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ミケランジェロの《ドーニ家の聖家族》を解説!丸い傑作トンド

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イタリア・ルネサンス
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フィレンツェのウフィツィ美術館にある《ドーニ家の聖家族》(通称ドーニ・トンド)は、ミケランジェロが成熟期に描いた、ほぼ唯一の完成した板絵として知られています。

丸い画面いっぱいに、マリアと幼子イエス、そしてヨセフがぎゅっと組み合わさるように描かれ、背景には意味ありげな裸体の若者たちが並びます。彫刻家として名を上げたミケランジェロが、なぜここまで密度の高い絵画を作り上げたのか。その背景には、フィレンツェの富裕商人ドーニ家の結婚と、レオナルドやラファエロも活躍していた激アツな芸術環境がありました。

この作品を入り口にして見ると、ルネサンス後期からマニエリスムへと向かうミケランジェロの感性が、立体感あふれる筋肉や極端なポーズ、強烈な色彩にそのまま刻み込まれていることがよく分かります。

ぬい
ぬい

なんか、絵なのに彫刻みたいなゴリゴリ感あるよね、これ。

分かる。ミケランジェロ、筆を持っても結局“筋肉を彫りたい人”なんだよな。

レゴッホ
レゴッホ
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《ドーニ家の聖家族》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

作品名:ドーニ家の聖家族(ドーニ・トンド)

作者:ミケランジェロ・ブオナローティ

制作年:約1505〜1507年ごろと考えられている

技法:板にテンペラと油彩(油・テンペラ混合技法)

形・サイズ:円形(トンド)、直径約120cm

所蔵:ウフィツィ美術館(フィレンツェ)

依頼主:フィレンツェの富裕な毛織物商アニョロ・ドーニ(妻マッダレーナ・ストロッツィとの結婚記念として依頼されたと考えられている)

ぬい
ぬい

丸いのに、情報量がえげつないサイズ感だな。

直径120センチって、人間の上半身くらいあるからね。部屋に飾ったら存在感バグるやつ。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

ミケランジェロを解説!代表作は何がある?性格は?彫刻家なの?
・ミケランジェロの生涯を簡単に解説!ルネサンスの巨匠の素顔とは

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丸いトンド形式と、ぎゅっと絡み合う聖家族のポーズ

この作品の最初の特徴は、何と言っても「トンド」と呼ばれる丸い画面です。ルネサンス期のフィレンツェでは、家庭用の信心具や祝いの贈り物として、円形画面の「聖家族」や「聖母子」が好まれていました。《ドーニ家の聖家族》も、まさに裕福な市民のための家庭祭壇画という性格を強く持っています。

円形であるがゆえに、ミケランジェロは構図を中心へ中心へと巻き込むように組み立てています。マリアは画面のほぼ中央に座り、その膝の上で体をねじるようにして幼子イエスを抱き上げています。その背後からはヨセフが大きな腕を回し、イエスを支えているのか、それともマリアから受け取ろうとしているのか、見る者によって解釈が分かれる絶妙なポーズが設定されています。

マリアの体は三角形のようにどっしりと座りつつも、上半身と腕は螺旋状にねじれています。この「くるりとひねったポーズ」は、後のミケランジェロ作品に頻出するマニエリスム的な身体表現の初期形とも言われます。

ぬい
ぬい

マリアさん、めちゃくちゃ柔軟じゃない?この体勢、普通にきついよね。

ヨガ上級者レベルだよな。でもこの不自然さが、逆に“神々しさ”を演出してるのかもしれない。

レゴッホ
レゴッホ
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前景の聖家族:地上に座るマリアと、父としてのヨセフ

ミケランジェロは、この聖家族を非常に肉体的でリアルな存在として描いています。マリアは腰掛けやクッションを使わず、草の上に直接座っていて、足の裏までしっかりと見えます。これは、彼女が「地上に生きる人間」であることを強く示す表現だと考えられています。

一方、ヨセフはマリアの背後に位置し、画面の中では彼女より高い位置に描かれています。聖母子像ではマリアが最も高い位置に置かれるのが一般的ですが、この作品ではあえてヨセフを大きく、頼もしい姿で配置することで「家族を守る父」の存在感を前面に出しています。家庭用の絵画という依頼主の事情を考えると、理想的な家長像を重ねて見せたかったとも解釈できます。

幼子イエスは、マリアとヨセフのあいだでくるくると受け渡されるような位置にあり、「神から地上へ与えられた贈り物」としてのイメージを感じさせます。実際、研究者の中には「依頼主ドーニ(Doni=イタリア語で“贈り物”の複数形)」の名前と、キリストを“贈り物”として捧げる構図を重ね合わせる解釈もあります。

ぬい
ぬい

ヨセフお父さん、ルネサンス絵画の中ではかなり主役級の扱いだよね。

確かに。『うちの家族、こうありたい』っていうドーニさんの理想も入ってそう。

レゴッホ
レゴッホ
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中景の洗礼者ヨハネと、背景の謎めいた裸の青年たち

