1889年、南仏サン=レミの療養院に入院したフィンセント・ファン・ゴッホは、限られた空間の中で、心の嵐と静けさのあいだを描きはじめました。
《アイリス》《オリーブ畑》《糸杉》《塀で囲まれた麦畑の向こうの山並み》──そこに広がるのは、外の世界ではなく“内なる風景”です。
サン=レミ時代は、ゴッホの芸術がいちばん深く、そしていちばん静かに燃えていた時期。
筆跡は風を追い、色は心の鼓動を映し出します。
このページでは、これまで紹介してきたサン=レミ期の主要作品をまとめて振り返ります。
療養院の窓辺から見えた光、風、祈りのような絵筆の軌跡を、ひとつの物語としてたどってみましょう。
- 《花咲くアーモンドの木の枝》
- 《サン=レミのサン=ポール病院の廊下》
- 《オリーブ畑:オレンジの空》
- 《アルピーユの二本のポプラ》
- 《アイリス》
- 《療養院の庭》
- 《プラタナス並木の道路工事》
- 《糸杉》ドローイング
- 《糸杉と星の見える道》
- 《刈る人のいる麦畑》
- 《下草の風景》
- 《アザミの花》
- 《糸杉》
- 《オリーブ畑》
- 《オリーブ園》
- 《渓谷(レ・ペイルレ)》
- 《初歩き(ミレーによる)》
- 『夜(ミレーによる)』
- 《刑務所の中庭(ギュスターヴ・ドレによる)》
- 《ラザロの復活(レンブラントによる)》
- 星月夜
- 《羊毛を刈る人(ミレーによる)》
- 《麦を束ねる農婦(ミレーによる)》
- 《ピエタ(ドラクロワによる)》
- 《病室のフィンセントの画室の窓》
- 《悲しむ老人》
- 《木底の革靴》
- 《塀で囲まれた麦畑の向こうの山並み》
- 《アルピーユ山脈の眺め》
- おすすめ書籍
- まとめ
《花咲くアーモンドの木の枝》

作品名:花咲くアーモンドの木の枝
制作:1890年2月
場所:サン=レミ(サン=ポール・ド・モーゾール病院滞在中)
技法:油彩/カンヴァス
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

所蔵がゴッホ美術館ってだけで“家の宝物”感あるね
実際、家族のために描いた絵が今は美術館のアイコンになってるんよ

《サン=レミのサン=ポール病院の廊下》

作家:フィンセント・ファン・ゴッホ
作品名:《サン=レミのサン=ポール病院の廊下》
制作:1889年9月、サン=レミ=ド=プロヴァンス(サン=ポール・ド・モゾール療養院)
技法:油彩・紙(のちキャンヴァスに裏打ち)
所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

タイトルの“畝”って、まさに画面の主役だね。
そう、乾くのも早いし動線が残る。即興の呼吸が画面に宿るのさ

《オリーブ畑:オレンジの空》

タイトル:《オリーブ畑:オレンジの空》
制作:1889年11月
技法:油彩/カンヴァス
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院)
モティーフ:オリーブ畑、黄〜橙の夕空、低い地平線と起伏する赤土

地面の方がオレンジじゃない?
確かに(笑)

《アルピーユの二本のポプラ》

タイトル:《アルピーユの二本のポプラ》
制作:1889年(秋)
場所:サン=レミ・ド・プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院近郊)
技法・素材:油彩/カンヴァス
所蔵:クリーブランド美術館
モチーフ:アルピーユ山脈を背に、風に鳴る二本のポプラと曲折する丘道

“アルル”って思ってたけど、サン=レミなんだ
細かいとこも大事や。場所がわかると絵の風の匂いまで伝わるで

《アイリス》

作品名:アイリス(Irises)
制作:1889年5月ごろ|サン=レミ=ド=プロヴァンス(療養所の庭)
技法・サイズ:油彩・カンヴァス/約 71×93cm
所蔵:J・ポール・ゲティ美術館(ロサンゼルス)
位置づけ:サン=レミ到着直後の“庭の観察”シリーズ。屋外での連作には《アイリス》《薔薇》《糸杉》などが並びます。

