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ボッティチェリの《神秘の降誕》を解説!クリスマスなのに黙示録という不思議な名画

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イタリア・ルネサンス
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一見すると、この絵はクリスマスの「キリスト降誕」を描いた伝統的な宗教画に見えます。中央には粗末な小屋と洞窟があり、幼子イエスとマリア、ヨセフが静かにたたずんでいます。その周りでは天使と牧人たちがひざまずき、家畜も小さな体を寄せています。

ところが画面をよく見ると、普通の降誕画とはかなり様子が違います。画面最上部では、十二人の天使が輪になって踊り、金色の天蓋の下で祝祭の輪舞を繰り広げています。反対に画面の一番下では、天使に抱きしめられる人間たちの足元で、小さな悪魔たちが自分の槍に突き刺さりながら地面の割れ目へと逃げ込んでいます。

それだけではありません。画面上部の帯にはギリシャ語の長い銘文が書き込まれており、そこには「イタリアの混乱のさなか、西暦1500年の終わりに、ヨハネ黙示録のある章にしたがって自分はこの絵を描いた」というような内容が記されています。ボッティチェリはこの一枚を単なるクリスマス物語としてではなく、自分が生きる同時代の危機と、終末への不安を重ね合わせて描いたのです。

ぬい
ぬい

パッと見は“かわいいクリスマスの絵”なのに、よく見ると悪魔が自滅してたり、上に不穏な文字がびっしりでギャップすごいね。

だよね。ボッティチェリ版『ハッピーエンドだけど実は世界の大ピンチ』って感じで、じわじわクセになる構成だわ。

レゴッホ
レゴッホ
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《神秘の降誕》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

・作品名:神秘の降誕
・作者:サンドロ・ボッティチェリ
・制作年:1500年ごろ(絵の上部のギリシャ語銘文に1500年の記載あり)
・技法:油彩・キャンバス(ボッティチェリ作品としては珍しいキャンバス作品)
・サイズ:縦108.5cm × 横74.9cm
・所蔵:ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
・特徴:画家自身の署名が入った唯一の作品であり、ギリシャ語の長い銘文が添えられている

ぬい
ぬい

ボッティチェリの絵って板にテンペラのイメージだったから、キャンバス+油彩って聞くとちょっと意外。

うん。しかも唯一の署名付きってところに、“これは自分の覚悟の一枚だぞ”っていう気合いを感じる。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

サンドロ・ボッティチェリを解説!代表作は?シモネッタって何?

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ボッティチェリ晩年と《神秘の降誕》の制作背景

《神秘の降誕》が描かれた1500年前後のイタリアは、激しい政治的混乱期でした。フランス軍が1494年にナポリへ侵攻し、その後もミラノ征服など戦争が続き、フィレンツェの共和国政体も大きく揺れ動きます。ボッティチェリが暮らした街は、まさに「イタリアの苦難」の中心地のひとつでした。

さらにフィレンツェでは、ドミニコ会修道士サヴォナローラが激しい説教を行い、贅沢や享楽を批判して人々に悔い改めを迫りました。ヴァザーリなどの同時代の記録によれば、ボッティチェリは晩年この修道士の影響を強く受け、より敬虔で内省的な絵を描くようになったとされています。《神秘の降誕》は、そうした宗教的高揚と政治的不安が重なった時期の作品です。

ギリシャ語の銘文には、黙示録のある章に基づいて絵を描いたこと、そして「悪魔がしばらくのあいだ解き放たれた後、やがて再び縛られるだろう」という趣旨の終末的な予告が書かれています。ボッティチェリは、自分の時代の戦乱と混乱を、黙示録に描かれた終末の期間と重ね合わせて理解していたと考えられます。

ぬい
ぬい

フィレンツェの現場は相当カオスだったんだろうね。そりゃ“世界の終わり感”抱えながら絵も描きたくなる。

しかも1500年って節目の年だし、“世紀末だしマジで終わるかも”って空気が今以上にリアルだったのかもしれない。

レゴッホ
レゴッホ
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三段構成の画面構成|天上の喜び・地上の降誕・地下の悪魔

《神秘の降誕》の画面は、大きく天・地・地下の三つの帯に分かれています。この構成を理解すると、絵全体のメッセージがぐっと読みやすくなります。

一番上には、金色の丸天井のような光のドームが広がり、その下で十二人の天使が輪になって踊っています。彼らはそれぞれ白・赤・緑の衣をまとっており、多くの研究者はこれを「信仰」「愛」「希望」という三つの徳の象徴的な色と結びつけています。天使たちは手にオリーブの枝と小さな冠を持ち、天上での平和と救いの完成を祝っているように見えます。

中央の帯には、伝統的なキリスト降誕の場面が置かれています。藁ぶき屋根の下でマリアが膝まずき、布の上に寝かされた幼子イエスを見つめています。ヨセフはやや離れて座り込み、疲れ果てたように顔を伏せています。その背後には牛とロバがいて、洞窟の暗がりがキリストの墓を暗示するモチーフとしても読まれてきました。左右では天使が羊飼いや巡礼のような人々を招き寄せ、彼らの頭にはオリーブの冠がのせられています。

最下段では、三組の天使が三人の人間を抱きしめ、地面から持ち上げています。彼らもまたオリーブの冠をかぶり、巻物には「善意の人々に地上の平和を」という意味のラテン語の言葉が記されています。その背後では、小さな悪魔たちがあわてて地面の割れ目に飛び込み、自分の武器で自らを刺しながら地下世界へ逃げ戻ろうとしています。これは黙示録に登場する「悪魔が再び縛られる」場面を、ボッティチェリなりに視覚化したものと考えられています。

ぬい
ぬい

上・真ん中・下で、“天国のパーティー”→“クリスマス当日”→“悪魔撤退戦”って流れになってるの、構成うますぎない?

