旧約聖書の英雄サムソンが、愛人デリラに裏切られ、力を失い、敵に捕らえられる――
その運命の転落を描いたのが、レンブラントの《ペリシテ人に目を潰されるサムソン》です。
暴力が渦巻くその一瞬、力を封じられた男の叫びと、光に照らされた筋肉と絶望。
そして、何事もなかったかのように去っていく女の姿――
レンブラントはこの一枚で、人間の裏切りと運命、信仰と暴力の交差点を、圧倒的な迫力で描き出しました。
本記事では、このバロックの傑作が放つ緊張感と感情のドラマを、背景や構図とともにわかりやすく解説します。

「絵なのに目をそらしたくなるほどリアル…レンブラントの情念、半端ないってば…!
作品基本情報

タイトル:ペリシテ人に目を潰されるサムソン(De blindmaking van Simson)
制作年:1636年
サイズ:219.3 × 305 cm
技法:油彩/キャンバス
所蔵先:シュテーデル美術館(ドイツ・フランクフルト)

大きい絵!!
・サムソンが裏切られ、捕らえられる瞬間を描く。
・緊迫した動きと構図でドラマ性を強調。
・宗教画にしては感情表現が非常に生々しい。
背景と主題|旧約聖書の劇的な一幕

この作品は、旧約聖書「士師記」第16章に登場する英雄サムソンの失墜の場面を描いたものです。
サムソンは神に選ばれた戦士で、髪を切らない限り怪力を保つという力を授かっていました。
しかし、愛人デリラに裏切られて眠っている間に髪を切られ、力を失ってペリシテ人に捕らえられます。
その後、目を潰されて囚われの身となる――
本作はまさに、その瞬間の残酷な暴力と裏切りを克明に捉えたものです。

ひえぇ…絵なのに、音とか悲鳴まで聞こえてきそう…!
見どころ①|壮絶なアクションと緊迫感
レンブラントはこの作品で、バロック美術の動きと劇性を極限まで引き出しています。
見開かれた口、緊張した筋肉、鎧の反射――すべてが一瞬の悲劇のエネルギーを凝縮しています。
サムソンは画面右下でねじ伏せられ、手足を押さえられながら目を潰される寸前。

左手前では兵士がナイフを構え、中央の女性(デリラ)は彼の髪を握りながらこっそりと逃げようとしています。

見どころ②|光と構図の演出

この作品はレンブラント初期のキアロスクーロ(明暗法)が顕著に現れた作例です。
暗いテントの中で、光がまるでスポットライトのようにサムソンの肉体と顔に集中していることで、
見る者の視線を画面中央に誘導し、暴力と苦悶の場面に没入させます。
また、左右に斜めの線が多く用いられた構図は、緊張感と不安定さを強く印象づけています。
豆知識|デリラの描写に注目

この絵の中で密かに逃げ出そうとするデリラは、一般的な聖書絵画での“誘惑者”の姿とはやや異なり、
レンブラントは彼女をやや現実的で複雑な人物として描いています。
喜ぶでも、哀しむでもない、無表情なようで何かを語るような表情。
まるで“自分がしたことの意味”に気づきかけた瞬間のようにも見える。
このように、レンブラントは“裏切り者”にも単なる悪役ではない人間的な奥行きを与えています。
まとめ|レンブラントの“ドラマ”は動と感情の極み
《サムソンの目を潰すペリシテ人》は、レンブラントの初期バロック期の代表作であり、
劇的な瞬間を緻密な構図と感情の描写で定着させた傑作です。
神に選ばれた英雄の没落、愛する人に裏切られる悲劇、そして逃れられない運命――
レンブラントはこの一枚で、聖書の物語を超えた“人間ドラマ”を描き切っています。

サムソンには悪いけど、これが“絵”ってすごすぎる…。
痛みも、裏切りも、全部伝わってきちゃうよ…
【関連記事】
・レンブラントの生涯を解説|バロックを代表する光と影に生きた画家