“ゲティのアイリス”で覚えると迷わないよ。
うん、横長・群青・白一輪、の三点セットね。

《療養院の庭》

作品名:療養院の庭(The Garden of the Asylum)
制作年:1889年11月
技法・素材:油彩/カンヴァス
制作地:サン=レミ=ド=プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

タイトル通り、中庭の“現場感”がすごい
うん、ここで見た夕方の色を、そのまま走らせたんだ

《プラタナス並木の道路工事》

タイトル:プラタナス並木の道路工事
制作年:1889年(アルル)
技法・材質:油彩/カンヴァス
サイズ:およそ 73×92cm 前後(版本により若干差あり)
現在地:クリーブランド美術館 所蔵

“道路工事”ってタイトル、めっちゃ生活感あるな
名付けがシンプルやと、絵のリズムが余計に際立つんや。

《糸杉》ドローイング

作品名:糸杉
制作年:1889年
技法・素材:ペン/リードペン、茶色インク、グラファイト(鉛筆)、紙
サイズ:紙作品(可搬サイズ、詳細未公表の出典も多い)
所蔵:シカゴ美術館
備考:南仏サン=レミ滞在期の連作ドローイングの一つ

油彩じゃないんや
せやで。インクや鉛筆やから、タッチの勢いがまんま残るんや

《糸杉と星の見える道》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

- 作品名:《糸杉と星の見える道》
- 制作年・場所:1890年、サン=レミ=ド=プロヴァンス
- 技法:油彩/カンヴァス
- 主題:糸杉・月・星・麦畑・曲がる道・歩く二人と馬車
- 所蔵:クレラー=ミュラー美術館(オッテルロー) ※展示替えあり

ゴッホって感じ!
星月夜に似てるよね。

《刈る人のいる麦畑》

タイトル:刈る人のいる麦畑
制作時期:1889年9月
制作地:南仏サン=レミ=ド=プロヴァンス(サン=ポール療養院)
技法・素材:油彩/カンヴァス
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

黄色い
そう。療養院の窓から見た景色なんや。

《下草の風景》

作品名:下草の風景
制作:1889年7月
場所:サン=レミ・ド・プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院の庭)
技法:油彩/カンヴァス
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

病院の庭でここまで濃密に描くの、執念だね
毎日通って、同じ場所でも光の配分が違うから、何度でも描けたんだ

《アザミの花》

作品名:アザミの花
制作時期:1890年6月中旬(16日または17日頃とされる)
制作地:オーヴェル=シュル=オワーズ(サン=レミ期の直後。※本作はオーヴェル期の作として広く知られます)
技法・素材:油彩/カンヴァス
所蔵:ポーラ美術館(POLA Museum of Art, Hakone)

日付まで絞れるの、すご
制作ラッシュの頃やから、日記みたいに筆が早いんよ」

《糸杉》

タイトル:糸杉(Cypresses)
制作年:1889年(初夏ごろ)
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス(サン=ポール・ド・モーゾール療養院周辺)
技法・材質:油彩/カンヴァス
所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

都会の美術館にあるの?
ニューヨークや。実物の厚塗り、目ぇ覚めるで

《オリーブ畑》

- 作品名:《オリーブ畑》
- 制作年・場所:1889年、サン=レミ=ド=プロヴァンス
- 技法:油彩・カンヴァス
- 点数:同主題を中心に約15点の連作(構図・サイズは複数タイプ)
- 代表的所蔵:クレラー=ミュラー美術館 ほか
- 関連作:《オリーブを摘む人々》、ドラクロワを基にした《オリーブ園のキリスト》など

約15点の連作なんだ!
画像はそのうちの一作品だね。

《オリーブ園》

作品名:オリーブ園(Olive Grove)
制作年・場所:1889年9月、サン=レミ=ド=プロヴァンス
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:およそ45.3×59.1cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
系列:1889年に集中的に取り組んだ「オリーブ」連作の一作

