1890年、サン=レミの療養院にいたフィンセント・ファン・ゴッホは、宗教画の古典を自分の絵肌でよみがえらせました。題材は新約聖書に登場するラザロの復活。もとになったのはレンブラントの作品ですが、ゴッホは主役を入れ替えるかのように、キリストを画面から外し、まばゆい太陽と荒々しい筆致で「生き直す瞬間」を前面に押し出しています。
静かな崇高さではなく、熱を帯びた呼吸のような線と色。視線が吸い込まれる金色の空は、南仏の光と個人的な祈りが重なる“内なる復活”の象徴に見えてきます。
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太陽が主役みたい。音が聞こえそうな絵だね
せやろ?光そのものが奇跡をやってのける、って構図や

《ラザロの復活(レンブラントによる)》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

制作年:1890年
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:50 × 65 cm 前後
現在地:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
参考モチーフ:レンブラントによる《ラザロの復活》をベースにした自由な再解釈

人物は三人に絞ってるのが大胆やな
お手本に縛られず、要るもんだけ残したんや

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ゴッホのサン=レミ時代の作品まとめ!療養院の窓辺から生まれた物語
サン=レミで高まった“古典の再解釈”
療養生活のなかで、ゴッホは宗教や版画のモティーフを続けて描きました。外出が限られる環境でも制作を止めないための工夫であり、同時に自分の心情を“古典の皮”で包む方法でもありました。本作はその最たる例です。レンブラントのドラマを写すのではなく、南仏の山稜と空の色を持ち込み、個人的な再生の寓話として更新しています。

舞台が聖書の土地じゃなくて、プロヴァンスっぽいのが効いてる
せや、現代と自分の場所に引き寄せてこそ“今の絵”になるんや

太陽=キリストという置き換え
画面上部の円い太陽は、ハロー(光輪)のような縁取りで強く輝きます。レンブラントが描いたキリストの位置づけを、ゴッホは天の光へと差し替えました。人物の眼差しと腕の動きはその光へ向かい、地表の黄と橙が渦を巻くように立ち上がります。復活を命じる声は描かれませんが、色彩そのものが命令のエネルギーを担っているように見えます。

声が聞こえないのに“立て!”って伝わるのがすごい
絵具がシャウトしてるんや。音量、筆圧マシマシでな

登場人物の配置と感情のベクトル
左の洞窟から身を起こすラザロ、中央で腕を掲げる女性、右で寄り添う女性。三者の対角線が画面を斜めに割り、視線は谷底から太陽へと引き上げられます。衣の緑や黄は互いに補色関係を成し、震える輪郭線が人物の内側から“体温”を発しているようです。レンブラントの重厚な陰影を、ゴッホは明度と筆触のリズムに置き換え、感情のベクトルを可視化しました。

線が生き物みたいにうねってる
生命線ってやつや。止まらんストロークで鼓動を描くんや

なぜキリストを描かなかったのか
画面から主導者を消す判断は、観る人の“わたし事”として物語に参加させるためとも読めます。奇跡を起こす主体が超越者ではなく、自然の光と共同体の呼びかけ、そして自ら起き上がる意志である――そんな現代的な解釈が可能になります。療養の不安や疲弊と向き合いながらも、ゴッホが「再び描く」こと自体を復活と重ねていた気配も濃厚です。

奇跡って、外から降ってくるもんだけじゃないんやね
せや。立ち上がる理由は、内と外の両方から集まるんや

筆致と色が語る“復活の温度”
厚塗りの黄は乾く途中で凹凸をつくり、斜光を受けると小さな炎の群れになります。緑は硫化カドミウム系の黄緑から深いビリジアンまで幅広く、陰影の代わりに温度差を与えています。背景の山のラベンダー色は、南仏の乾いた空気を運び込み、聖書の物語と現地の気候を接続します。

色だけで“熱い空気”が伝わるね
絵具の温度は現場の温度。そこは譲らんで

作品の位置づけ
宗教画の再解釈群のなかでも、本作は特に個人的な祈りが濃い一枚です。生涯の終わりに向かう時間帯にあって、彼は過去の巨匠に倣うだけでなく、南仏の光と自分の境遇を重ねて“いま”の意味を与えました。
レンブラントから受け取ったのは構図ではなく、人が再び立ち上がる力の描写法――その核心を、回転する筆致と眩しい空に置き換えたのだと思います。

古典に学ぶって、そっくり描くことじゃないんやな
うん。生きてる問題として描き直す。そこがゴッホ流や

おすすめ書籍
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まとめ
《ラザロの復活(レンブラントによる)》は、古典主題のカバーでありながら、徹底して“現在形”の絵です。キリスト不在の構図、太陽に託した救い、南仏の色。どれもが、画家自身の再生願望と観る者の「立ち上がる力」を呼び覚ます装置として働いています。
宗教画の枠を超え、「生の復権」を色と線で証言した、サン=レミ期の要所と言えるでしょう。

落ち込んだ日にまた見返したくなるね
ええやん。“また描き出す”勇気、ここに置いとくわ

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