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ティントレットの天井画《聖ロクスの栄光》をやさしく解説

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イタリア・ルネサンス
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ヴェネツィアのスコーラ(同信会館)の天井を見上げると、燃えるような赤い衣をまとった聖人が、ぐっとこちら側に迫ってくるような絵があります。
それがヤコポ・ティントレットの《聖ロクスの栄光》です。

画面いっぱいにせり出す人物と、渦を巻くような天使たち。
天の高みから身を乗り出す神。
1520〜30年代の静かなヴェネツィア絵画とはまるで違う、スピード感とドラマに満ちた世界が、楕円形の画面の中に押し込められています。

この作品は、疫病から人々を守る聖人ロクスをテーマにしたもので、ヴェネツィア市民にとって特別な意味をもつモティーフでした。
その重要なテーマを若いティントレットが大胆な構図で描き、後の大規模装飾への道を切りひらいたと考えられています。

ぬい
ぬい

いきなりクライマックスみたいな天井画だね。最初にこれ見たら目が覚めるわ。

だよな。ティントレット、最初からギア入れすぎなんよ。でもその攻め方が仕事を呼んだんだと思う。

レゴッホ
レゴッホ
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《聖ロクスの栄光》

まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品詳細

作者:ヤコポ・ティントレット(1518年頃〜1594年)

題名:《聖ロクスの栄光》

制作年:1560年代前半(一般に1564年頃と考えられます)

技法:油彩・キャンバス

形状:楕円形の天井画。縦およそ2メートル台、横3メートル台と推定される大画面

所蔵・設置場所:サン・ロッコ大同信会館(スコーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコ)一階「会議室」(ヴェネツィア)

ぬい
ぬい

ちゃんと天井専用サイズなんだね。これが頭上にあったら首が痛くなるやつ。

でもその“首が痛くなる距離”で見上げられる前提だから、この大胆な遠近が生きるんだよね。

レゴッホ
レゴッホ

<作者についての詳細はこちら>

ヤコポ・ティントレットを解説!大胆構図の代表作と生涯・人物像とは

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《聖ロクスの栄光》の主題と物語

聖ロクスは、疫病の流行した町を巡って患者を看護し、自らも病を患いながら人々を救った聖人です。
ヴェネツィアでは、とくにペストから街を守る守護聖人として厚く信仰されました。

ティントレットが描く場面は、そうした献身の生涯を終えた聖ロクスが、天の栄光へと迎え入れられる瞬間です。
画面中央で背を向けている赤い衣の人物が聖ロクスで、彼はまるで今まさに地上から引き上げられたかのように、身体を少し反らせながら上空の神へと手を差し伸べています。
周囲を取り囲むのは、彼を讃える天使たちと聖人たちで、観る側は「栄光の到来」を真下から見上げる立場に置かれます。

スコーラ・グランデ・ディ・サン・ロッコは、聖ロクスの遺骨を祀る教会に隣接した同信会組織で、慈善活動と礼拝を担う重要な団体でした。
そこに属する会員たちは、この天井画の下で集会をおこない、自分たちの守護聖人が天に迎えられる光景を、日常的に見上げていたことになります。

ぬい
ぬい

守護聖人が天に引き上げられてるのを職場の会議室で毎回見るって、なかなかすごい環境だね。

確かに。議題がこじれそうになったら、上見て『聖ロクス先輩、見てますよ』って気持ちになるやつ。

レゴッホ
レゴッホ
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天井画ならではのダイナミックな構図

《聖ロクスの栄光》の最大の特徴は、足元からぐっとせり上がるような遠近法です。
聖ロクスの体はやや短く歪んで見えますが、これは床から見上げると自然に見えるように計算された「透視遠近法」の効果だと考えられています。

画面下部には、斜めに配された人物たちが輪をつくり、その中央に聖ロクスの背中が置かれます。
視線はそこから一気に天へと跳ね上がり、上部に描かれた神の姿に到達します。
楕円形の縁に沿って人物が配置されているため、構図全体が渦を巻くように回転して見え、画面全体が巨大な「昇天の渦」に変わっています。

ティントレットはここで、当時のヴェネツィアではまだ珍しかった、劇的な対角線構図と強い短縮法を組み合わせています。
これによって、静かに並ぶだけの宗教画ではなく、観る者を巻き込み、天井そのものが一つの舞台になったかのような体験を生み出しています。

ぬい
ぬい

ロクスさん、完全にヒーローアングルで撮られてるよね。

そうそう。映画のクライマックスのローアングルそのまんま。ティントレット、カメラワークの感覚が現代的すぎる。

レゴッホ
レゴッホ
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光と色彩がつくる“神のスポットライト”

この作品では、光と影のコントラストが非常に強く、天からの光が聖ロクスの周囲だけを集中的に照らしています。
背景はやや暗く抑えられ、周囲の天使や聖人たちの顔は半分影に沈んでいますが、そのぶん中央の赤とオレンジが燃えるように浮かび上がります。

