波立つ草地の上で、ねじれる幹が左右に揺れ、頭上の空までうねりが続きます。
ゴッホの《オリーブ畑》は、南仏サン=レミ療養所の周りに広がるオリーブ林を前に、風・光・時間の流れをそのまま絵具のリズムにした連作です。
黒で影を作らず、緑・青・黄・紫のぶつかり合いだけで“午後の熱”と“風の漂い”を立ち上げる——そんな試みの結晶がこの一枚です。
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《オリーブ畑》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

- 作品名:《オリーブ畑》
- 制作年・場所:1889年、サン=レミ=ド=プロヴァンス
- 技法:油彩・カンヴァス
- 点数:同主題を中心に約15点の連作(構図・サイズは複数タイプ)
- 代表的所蔵:MoMA(ニューヨーク)/ミネアポリス美術館/ワシントン・ナショナル・ギャラリー/ネルソン=アトキンス美術館/クレラー=ミュラー美術館 ほか
- 関連作:《オリーブを摘む人々》、ドラクロワを基にした《オリーブ園のキリスト》など

約15点の連作なんだ!
画像はそのうちの一作品だね。

オリーブ畑とは何か——サン=レミの“呼吸”を描く
アルルの騒動後、ゴッホはサン=レミの療養所で制作を続けました。畑やオリーブ林は徒歩圏内。日々の散歩で見た銀緑の葉や熱を含んだ空気に心を動かされ、時間帯や天候を替えて繰り返し描いています。
手紙では「オリーブは銀色がかって、空と一緒に震えている」と記し、宗教画に代わる現代の“自然の宗教画”としてこのモチーフを意識していました。ドラクロワの宗教主題に学びつつも、ゴッホは自然そのものに慰めを見いだす方向へ舵を切ります。

ゴッホはゴッホの道を行くわけだ。
そういうこと。

構図の見どころ——ねじれ・反復・地平の波

オリーブの幹はS字にねじれ、地面の草は短い反復タッチで波のように揺れます。
画面手前から中景へ、樹の間隔がリズムよく詰まったり開いたりし、視線が前後に小刻みに進む。
地平線はわずかにうねり、空の渦と呼応します。静物のように“止める”のではなく、風景の体感速度をそのまま構図にしています。

うねりが凄いね。
同時期に描かれた糸杉に通ずる部分があるよね。

色彩と筆致——黒を使わず、色で立体をつくる
葉の緑は、エメラルドから黄緑、鈍い銀緑まで幅を持たせ、紫や群青の影で締めます。
地面はオーカーと黄の層に、青や緑の短い斜線を差し込み、乾いた草のざらつきを出す。
空はターコイズからセルリアンへ流れ、渦を描く小さなストロークが風の向きを見せます。
全体に、輪郭を薄く黄や暗緑で縁取る“抱える線”(クロワゾネ風)を使い、形を硬く閉じずに揺らぎを保っています。

思っているよりもたくさんの色が使われているんだ。
それがゴッホ流さ

連作のなかでの位置づけ——時間帯と季節の実験室
《オリーブ畑》は、同じ場所を朝・午後・夕方で描き分けた“時間の絵”でもあります。
夕方のタイプでは黄が強く、葉が銅色に転び、地面に長い影が伸びます。
快晴のタイプは青が澄み、葉の銀緑が際立ち、風の速度が速く見える。
こうした光の条件の差が、同じモチーフに全く別の呼吸を与えています。
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まとめ——自然の前で、色が祈りになる
《オリーブ畑》は、宗教的主題を離れても**“救いの温度”を色で作り得る**ことを示したシリーズです。
ねじれる幹、揺れる草、渦を巻く空——それらは風景の写生であると同時に、心の波形でもあります。
見終えると胸の呼吸がゆっくり整う。その静かな効能こそ、サン=レミのゴッホがオリーブの木々に見た“祈り”だったのかもしれません。
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