に素描(黒系のチョーク/木炭・鉛筆に白のハイライトを併用)
サイズ:中判の紙作品(作例により寸法差あり)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

油彩じゃなくてドローイングなんだ。
うん、でも量感は“彫ってる”くらい濃い。

ニューネン(1884–85)
農民の暮らしを、家・畑・卓上・顔の四方向から描き切った時期です。
暗い色調の中に、厚い筆触と一点の光が息づきます。
《ルナリアを生けた花瓶》

ゴッホ《ルナリアを生けた花瓶》を解説!1884年ニューネンの土の静物と冬の光
品名:ルナリアを生けた花瓶
制作:1884年 秋–冬(ニューネン)
技法:油彩・カンヴァス
主題:ルナリア(合田草)の種子鞘、秋の葉枝、小ぶりの花束、テーブルクロスと背景布
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

タイトルはいくつか言い方があるけど、核は“ルナリアの静物”だね。
うん。季節の素材を集めたニューネンらしい一枚だよ

《ニューネンの教会の会衆》

ゴッホの《ニューネンの教会の会衆》を解説!オランダ時代の核心
作品名:ニューネンの教会の会衆
制作年:1884年に着手、1885年に加筆
技法:油彩/カンヴァス
主題:礼拝後に教会を出る人びと。後年の加筆で喪服の会衆や秋の葉が加わった
所蔵:ゴッホ美術館(アムステルダム)

加筆で“季節”まで変わってるのがポイントだね。
うん、出来事が画面の時間を動かしたんだ。

《小屋》

ゴッホ《小屋》を解説!1885年5月ニューネンの“黄昏の風景”
作品名:小屋(英題例 The Cottagee)
制作時期:1885年5月(ニューネン)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:65.7×79.3cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

ニューネンの最終盤に当たる時期なんだね。
うん、《ジャガイモを食べる人々》直後の空気がそのまま残ってる。

《掘る農婦》

作品名:掘る農婦
制作年:1885年(ニューネン)
技法:油彩(同主題の素描・小品も複数あり)
サイズ:42cm×32cm
所蔵:バーバー美術館、バーミンガム大学蔵(イギリス・バーミンガム)

いくつもバリエーションがあるんだね。
うん。同じ動作でも、角度や距離を変えて何度も試してる。

《服喪のショールをまとう女性》

ゴッホ《服喪のショールをまとう女性》を解説!1885年ニューネン
作品名:服喪のショールをまとう女性
制作時期:1885年3〜5月(ニューネン)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:45.5cm×33.0cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

なんか幸せそうには見えないね
そう。だけど当時の暮らしの空気は、はっきり残ってるよ。

《女性の顔》

ゴッホ《女性の顔》を解説!《ジャガイモを食べる人々》にもいる女性
作品名:女性の顔
制作時期:1885年4月(ニューネン)
技法:油彩
主題:ニューネン周辺の農家の若い女性(ホルディーナ・デ・フロート)の頭部
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

この女性が、あの《ジャガイモを食べる人々》の食卓にいたんだ。
うん。だから肖像も群像の一部みたいに見えるんだよね。

《干しわらと風車》

作品名:干しわらと風車(英題:Stooks and a Mill)
制作時期:1885年8月(ニューネン)
技法・素材:紙に素描(チョーク)
サイズ:22.6×29.5cm
画題:束ねられた干しわらの列、左奥の風車、舞う鳥、畦道のストローク
備考:同時期の屋外素描と併走し、後年の油彩に通じる“運動の設計図”として位置づけられます
所蔵:ファン・ゴッホ美術館

油彩じゃなくてドローイングなんだ。
うん。でも情報量はぎゅっと詰まってるよ。

《鳥の巣》

ゴッホの《鳥の巣》を解説|1885年ニューネンの生命のたまり場
作品名:鳥の巣(英題例 Bird’s Nestss)
制作時期:1885年9〜10月(ニューネン)
技法:油彩・カンヴァス
サイズ:39.3×46.5cm
構図:複数の巣と小枝、根、地面。作例によって卵が描かれるものもあります
所蔵:ファン・ゴッホ美術館
備考:同主題のヴァリアントが複数あり

