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マザッチョの《聖三位一体》を徹底解説|初期ルネサンス最大の壁画

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初期ルネサンス
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フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会に描かれたマザッチョ《聖三位一体》は、初期ルネサンスを語るうえで絶対に外せない代表作です。

壁の上に、まるで本物の礼拝堂が奥まで続いているかのような奥行きある空間が描かれ、そこに十字架上のキリストと父なる神、聖霊、そして聖母マリアと聖ヨハネが整然と並びます。

足元には骸骨が横たわる石棺が描かれ、「あなたが今ある姿は、かつての私、やがてあなたも今の私のようになる」という趣旨の言葉がイタリア語で記されています。

信仰の神秘である「三位一体」と、人間が避けられない「死」という現実。

この二つを、厳密な一点透視図法と古代風の建築空間を使って一つの画面に論理的にまとめ上げたことこそ、この作品が「ルネサンス絵画の転換点」と呼ばれる理由です。

この記事では、《聖三位一体》の基本データから、構図・人物・骸骨の意味、建築表現や制作背景、
そして同じマザッチョの代表作《貢の銭》とのつながりまで、順番に丁寧に解説していきます。

ぬい
ぬい

最初に全体像を押さえておくと、細部を見るのが楽になるよね。

うん、この作品は情報量多いから、ゆっくり読み解いていこうぜ。

レゴッホ
レゴッホ
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《聖三位一体》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

作品名:聖三位一体(Trinità, Holy Trinity)
作者:マザッチョ(Masaccio, 本名トンマーゾ・ディ・セール・ジョヴァンニ・ディ・モーネ・カッサイ)
制作年:約1425〜1427年ごろ(初期ルネサンス期)
技法:フレスコ(壁に直接描かれた水性絵具の壁画)
サイズ:約高さ667cm×幅317cm(縦長の巨大な画面)
所在地:イタリア・フィレンツェ サンタ・マリア・ノヴェッラ教会 左側廊の第三アーチ部分
主題:キリストの十字架刑と三位一体(父・子・聖霊)、聖母マリア、聖ヨハネ、寄進者夫婦、骸骨のある墓所
・特徴:一点透視図法を体系的に用いた最初期の大作フレスコであり、古代ローマ風の建築空間を精密に描き出している点で初期ルネサンスの代表作と評価されている作品

このように、単なる「宗教画」という枠をこえて、絵画・建築・彫刻の要素が一枚の壁の中で総合的に組み合わされた記念碑的な作品だと言えます。

ぬい
ぬい

サイズ見ただけでビビる。人間よりずっと高い壁一面なんだね。

実物は教会の通路にドーンとあるから、いきなり三位一体が目の前に現れる感じなんだよ。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

マザッチョについて解説!ルネサンスを一気に加速させた若き天才

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マザッチョと《聖三位一体》の制作背景

マザッチョは1401年ごろ生まれ、1428年に26〜27歳という若さで亡くなった画家です。
生きているあいだに残した作品は決して多くありませんが、その短い活動期間のなかで、中世的な平面的表現から立体的で人間味ある表現へと絵画を一気に押し上げた存在として知られています。

同時期にフィレンツェのサンタ・マリア・デル・カルミネ教会ブランカッチ礼拝堂に描いた《貢の銭》や聖ペトロ伝のフレスコ群も、人間の体を量感豊かに描き、光と影で立体感を出す革新的な表現で大きな影響を与えました。

《聖三位一体》は、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会のドミニコ会修道士たちのために描かれたと考えられており、制作年は1420年代後半とされます。
マザッチョがフィレンツェで手がけた最後期の作品の一つで、彼の到達点を示すような大作です。

当時のフィレンツェでは、建築家ブルネレスキが古代ローマ建築を研究し、数学的な一点透視図法を発見したと言われています。
マザッチョはその理論を絵画に応用した最初期の画家のひとりであり、《聖三位一体》は、その成果を壁一面で実験した作品だと考えられます。

ぬい
ぬい

短命なのに、ここまで完成度高いのすごすぎない?

