1889年、フィンセント・ファン・ゴッホは南仏サン=レミの療養院で制作を続けました。
《療養院の庭》は、夕暮れどきの光が差す中庭の木立を、うねる筆致と強い輪郭線で捉えた作品です。
赤みを帯びた地面、黄から橙に転ぶ空、そして緑の樹冠が響き合い、静けさと緊張感が同時に立ちのぼります。
療養の只中でありながら、戸外に出て描くことで呼吸を取り戻していく画家のリズムが、画面の隅々に刻まれています。
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夕焼け、まじで空気まで熱い感じするな
だろ? 色がぶつかり合うと、音みたいに鳴るんだよ

《療養院の庭》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:療養院の庭(The Garden of the Asylum)
制作年:1889年11月
技法・素材:油彩/カンヴァス
制作地:サン=レミ=ド=プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

タイトル通り、中庭の“現場感”がすごい
うん、ここで見た夕方の色を、そのまま走らせたんだ

<同年代に描かれた作品まとめ>
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色彩とストローク――夕暮れが作る三和音
画面は三つの色域で組み立てられています。地面は赤土の温度を思わせるレンガ色、空は黄から橙へと傾くグラデーション、そして木々は深い緑から黄緑へと揺れる濃淡。互いに補色関係を含む配置により、光が沈む時間帯のわずかな変化まで可視化されています。葉の部分には短く刻むストローク、幹や枝には黒を含む輪郭線が用いられ、形とリズムを同時に固定。風が枝葉を撓らせ、影が地面を滑っていく気配まで、筆の方向で読める構成です。

木がザワザワ喋ってるみたい
風のセリフは線で書ける。だから線が多いのさ

中庭というモティーフ――閉ざされた場所で掴んだ広がり
サン=レミでの生活は制約が多いものでしたが、敷地内の庭へ出て描くことは許されていました。画面右端に見える建物の壁、手前のベンチ、植え込みの白い花列――どれも療養院の庭の具体的な造作に基づき、場所の手触りを保ったまま、広い空とねじれる木のリズムで“開けた世界”へとつなげています。身近な中庭を舞台にしつつ、視界の奥へ抜ける黄橙の空が、閉塞と解放の両方を一枚で鳴らす役割を果たしています。

建物がちょっとだけ見切れてるの、効いてるね
人の気配だけ残すと、庭が主役になるんだ

制作背景――不安と回復、その両方の鼓動
当時のゴッホは体調の波と向き合いながらも、戸外での制作に救いを見いだしていました。
夕方の低い光は、陰影を長く引き、色の差を強めます。作品でもその特性を利用し、地面の赤、樹の緑、空の黄橙がくっきりと分かれつつ、全体では脈打つように連結します。黒を含む大胆な輪郭線は、形を確かめるための手段であると同時に、感情の波形を画面に留めるフレームにもなっています。静かな庭でありながら、内部には確かな生命の鼓動が宿っています。

静かなのに荒ぶってる、矛盾がいい
矛盾こそ現実。だから絵もそうなる

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まとめ――夕映えの色で“生きている場所”を証言する
《療養院の庭》は、特定の時間と場所を、色の衝突と筆触のうねりで記録した作品です。
夕方の光のなかで庭が発する温度、風で揺らぐ木々の声、そして画家の鼓動――それらが一度に立ち上がり、見る人の呼吸に合わせて強弱を変えます。サン=レミの時間を閉じ込めたこの一枚は、ゴッホが自分の絵の言葉をさらに磨いた瞬間を伝えてくれます。

この庭、今もどこかで風が吹いてる気がする
絵の中の風は止まらないんだよ。ずっと吹き続ける

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