天井がまるで“空”に変わったように見える──
そんな幻想的な体験を生み出すのが、
イタリア発の絵画技法「ディ・ソット・イン・スー(di sotto in sù)」です。
ルネサンスからバロックにかけて、教会や宮殿の天井に多用されたこの技法。
見上げると天井が抜け、神や天使が浮かぶ天上世界が広がっているように感じられます。
本記事では、ディ・ソット・イン・スーの意味や背景、代表的な作品、
そしてなぜ「天井が空になる」のかという仕組みまで、わかりやすく丁寧に解説します。
建築と絵画が融合し、現実を超えていく──
そんな美術の魔法、覗いてみたくありませんか?

技法を知っていると鑑賞の「質」が上がるよね!
ディ・ソット・イン・スーとは何か?
「ディ・ソット・イン・スー(di sotto in sù)」とは、イタリア語で「下から上へ」という意味を持つ絵画技法で、天井や高所に描かれるフレスコ画や装飾画において、下から見上げたときに奥行きと立体感を錯覚させる透視遠近法を指します。これは特に教会や宮殿の天井に用いられ、あたかも建物の天井が開き、その向こうに神や天使、空の世界が広がっているかのように見せるために使われました。
この技法は、単なる遠近法を超えて、鑑賞者自身を絵画空間の一部に巻き込むような臨場感を生み出す点が最大の特徴です。天井が“描かれた空”であることを忘れてしまうような、現実と幻想の境界を越えるような感覚をもたらします。

つまり“見上げたら空だった”をガチでやってのける技法ってことだね!
昔の人すごすぎ!
どうしてこの技法が生まれたのか?
ルネサンス以降、美術家たちは遠近法を用いて「空間をリアルに見せる」ことに力を注ぎました。特に教会建築では、ドームやアーチといった高所に描かれる絵画に、より劇的な空間演出が求められるようになります。
しかし、真上に描かれた絵を自然に見せるのは至難の技。水平の絵画とは異なり、見上げる視点を計算に入れないと、人物が短く歪んで見えてしまいます。そこで生まれたのが「ディ・ソット・イン・スー」。下から見たときだけ正しく見えるように計算された遠近法なのです。
この技法の登場によって、画家たちは天井という物理的制限を超え、空間を「天国」そのもののように演出できるようになりました。

てことは…天井に描かれた絵を描くには、“下から見たらどう見えるか”を想像して描かなきゃいけないってこと!?脳トレ美術だ…!
代表作品に見るディ・ソット・イン・スー
この技法が特に印象的に使われた作品のひとつが、コレッジョによる《聖母被昇天》(パルマ大聖堂)です。

ドームに描かれたこの天井画では、聖母マリアが無数の天使たちとともに昇天していく様子が、渦を巻くような構図と短縮法によって描かれ、天井がそのまま天へと開かれているような錯覚を与えます。
もう少し早い時期の例としては、アンドレア・マンテーニャの「夫婦の間」における天井画も挙げられます。

天井の丸い開口部(オクルス)に覗き込む人物や天使たちが描かれており、空を見上げる構図で現実と幻想をつなぐ試みがなされています。

うっかりしてると、マリアさんとか天使さんたちが本当に降ってきそうなんだよね…空間の魔法、炸裂してる!
見どころと魅力
ディ・ソット・イン・スーの最大の魅力は、視点の操作によって空間そのものが“変わってしまう”体験を作り出せることです。以下のような見どころに注目すると、この技法の面白さがぐっと深まります。
まずは大胆な短縮法。人物の体や建築の柱などが、下から見たときに自然に見えるよう計算されており、実際に絵を近くで見るとその歪みに驚かされます。これはまさに“立って見る人の目線”で描かれた絵なのです。
次に注目したいのは、絵と建築の一体化。天井画の枠を越えて、壁や柱の構造と連続するように描かれることで、視覚的なイリュージョンがより強まります。「天井が抜けている」と本気で錯覚するのは、この巧みな融合のたまものです。
そしてなにより、天上世界への没入感。神や天使の世界を、地上にいる私たちが“見上げて体感できる”という演出は、信仰の空間である教会において極めて効果的でした。ディ・ソット・イン・スーは、単なる装飾ではなく、精神的体験の一部として機能する視覚芸術なのです。

“視点”ってただの目線じゃなくて、体ごと絵に巻き込むツールなんだね!
これってVRよりすごいんじゃ…?
豆知識|ディ・ソット・イン・スーの“その後”
この技法は、バロック美術の発展に大きな影響を与え、「だまし絵(トロンプ・ルイユ)」や「イリュージョニズム天井画」として進化していきました。特に18世紀の教会建築では、天井が完全に“見えない空間”として描かれる例が増え、建築と絵画の境界はますます曖昧になっていきます。
現代でも、この視覚効果は応用されており、3Dストリートアートやプロジェクションマッピングなどで、同様の錯覚表現が用いられています。つまり、ディ・ソット・イン・スーは、ただの古典技法ではなく、今も生き続ける“空間を操る魔法”なのです。

道に描かれた穴ぼこアート、あれも進化系ってことか〜!
天井にも床にも、芸術って無限大ぬ!
まとめ|天井に仕掛けられた空間のトリック
ディ・ソット・イン・スーは、建築と美術、空間と信仰、そして鑑賞者の視点までも巻き込んで成立する、極めて高度な絵画技法です。見上げた先に現れる「もうひとつの世界」は、画家の想像力と構成力があってこそ描かれた奇跡。
今、あなたが教会や歴史的建築を訪れ、天井を見上げたとき、もし空が“本当に開いている”ように感じたら――それはきっと、コレッジョやマンテーニャたちの仕掛けた「ディ・ソット・イン・スー」が効いている証拠です。

首が疲れてもいい!この技法、見上げる価値ありすぎぬ〜!