ほんとだよ。もし長生きしてたらルネサンスの教科書、半分くらいマザッチョの名前で埋まってたかもな。

レゴッホ
レゴッホ
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一点透視図法で描かれた「もうひとつの礼拝堂」

《聖三位一体》を目の前に立って見ると、本物の礼拝堂が壁の向こうにぽっかり開いているように感じます。

画面中央には、古代ローマ風のアーチと円筒型の天井(樽型ヴォールト)が描かれています。天井の格子状の格間(コファー)は、奥へ行くほど小さくなり、それぞれの縁が消失点へと向かうガイドラインになっています。

一点透視図法では、画面内の直線をすべて一つの消失点に向かって収束させることで、人間の目で見たときの奥行き感を再現します。
この作品では、その消失点が寄進者夫婦の頭あたり、つまり、当時の信者が教会の床に立ったときの
視線の高さに設定されています。

つまり、このフレスコは「観る人が立つ位置」まで計算したうえで設計されており、信者が通路を歩きながらこの壁の前に来ると、自分が描かれた礼拝堂の入口に立っているかのような錯覚を覚えるように作られているのです。

こうした「壁を突き抜ける」ような空間表現は、当時の人々にとって衝撃的で、後の画家たちが何度も研究する手本となりました。

ぬい
ぬい

写真で見ると普通の壁画なんだけど、
実際に立って見ると“中に入れそう感”がすごいんだろうね。

遠近法ガチ勢のマザッチョ、やることが建築家レベルなんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
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三つの世界を縦に積み重ねた構図と人物配置

このフレスコは、上から下へ向かって三つの「層」が積み重なった構図になっています。

最上部には、父なる神が立ち、十字架につけられたキリストを後ろから支えています。
二人のあいだには白い鳩の姿で聖霊が描かれ、父・子・聖霊の三位一体が一つの垂直線上に並びます。

その下の階層には、十字架の両脇に聖母マリアと聖ヨハネが立っています。
マリアは少し年老いた姿で描かれ、右手で十字架上のキリストを指し示しながら静かな表情でこちらを見ています。
見る者に「救いはここにある」と語りかけているような、落ち着いた説得力のあるポーズです。

さらに一段下、架空の礼拝堂の入口の柱の前には、現代風の服を着た男女がひざまずいています。
彼らはこの作品の寄進者夫婦で、どの一家かについてはレンツィ家説・ベルティ家説などいくつかの説がありますが、現時点では決定的な証拠は見つかっていません。

最下段には、別の空間として石棺と骸骨が描かれ、地上の死の次元を表しています。
視線を上げるにつれて、人間の世界から聖人、そして神へと存在の次元が上昇していく構造になっており、信者に「死を通って神のもとへ向かう道筋」を視覚的に示しているとも読めます。

ぬい
ぬい

縦に三段重ねの構図って、
“地上→聖人→神”の階段みたいになってるんだね。

しかも寄進者夫婦が、観る人と神さまのあいだの“先輩信者ポジション”にいるのが
地味に熱いんだよな。

レゴッホ
レゴッホ
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足元の骸骨とイタリア語の銘文が伝える「メメント・モリ」

画面のいちばん下には、石棺の上に骸骨が横たわる姿が描かれています。
この部分は、16世紀以降に後世の祭壇に隠されてしまい、20世紀の修復であらためて見えるようになりました。

骸骨の上の壁面には、やや省略された綴りのイタリア語で「私はかつてあなたと同じように生きていた。しかし今の私のように、あなたも必ずなるだろう」という意味の言葉が書かれています。

これは「メメント・モリ(死を想え)」と呼ばれる主題で、人間が必ず死ぬ存在であることを思い出させ、信仰と悔い改めへと心を向けさせるためのメッセージです。

骸骨は、アダムの骨を象徴しているという解釈も古くから提示されています。
中世からルネサンスにかけて、キリストが処刑された「ゴルゴタの丘」はアダムの墓があった場所だと考えられており、「第二のアダム」であるキリストの血が「最初の人間」アダムの罪を贖うという
神学的なイメージと結びついていました。

その意味で、骸骨は単なる恐怖ではなく、「死によって終わる人間の運命」と「キリストの犠牲による救い」が一つの画面の中でつながっていることを示していると理解できます。