聖家族のすぐ後ろには、まだ少年の姿をした洗礼者ヨハネが描かれています。ヨハネはフィレンツェの守護聖人でもあり、フィレンツェの画家たちがマドンナと組み合わせて描く定番のモチーフでした。

そのさらに奥、低い石の壁を境にして、一糸まとわぬ若者たちがゆったりとポーズをとっています。彼らの解釈については諸説あり、「キリスト以前、洗礼以前の人類」「異教の世界」「肉の欲望に支配された旧約の人間」など、宗教的・象徴的な読み解きが提案されていますが、どれか一つに定着しているわけではありません。

いずれにしても、前景の聖家族と比べると彼らはどこか現実感が薄く、理想化された古代彫刻のようです。ミケランジェロは古代ギリシア・ローマ彫刻に深く魅了されており、その影響を受けたヌードを背景として配置することで、「キリストによって新しくなる前の人間」と「救いの中心にいる聖家族」を視覚的に対比させています。

ぬい
ぬい

後ろの裸の人たち、ストーリー知らないと“なんでここに?”ってなるよね。

分からないまま眺めてもOKだけど、“旧世界と新世界の対比かも”って知ると、ちょっとニヤッとできるやつ。

レゴッホ
レゴッホ
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ドーニ家の結婚記念としての意味:市民が注文した超ハイレベル信心具

このトンドは、フィレンツェの毛織物商アニョロ・ドーニが、名門ストロッツィ家出身のマッダレーナとの結婚を記念して注文したと考えられています。二人の結婚は1504年に行われており、その少し後の1505〜1507年ごろにこの作品が制作されたとみられます。

当時のフィレンツェでは、富裕市民が自宅のためにかなり贅沢な宗教画を注文することが一般的でした。その中でも、ミケランジェロ級のスターに直接依頼できるのは限られた家だけです。ドーニ家は、ラファエロに夫妻の肖像画も描かせており、最先端の芸術に投資する“アート好き夫婦”だったことがうかがえます。

画面にちりばめられた鮮烈な色彩や、豪華な衣の質感は、信仰の対象であると同時に、依頼主の財力と洗練された趣味をさりげなく示す役割も果たしていたはずです。

ぬい
ぬい

自宅の壁にミケランジェロのオリジナルとか、現代でいうと“推しの世界的アーティストに壁画描いてもらいました”レベルだよね。

しかも結婚記念。レベチすぎる…。

レゴッホ
レゴッホ
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ミケランジェロらしい色彩と造形:システィーナ礼拝堂への予告編

《ドーニ家の聖家族》をじっくり見ると、のちにシスティーナ礼拝堂の天井画や《最後の審判》で爆発するミケランジェロらしさが、すでにほとんど出そろっているのが分かります。

まず色遣いです。マリアのピンクと青、ヨセフのオレンジと青紫など、補色関係をやや誇張したような強い色が、ごく近いところでぶつかり合っています。このビビッドな色彩の対比は、のちのシスティーナ天井画の預言者たちのローブにも通じるものです。

さらに、人物の筋肉や骨格の表現はほとんど彫刻作品のようで、布もまるで石を削り出したような鋭い折れ目を持っています。これは、もともと大理石の彫像を主な仕事としていたミケランジェロが、平面の絵画の中でも「彫る」感覚を持ち込んだ結果だと言えます。

こうした過剰な立体感と、ひねりの強いポーズ、強烈な色彩の組み合わせは、次の世代の画家たちに受け継がれ、16世紀中頃のマニエリスム絵画の一つの方向性をつくりました。《ドーニ家の聖家族》は、ルネサンスからマニエリスムへの橋渡しとなる重要作としても位置づけられています。

ぬい
ぬい

“人体ガチ勢”が本気で色も構図も盛ったら、こうなるって感じだね。

そうそう。後のシスティーナ礼拝堂を知ってから見ると、完全に“プロローグ編”なんだよな。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ:家庭用の丸い絵に詰め込まれた、ミケランジェロの野心

《ドーニ家の聖家族》は、家庭のための信心深い絵でありながら、ミケランジェロの野心と実験精神がぎっしり詰まった作品です。

丸いトンド形式の中に、ぎゅっと絡み合う聖家族、フィレンツェの守護聖人ヨハネ、そして古代的な裸体の青年たちを配置することで、「旧約から新約へ」「異教からキリスト教へ」「旧い人間から救われた人間へ」という大きなテーマが一枚の家庭用祭壇画に凝縮されています。

そして、この作品はミケランジェロが残した数少ない完成パネル絵画であり、のちのシスティーナ礼拝堂天井画や《最後の審判》を理解するための重要な入口にもなっています。彫刻家としての身体感覚、鮮烈な色彩感覚、背景のヌードに込められた象徴性など、後の代表作につながるエッセンスを一つの円にギュッと閉じ込めた、非常に“ミケランジェロらしい”一枚だと言えるでしょう。

ぬい
ぬい

丸い一枚に、ここまで世界観詰め込むの、さすがミケランジェロだね。

うん。しかもこれが“家に飾る用”っていうのがまたすごい。フィレンツェ市民、推しへの課金力が桁違い。

レゴッホ
レゴッホ
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