連作の中の一枚って聞くと、他のも見比べたくなるな
色の実験場やから、一本一本“音色”が違うねん

《渓谷(レ・ペイルレ)》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作品名:渓谷(レ・ペイルレ)
制作年・場所:1889年、サン=レミ・ド・プロヴァンス
技法・材質:油彩/カンヴァス
サイズ:約73.2×93.3cm
現在地:クレラーミュラー美術館(オランダ・オッテルロー)

サイズもしっかり大画面やな
筆のうねりを走らせるには、このくらいがちょうどええねん

《初歩き(ミレーによる)》

作家:フィンセント・ファン・ゴッホ
題名:初歩き(ミレーによる)
制作:1890年、サン=レミ
技法:油彩・カンヴァス
サイズ:約72.4 × 91.2 cm
所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

題名に“ミレーによる”って入ってるのが正直で好き
オマージュを隠さない。そこにゴッホの誠実さが出てるよな

『夜(ミレーによる)』

作品名:夜(ミレーによる)
制作年:1889年10–11月
制作地:サン=レミ(プロヴァンス)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:74.2 × 93.0 cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム、Vincent van Gogh Foundation)

大きめのキャンバスなのも納得だわ
室内の空気ごと描くには、これくらいのスケールが要るんよ

《刑務所の中庭(ギュスターヴ・ドレによる)》

作品名:刑務所の中庭(ドレによる)
制作年/場所:1890年、サン=レミ
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:約80×64cm前後
参照元:ギュスターヴ・ドレの版画を下敷きにした油彩の再解釈
所蔵:プーシキン美術館(モスクワ)

データで見ると淡々としてるけど、内容はエグいほど濃いな
数字は入口や。ここから“色とリズム”の物語に潜っていこうぜ

《ラザロの復活(レンブラントによる)》

制作年:1890年
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:50 × 65 cm 前後
現在地:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
参考モチーフ:レンブラントによる《ラザロの復活》をベースにした自由な再解釈

人物は三人に絞ってるのが大胆やな
お手本に縛られず、要るもんだけ残したんや

星月夜

制作年:1889年
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:73.7cm× 92.1 cm 前後
現在地:ニューヨーク近代美術館(アメリカ)

ぬいは『星月夜』が一番好き
人気あるよな

《羊毛を刈る人(ミレーによる)》

作品名:羊毛を刈る人(ミレーによる)
制作年・場所:1889年9月、サン=レミ=ド=プロヴァンス
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:43.6 × 29.5 cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

サイズは小ぶりだけど密度が高いな。
小さくても、手の動きや空気はぎゅっと詰め込んでるんだ。

《麦を束ねる農婦(ミレーによる)》

タイトル:麦を束ねる農婦(ミレーによる)
制作年・場所:1889年9月、サン=レミ
技法・素材:油彩、厚紙に貼られたカンヴァス
サイズ:43.2 × 33.2cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

サイズは小ぶりなんだ
小さくても熱量はデカいで

《ピエタ(ドラクロワによる)》

- 作品名:《ピエタ(ドラクロワによる)》
- 制作年・場所:1889年、サン=レミ=ド=プロヴァンス
- 参照元:ドラクロワ《ピエタ》の白黒リトグラフ(油彩原作のモノクロ複製)
- 形式:油彩・カンヴァス(縦画面)
- ヴァージョン:油彩が2点(ヴァチカン美術館/ファン・ゴッホ美術館 所蔵)
- テーマ:聖母が十字架降下後のキリストを抱く伝統主題「ピエタ」の再解釈

宗教画なんだね。
うん。ゴッホにしては珍しいかも。

《病室のフィンセントの画室の窓》

制作年:1889年
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス(サン=ポール=ド=モーゾール療養院)
技法:紙に混合技法(チョーク/水彩/油彩などが併用された作品)
サイズ:約62×47.6cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム、ヴィンセント・ファン・ゴッホ財団)