ぬい
ぬい

骸骨だけ見るとホラーだけど、
上を見上げるとちゃんと希望のほうに話がつながってるんだね。

そうそう。“怖がらせたい”んじゃなくて、
“ちゃんと生きろよ”っていう真面目なメッセージなんだよ。

レゴッホ
レゴッホ
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古代ローマ風建築とブルネレスキの影響

《聖三位一体》で目を引くのは、人物だけでなく建築そのものが主役級の存在感を持っている点です。

左右の円柱や壁の柱型(ピラスター)、アーチの形、格間天井の構造などは、古代ローマの凱旋門や公共浴場の建築を思わせる要素で構成されています。

当時フィレンツェで活躍していた建築家ブルネレスキも古代遺跡を詳しく観察し、柱頭やアーチの比率を数学的に整理していました。
マザッチョが《聖三位一体》の設計をする際、こうした建築的な知識や遠近法の理論について、ブルネレスキから直接または間接的に影響を受けていたと考えられています。

結果として、このフレスコは「絵画なのに、実際に礼拝堂を増築したかのように見える」非常に建築的な作品になりました。
絵画・建築・彫刻的量感のある人体表現が一体となった総合芸術であり、ルネサンスの「古代復興」と「人間中心の世界観」を視覚的に体現していると言えます。

ぬい
ぬい

建物の部分だけ切り取っても、
ローマの遺跡の復元図みたいでかっこいいね。

そうなんだよ。建築オタクと絵画オタクの合作って感じで、
当時の最新テクが全部盛りなんだよな。

レゴッホ
レゴッホ
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《聖三位一体》の影響と、もう一つの代表作《貢の銭》

《聖三位一体》は、完成直後からフィレンツェの若い芸術家たちの「教科書」となりました。
ミケランジェロをはじめ後の巨匠たちが、このフレスコを研究しに通ったことも伝えられており、
一点透視図法と量感豊かな人体表現の組み合わせは、その後のルネサンス美術の基本語彙になっていきます。

マザッチョの《貢の銭》をわかりやすく解説!初期ルネサンスの傑作

同じ時期に描かれた《貢の銭》(ブランカッチ礼拝堂)では、キリストと聖ペトロが税の支払いをめぐって行動する場面が一つの画面の中に三場面連続で描かれています。
こちらも255×598cmほどの横長の大フレスコで、山並みと建物が奥へと続く空間のなかに人物がしっかり立体感を持って配置されており、《聖三位一体》と同じく遠近法と光の表現が高く評価されています。

礼拝堂の壁面一面を使った物語的なフレスコと、架空の礼拝堂を開いて見せる《聖三位一体》。
この二つの柱が、マザッチョの短い生涯を支える決定的な代表作と言えるでしょう。

ぬい
ぬい

《貢の銭》とセットで見ると、
“物語を語るマザッチョ”と“空間を作るマザッチョ”の両方がわかるね。

どっちも同じ二十代の仕事って考えると、
ちょっと落ち込むレベルの天才だよな…でも見ると元気出るから不思議。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ

マザッチョ《聖三位一体》は、初期ルネサンスを象徴する革新的な壁画です。

一点透視図法を厳密に使い、古代ローマ建築の論理で構築された架空の礼拝堂をあたかも現実の空間として成立させたこと。

神・聖人・信者・死者(骸骨)という四つの存在の階層を縦方向に積み重ねることで、「地上の人生から救いへ向かう道筋」を視覚的に示した構図の深さ。

そして、同時期に手がけた《貢の銭》と並び、二十代半ばの若い画家が西洋絵画の方向性そのものを変えてしまったという事実。

これらが重なり、《聖三位一体》は単なる宗教画をこえて美術史の転換点となりました。

今の私たちが“絵画の中に空間がある”と自然に感じられるのは、マザッチョがこの一枚で実験し、成功させてくれたからだと言っても過言ではありません。

フィレンツェを訪れた際には、ぜひサンタ・マリア・ノヴェッラ教会でこの巨大なフレスコと向き合ってみてください。
写真では伝わらない「実物の存在感」が静かに迫ってきます。

ぬい
ぬい

最後まで読むと、マザッチョって本当に時代を変えたんだなって実感するよね。

だよな。壁画なのに“未来の絵画”を先に描いちゃった感じがするわ。

レゴッホ
レゴッホ
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