ティントレットは、師筋にあたるティツィアーノから学んだ豊かな色彩感覚を受け継ぎつつ、さらに大胆な筆致でそれを発展させました。
ロクスの赤い衣には厚く塗り重ねられた絵具が使われ、光が当たる部分と影になった部分の境界は、ほとんど「一気に塗り払った」ような勢いで処理されています。
これは後のバロック絵画を思わせる手法で、当時としてはかなり攻めた表現でした。

天上の神の周囲には、柔らかな雲と淡い光が描かれていますが、その光は画面全体を均一に照らすのではなく、ロクスとその足元に集中的に落ちています。
まるでスポットライトのようなこの光の演出が、「神の選び」と「栄光」を視覚的に伝えています。

ぬい
ぬい

照明設計まで完璧だね。ロクスさんだけちゃんと当たってる。

ライブ会場のセンタースポットみたいな感じだな。ティントレット、光で主役を決めるのがうまい。

レゴッホ
レゴッホ
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聖ロクスとヴェネツィアの信仰

聖ロクスは、ペストの患者を看病した後、自身も病に倒れたものの、奇跡的に回復したと伝えられています。
そのため、中世末からルネサンス期にかけて、ヨーロッパ各地で疫病よけの守護聖人として崇敬を集めました。

とくに水運で栄え、人口密度も高かったヴェネツィアでは、感染症の流行は常に現実的な脅威でした。
サン・ロッコ大同信会は、聖ロクスの名のもとに慈善活動を行い、病人や貧しい人々を支える組織でもありました。

その会館の天井に、聖ロクスの「栄光」の場面が描かれているということは、日々の祈りと実務を行う空間そのものが、聖人の庇護のもとにあることを、視覚的に示す役割も担っていたと考えられます。
疫病で家族や仲間を失った人たちにとって、この天井画は単なる装飾ではなく、「いつか報われる」という希望の象徴でもあったでしょう。

ぬい
ぬい

現実がキツいほど、こういう“上から見守ってくれてる”絵って効きそうだよね。

うん。天井にロクスがいてくれるなら、とりあえず今日もやるか、って気持ちになれそう。

レゴッホ
レゴッホ
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ティントレットのキャリアと《聖ロクスの栄光》

ティントレットは、若いころから「注文を取るためなら何でもやる」と言われるほど、積極的に売り込みをしていた画家でした。
同じヴェネツィア派の大御所ティツィアーノが比較的高額な注文を受けていたのに対し、ティントレットは低価格やスピード、そして大胆な構図で勝負しました。

サン・ロッコ大同信会との関係も、こうした“攻めの営業”から始まったと伝えられています。
実際、この《聖ロクスの栄光》を皮切りに、ティントレットは会館全体の装飾をほぼ一手に引き受けることになります。
二階や階段、教会側の壁画まで含めると、その仕事量は生涯の大きな柱の一つになりました。

《聖ロクスの栄光》は、そうした長期プロジェクトの「入口」として、委員たちに強烈な印象を与える必要があったはずです。
天井いっぱいに広がるドラマチックな構図、強い光と影、祈る人々を包み込むような楕円形の画面。
これらはすべて、「この画家に任せれば、スコーラ全体が一つの壮大な聖劇になる」と確信させるプレゼンテーションだったとも言えるでしょう。

ぬい
ぬい

営業用の一発目でこれ出されたら、『もうこの人に全部お願いしよ』ってなるわ。

だよね。ティントレット、プレゼン能力込みで天才。ポートフォリオがすでに天井画。

レゴッホ
レゴッホ
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おすすめ書籍

このサイトの参考にもさせて頂いている本を紹介します。

まとめ|天井に広がる“ヴェネツィアの祈りの渦”

ティントレット《聖ロクスの栄光》は、単なる聖人伝の一場面ではなく、ヴェネツィアの市民が抱え続けた不安と祈り、そして守護聖人への深い信頼が、天井いっぱいに可視化された作品だと言えます。

見上げる信徒の視点を前提にした大胆な遠近法。
光と影をぶつけ合うような色彩。
守護聖人ロクスが天へ迎えられる瞬間を、楕円形のフレームの中で渦のように巻き上げる構図。

それらはのちのバロック絵画を先取りしつつ、ヴェネツィア独自の色彩感覚と劇場性を兼ね備えています。
ティントレットのキャリアにおいても、この作品はサン・ロッコ会館という巨大な“キャンバス”を手に入れるきっかけとなった重要作でした。

ぬい
ぬい

まとめてみると、天井に描いた一枚の絵から、街全体の歴史とか不安とか希望まで見えてくる感じだね。

うん。だからこそ何百年たっても、人は首を痛くしながらこの天井を見上げ続けてるんだろうね。

レゴッホ
レゴッホ
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