道具いろいろ使ってるんや。紙の上でも筆がよう走っとる
素材ミックスやけど、狙いは一つ。窓ぎわの“光の設計図”やで

《悲しむ老人》

作品名:悲しむ老人(永遠の入口)
制作年:1890年
制作地:サン=レミ(サン=ポール療養院)
技法・材質:油彩/カンヴァス
サイズ:約81×65cm
所蔵:クレラーミュラー美術館(オッテルロー)
由来モチーフ:1882年の素描「頭を抱えた老人(Worn Out)」などの再解釈

元ネタを長く抱えて、ここで一気に燃やした感じ
うん、構図は同じでも“温度”が別物だよね

《木底の革靴》

タイトル:木底の革靴
制作年:1889年(サン=レミ)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:約32.2×40.5cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

サイズ感、意外と小ぶりだね
だから筆致がぎゅっと濃縮されて見えるんだ

《塀で囲まれた麦畑の向こうの山並み》

題名:塀で囲まれた麦畑の向こうの山並み
制作年:1890年2月
制作地:サン=レミ・ド・プロヴァンス
技法・素材:黒チョーク/紙
サイズ:31.2 × 23.8 cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)

メディウムが油じゃないの新鮮
紙とチョーク、現地のスピード勝負ってやつさ

《アルピーユ山脈の眺め》

題名:アルピーユ山脈の眺め
制作年:1890年(サン=レミ)
技法:油彩/カンヴァス(小品)
主題:塀で区切られた畑と果樹、奥に横たわるアルピーユ山脈、広い空
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)所蔵作として知られます

小品って聞くと机サイズを想像しちゃう
そのぶん密度が上がる。小さいからこそ、山の“うねり”も一筆一筆が効くんだ

おすすめ書籍
「ゴッホについて本で学びたいけど、どんな本が自分に合っているのかわからない」そんなお悩みを持つあなたへ贈る、ゴッホ入門編の本をご紹介します!Top5は別記事で紹介しています。
【関連記事】
・ゴッホの本ランキング!初心者におすすめのわかりやすい5選!
まとめ
サン=レミ時代のゴッホは、療養院という制約のなかで、同じ窓辺・同じ庭・同じ山並みを繰り返し見つめました。視界は狭まっても、観察は研ぎ澄まされ、線はうねり、色は呼吸をはじめます。オリーブ畑や糸杉、アルピーユの稜線は、その日の風と光を帯びた “現在形” の風景として更新され続けました。
この時期の作品群には、伝統への応答が確かに息づいています。ミレーやレンブラント、ドレの主題は、単なる引用にとどまらず、サン=レミの空気とゴッホ自身の祈りによって再解釈されました。白黒の版画は色彩の交響へ、素描の線は油彩の調べへと変わり、静けさと熱が同居する画面が成立します。
そしてサン=レミは、回復へ向かう歩みの記録でもあります。塀の向こうに広がる畑や、病室の窓から差し込む光は、外界とつながる“細い管”のように、画家の生を支えました。絵の前に立つと、当時の風がまだ画面を通り抜けるのを感じます。ここにあるのは、限界の中で発見された自由――それがサン=レミ時代の核です。
【他の時代の作品を知りたい方向け】
・ゴッホのオランダ期の作品まとめ!ヌエネン・ハーグ・エッテンの名画
・ゴッホのパリ時代の作品まとめ!浮世絵への憧れと色彩の変化に迫る
・ゴッホのアルル時代の作品まとめ!色彩が目覚めた南仏の2年間
【生涯を知りたい方はこちらがおすすめ】
・ゴッホの人生を年表で徹底解説!作品と出来事からたどる波乱の生涯
・【ゴッホの人生ガイド】エッテン・ハーグ・ドレンテを経てヌエネンへ
・【ゴッホの人生】パリ時代完全解説!印象派との出会いと色彩革命
・ゴッホのオーヴェル時代を完全解説!最期の70日と死の真相に迫る
・ゴッホの人生を年表で徹底解説!作品と出来事からたどる波乱の生涯