アルルに着いたフィンセント・ファン・ゴッホが、最初の高揚のままに描いた一連の都市風景の一つが《アルル駅近くのプラタナス通り》です。
乾いた空気を透かす淡い青、幹を伝う黄金色の光、そして線路沿いに伸びる並木のリズム。画面のすみずみまで、南仏に到着したばかりの画家の胸の鼓動が刻まれているように感じられます。
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潮の匂い、絵から飛んでくるね
だろ? 風まで筆致で描き込みたかったんだ

《アルル駅近くのプラタナス通り》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

作者:フィンセント・ファン・ゴッホ
作品名:アルル駅近くのプラタナス通り
制作年:1888年3月
制作地:フランス、アルル
技法:油彩/カンヴァス
所蔵:ロダン美術館

タイトル長いけど、場所感が一気に出るね。
うん、見たままを名札みたいに残しておきたいんだよ。

絵が捉えるアルルの春と、駅前のテンポ
画面手前から奥へ斜めに走る並木は、幹と影の交互運動でテンポを生み、視線を自然に画面奥の駅の入口へ導きます。塀や列車の濃い群青は、地中海の空気を吸い込んだ淡い空のトーンを引き締め、春の光の軽やかさと都市の鼓動を同時に伝えています。
アルルの風景でも「街と自然の境目」を選んでいるのが特徴で、ゴッホは到着直後からこの境界に魅了され、度々モチーフにしています。

自然と街が半分ずつって、ゴッホらしい選び方だよね。
境目がいちばん風が通るんだ。絵もね。

プラタナスと影のストライプ――筆触と色彩
幹には黄土と白が置き分けられ、ところどころに薄い青緑が差し込まれます。草地は短いタッチを積み重ねてストライプ状の影を表し、足元の温度まで想像させる肌理(きめ)を作っています。空は塗り残しを生かし、明るい地(キャンヴァスの下色)と交わることで、陽射しが揺れるような効果を生んでいます。
補色関係にある黄と青の往復は強いコントラストをつくりますが、どこか柔らかい。南仏の乾いた光が、色の輪郭を硬くしすぎないように働いているからです。

影が縞みたいに走ってて、風向きまで見える。
筆が風の速度に追いつくと、影は音楽みたいになるんだ。

ジャポニスムの風と「南のアトリエ」の夢
アルルに来てからのゴッホは、澄んだ空気とくっきりした輪郭に、浮世絵の明快さを重ね合わせていました。平面的な帯のように区切られた塀や、枝の大胆な省略、上から見下ろすような視線の取り方には、その嗜好がにじみます。
同時期、彼はパリの仲間を呼び寄せ「南のアトリエ」を作る構想を膨らませていました。空の高さと色の明度、そして働く場所としての町――アルルの条件が、共同制作の夢に現実味を与えていたのです(当時の記述でも、明るい空気と輪郭のくっきりした景観が自分の探していたものに近いと語られています)。

並木の間隔まで“版画の間”っぽい。
うん、みんなでここで描けたら最高って本気で思ってた。

制作背景――到着直後の街歩きスケッチから
1888年3月、ゴッホはアルルの宿を拠点に、駅周辺やローヌ河岸を歩き回って小さなスケッチを重ねました。飲食店に寝起きしながらも制作に没頭し、日中は外景、夜は構想や書簡というリズムで生活しています。
この作品からは、移動者のまなざし――すなわち、初めての街の空気を一気に吸い込む視点――が伝わります。人工の塀と自然の幹、規則と自由。相反するものを一枚の画面で響かせることが、到着直後の彼の関心でした。

旅の最初の一枚って、やっぱり呼吸が深い。
そう、胸いっぱいの最初の空気を、そのまま絵肌に置いたんだ。

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まとめ――駅という「出発点」を描く意味
《アルル駅近くのプラタナス通り》は、名所図ではありません。けれども、ここにはゴッホの南仏での“出発点”が刻まれています。線路が遠くへ続くように、彼の制作もまたここから加速していきました。
画面に満ちる淡い青と黄金色の幹は、春の短い時間の輝きと、未来へ踏み出す意思を同時に照らしています。

次にどこへ行くのって、絵が聞いてくる。
答えは簡単。“もっと光のほうへ”だよ。

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