1889年9月、サン=レミの療養院で制作された《麦を束ねる農婦(ミレーによる)》は、フィンセント・ファン・ゴッホが敬愛するジャン=フランソワ・ミレーの図像を、自身の色彩と筆触でよみがえらせた一枚です。
モノクロ版画の世界に、地中海の光と風を注ぎ込むようにして、青い衣の農婦と黄金色の麦束が強いコントラストをつくります。農民の労働への敬意、そして「日常の偉大さ」を信じた画家の確信が、小さな画面に凝縮されています。
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」で来日する作品です。
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青と金の対比、めっちゃ効いてるね
せやろ? ミレーへのラブレター、色で書いたんや

《麦を束ねる農婦(ミレーによる)》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

タイトル:麦を束ねる農婦(ミレーによる)
制作年・場所:1889年9月、サン=レミ
技法・素材:油彩、厚紙に貼られたカンヴァス
サイズ:43.2 × 33.2cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

サイズは小ぶりなんだ
小さくても熱量はデカいで

<同年代に描かれた作品まとめ>
ゴッホのサン=レミ時代の作品まとめ!療養院の窓辺から生まれた物語
サン=レミで深まった“ミレーへのオマージュ”
療養生活の後半、ゴッホは外出が制限されるなかで、農民画家ミレーの図像を手がかりに創作を加速させました。版画や挿絵のモチーフを写し取りつつ、原図の陰影をそのまま再現するのではなく、色彩とタッチで“再作曲”していくのが彼の方法です。
本作でも、働く女性の姿はミレーに由来しますが、空気はサン=レミ。強い光を受けて麦は金色に波立ち、衣の青は冷ややかな影を抱えます。モチーフは借景でも、体温はゴッホのもの――そんな距離感がこの連作の魅力を支えています。

カバー曲やけど完全に自分の声で歌ってる感じ
そう、編曲して“今ここ”の色にしてるんや

画面構成――弧を描く上体、束ねられる稲、風のリズム
画面中央で身を折り、両手で麦をまとめる農婦。上体の弧と、足元から流れる鎌の線が、手仕事のリズムを可視化します。背景は収穫後の畝が水平に走り、遠くの地平は淡く冷たいブルー。
ゴッホ特有の短く力強いストロークが、麦のうねりを生む一方、衣の青には厚みのある塗り重ねが施され、量感を持って立ち上がります。色面のぶつかり合いが、光の方向や空気の流れまで語っているようです。

筆の向きだけで“働くテンポ”が伝わるね
手ぇ動かす音まで聞こえてきそうやろ

テーマ――労働への敬意と“日常の聖性”
ゴッホが繰り返し描いたのは、華やかな祝祭ではなく、黙々と続く日々の仕事でした。ミレーが示した“農民の尊厳”という視線を受け継ぎながら、彼はさらに強い色でそれを押し出します。青い衣は静けさと誠実さ、金色の麦は実りと労苦の結晶。
象徴を押しつけるのではなく、色とタッチで働く身体を賛美する――本作はその信念を最短距離で伝える一枚だと言えるでしょう。

尊いって言葉より、色が語ってる
せや、ええもんは説明いらんのや

同時期の制作背景――連作としての“複写”


この時期のゴッホは、サン=レミの部屋で版画を手がかりに多数の油彩を制作しました。《種まく人》《刈る人》《初歩き》など、家族や労働の主題を色鮮やかに置き換える試みは連続的です。
《麦を束ねる農婦》もその一環で、原図のモノクロームが持つ静かな敬虔さに、南仏の光を混ぜることで、生命の熱を上げています。サイズこそ控えめでも、シリーズの中核にある“日常への賛歌”は揺るぎません。

部屋に飾るなら、このサイズちょうどいい
毎日見て、毎日“がんばろか”って思えるやつや

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まとめ――“青と金”で綴る、労働礼讃のポケットサイズ
《麦を束ねる農婦(ミレーによる)》は、敬愛する先人の図像を、色と筆致で現在形に更新したゴッホらしい仕事です。青の衣と金の麦、二色がつくる明快な対位法に、手仕事の尊さと静かな祈りが宿ります。小さな画面に込められた確信は、今見てもまっすぐ届きます。

小粒でも名作、ってやつ
光と汗のハーモニー、ぎゅっと詰めたで

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