わかる。三コマ漫画みたいに読み進められるのに、ちゃんと神学的にも筋が通ってるのがボッティチェリの職人芸だわ。

レゴッホ
レゴッホ
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ギリシャ語銘文とヨハネ黙示録へのまなざし

絵の一番上には、横いっぱいにギリシャ語の文章が書かれています。内容を要約すると、「1500年の終わり、イタリアが混乱するこの時代に、自分はヨハネの黙示録のある章を手がかりにこの絵を描いた。そこでは、一定期間だけ悪魔が解き放たれ、やがて再び縛られて地に葬られることが語られている。この絵は、その情景を示したものだ」といった意味になります。

つまりボッティチェリは、ただ「イエス様生まれておめでとう」という祝祭だけでなく、「悪の力が暴れ回る時代はいずれ終わる。最後には神の平和が勝利する」という黙示録的な希望を、この絵に込めています。

この銘文がギリシャ語で書かれている点も重要です。ラテン語ではなくギリシャ語を選んだのは、人文主義者たちと共有していた古典語への憧れに加え、ある程度限られた教養層だけが読める「内輪のメッセージ」として扱いたかったからだと考えられます。危険な内容を、あえてキャンバスに書き込みつつも、読める相手を絞ることでバランスを取ったとも言えるでしょう。

ぬい
ぬい

上の帯、ただの飾りじゃなくて“長文ポスト”だったのか…。訳してみるとだいぶ熱い。

しかもギリシャ語で書いてるあたり、“わかる人だけわかってくれればいい”っていう覚悟がにじんでてカッコいい。

レゴッホ
レゴッホ
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《春》《ヴィーナスの誕生》との違いと連続性

【サイゼリヤの絵】ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』を解説!
ボッティチェリの『プリマヴェーラ』を解説!~春の神秘と美の幻想~

《神秘の降誕》は、ボッティチェリ晩年の内省的な作品ですが、若い頃の《春(プリマヴェーラ)》や《ヴィーナスの誕生》とのつながりも随所に見られます。

たとえば、天上で輪になって踊る十二天使のポーズや衣のひらめきには、《春》の三美神や《ヴィーナスの誕生》に登場する風の神たちと共通するリズムがあります。細くしなやかな輪郭線で人体を描き、布の動きで感情や音楽性を表現するスタイルは、晩年になっても変わっていません。

一方で、人物のプロポーションにはあえて古風な歪みも取り入れられています。マリアと幼子は他の人物よりひと回り大きく描かれており、これは中世のイコンによく見られる「重要人物を大きく描く」手法です。初期ルネサンスで培った正確な遠近法やスケール感をあえて崩し、精神的な重要度を優先させたボッティチェリの選択は、彼自身の信仰や不安が強く反映した結果と考えられます

19世紀になると、この絵はイギリスの批評家ラスキンやラファエル前派の画家たちにとって特別な作品となります。彼らは、古典主義に対するオルタナティブとして、ボッティチェリの線描と象徴性に強く惹かれ、《神秘の降誕》に描かれた天使たちの足運びや衣のパターンを、自作に引用しています。

ぬい
ぬい

《春》とか《ヴィーナス》の“線の美しさ”はそのままに、テーマだけぐっとシリアスに寄せてきた感じだね。

そうそう。ファンタジー系アーティストが、晩年に社会派作品を描いたっていうか、スタイルの芯はぶらさずに視線だけ変えた感じ。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ|「クリスマス」と「世界の終わり」が出会うボッティチェリ最後の大作

サンドロ・ボッティチェリの《神秘の降誕》は、ヨルダンの洞窟で生まれた幼子イエスを祝う、よく知られた降誕の物語を土台にしながら、その周囲に黙示録的なイメージと同時代イタリアへの不安を重ね合わせた、非常に個人的で野心的な作品です。

天上では十二の天使が黄金のドームの下で舞い、中央では聖家族と天使たちが静かな礼拝を続け、地上では悪魔が自滅しながら地下へと逃げていきます。画面上部のギリシャ語銘文は、ボッティチェリ自身が「1500年の危機の時代に、この絵を黙示録になぞらえて描いた」と明言しており、彼が単なる物語の挿絵ではなく、自分の信仰と恐れ、そして希望を詰め込んだ告白としてこの作品を位置づけていたことが伝わってきます。

《春》や《ヴィーナスの誕生》のような華やかな神話画で知られるボッティチェリですが、《神秘の降誕》を見ると、その線描の美しさや詩的感性が、晩年にはより切実な宗教的メッセージへと向けられていったことが分かります。ロンドン・ナショナル・ギャラリーで実物と向き合うと、キャンバスという比較的軽い支持体に、画家が晩年の不安と希望を丸ごと託したような、独特の緊張感を感じ取ることができるはずです。

ぬい
ぬい

クリスマスの絵なのに、“世界は今めちゃくちゃだけど、最後にはちゃんと収まるはず”っていう祈りがぎゅっと詰まってるのがいいね。

うん。“メリークリスマス&サバイブ・ザ・エンドタイムズ”みたいなテンションで、ボッティチェリの人生観がそのままキャンバスに乗ってる感じがして、何回見てもじんとくる。

レゴッホ
レゴッホ
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