一点ものじゃなくて“連作”なんだね。
うん、素材を替えたり配置を変えたり、何度も試してるよ。

《ニューネンの牧師館》

作品名:ニューネンの牧師館
制作年:1885年9-10月(ニューネン滞在期)
技法:油彩
支持体:キャンバス(※同主題のバリエーションあり)
モチーフ:父テオドルゥスが牧師として勤めていた家(ゴッホは1883年末〜1885年末まで同居)

タイトルの“牧師館”って、実家みたいな場所?
そう。父さんが務めてた教会付属の住宅。
ゴッホはここを拠点に農民を描きまくったんだ。

《秋のポプラ並木》

ゴッホ《秋のポプラ並木》徹底解説!ヌエネン時代の暗い色調と一直線の遠近法
作品名:《秋のポプラ並木》
制作年:1884年10月(オランダ・ヌエネン時代)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:中判(実物は中型サイズ。展覧会や公式目録で要確認)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)所蔵として知られます(展示は巡回・入替で変動)

見に行けるかな?展示は運しだいってこと?
その通り。公式サイトで“On view”をチェックするのが鉄則!

《ジャガイモの植え付けをする人々》

ゴッホ《ジャガイモの植え付けをする人々》を解説!農家のリアルを描く
作品名:白い帽子をかぶった女(表記は館によって異なる)
制作年:1884〜1885年ごろ(ニューネン期)
技法:油彩/キャンバス(同主題のヴァリアントあり)
サイズ:作例により異なるが、おおむね40×30cm前後の小〜中型
モデル:ニューネン周辺の農家の女性(個人特定に諸説があるため、本記事では断定しません)
所蔵:複数の美術館・個人に分散(掲載画像は同主題の代表的な作例に基づく)

横に長い作品だね。
おお!目の付け所が良いね

《白い帽子をかぶった女の頭部》

ゴッホ《白い帽子をかぶった女の頭部》を解説!ヌエネン期の農民肖像
作品名:白い帽子をかぶった女の頭部
制作年:1884〜1885年ごろ(ニューネン期)
技法:油彩
主題:ニューネン周辺の農家の女性像
所蔵:クレラー=ミュラー美術館(オランダ・オッテルロー)
備考:同主題のヴァリアントが複数存在する。

ヴァリアントがいっぱいあるんだね。
そうそう。館や展覧会によって呼び名が少し違うけど、核は同じ“白いボンネットの女性”なんだ。

《聖書のある静物画》

ゴッホの《聖書のある静物画》を解説!父の信仰と近代文学が同居する机上のドラマ
- 作品名:聖書のある静物画(Still Life with Open Bible)
- 制作年:1885年
- 制作地:ヌエネン(オランダ)
- 技法/サイズ:油彩・カンヴァス/約66 × 79 cm
- 所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

この絵は本当に面白い。
背景を知ってからだと見え方が変わってくるよね。

《ジャガイモを食べる人々》

ゴッホの《ジャガイモを食べる人々》を解説!ヌエネン時代の代表作
- 作品名:ジャガイモを食べる人々
- 制作年:1885年4月ごろ
- 制作地:オランダ・ヌエネン
- 技法/サイズ:油彩/約 82×114cm(横長)
- 所蔵:ゴッホ美術館(アムステルダム)
- 関連作:石版画による版、油彩の小型ヴァージョン、頭部・手の多数の習作

完成前に練習をめちゃくちゃ重ねてるのがガチ勢。
うん。小型習作はオッテルローのクレラー=ミュラーにあるよ。

まとめ|暗調は“静けさ”ではなく“密度”
オランダ期は、派手さを捨てて“量感・触覚・生活の温度”を鍛えた時間でした。
暗いからこそ、光の一滴がまっすぐ届き、厚い筆致が手応えを残します。
ここで培われた密度が、南仏の強い色彩を空虚にしなかった——各記事で、その根を確かめていただければ幸いです。

根っこを知ると、ひまわりの眩しさも違って見えるね。
ね。まぶしさの前に、まず土の匂いを吸い込んでおこう。

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