1890年、サン=レミの療養所を出たフィンセント・ファン・ゴッホは、パリ北西の村オーヴェール=シュル=オワーズに移り住みます。
わずか2か月あまり――しかしこの短い最晩年の時期に、彼は「人」と「土地」を凝縮した名品を連続して生みました。ガシェ医師の娘マルグリットを描いた室内と庭、宿屋の娘アドリーヌ・ラヴーの鮮烈な横顔、林に差す光の帯を追った《ポプラ林の中の二人》、刈り取りの季節を静かに刻む《麦束のある風景》や《麦の穂》、村外れの斜面に寄り添う《農家》――。
このページでは、当ブログで取り上げてきたオーヴェール期の主要作を一気に振り返り、モチーフ・色・筆触から「最晩年の視線」がどのように結晶化したのかを整理します。検索から来た方も、通読の方も、ゴッホの最後の夏を最短でつかめるガイドとしてご活用ください。
《オーヴェルの教会》

- 作品名:《オーヴェルの教会》
- 制作年・場所:1890年6月頃、オーヴェル=シュル=オワーズ
- 技法・支持体:油彩/カンヴァス
- サイズ:約94×74cm
- 所蔵:オルセー美術館(パリ)
- 関連:同地での風景・麦畑連作と並ぶオーヴェル期の中心作
サイズが分かると“目の前に立ったとき”の迫力が想像しやすい!
オルセー所蔵だから、パリ旅行のルートに組みやすいのもポイントだね。
《ガシェ医師の肖像》

- 作品名:《ガシェ医師の肖像》/仏題 Portrait du docteur Gachet
- 制作年・場所:1890年、オーヴェル=シュル=オワーズ
- 技法:油彩・カンヴァス
- 主題:医師ポール・ガシェ(手前の植物はジギタリス=キツネノテブクロ)
- 備考:同構図のヴァージョンが2点存在(色調・タッチが異なる)
薬草が置かれてるの、ただの飾りじゃないんだね。
うん、ジギタリスは当時の心臓薬。
医師としてのアイデンティティを示す“記号”だよ。
《アデリーヌの肖像》

タイトル:アデリーヌの肖像(Portrait of Adeline Ravoux)
制作年/場所:1890年6月頃、オーヴェール=シュル=オワーズ
技法/素材:油彩・カンヴァス
所蔵:クリーブランド美術館(Cleveland Museum of Art)
モデル:宿屋〈ラヴー亭(Ravoux Inn)〉の長女アデリーヌ・ラヴー、当時およそ13歳
モデルは宿屋の娘さんか。距離感が近いからこその表情だね
毎日顔を合わせる相手だから、一気に描けたはず
《ピアノを弾くマルグリッド・ガシェ》

作品名:ピアノを弾くマルグリッド・ガシェ
制作年/場所:1890年、オーヴェール=シュル=オワーズ
技法・素材:油彩/カンヴァス
サイズ:約102.6×50cm(縦長)
所蔵:バーゼル市立美術館(スイス)
縦に長いのが効いてる。鍵盤から背筋までスッと伸びるね
縦長フォーマットは音の“高さ”も感じさせる。低音から高音へ上がっていくみたいだ
《庭に立つガシェ嬢》

作品名:庭に立つガシェ嬢(Marguerite Gachet in the Garden)
制作年:1890年(オーヴェール=シュル=オワーズ)
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:約46×55.5cm
モデル:マルグリット・ガシェ(医師ガシェの娘)
所蔵:オルセー美術館(パリ)
モデルはお医者さんの娘さんなんだよね?
うん。オーヴェール期の重要モチーフ。だから事実関係はここで押さえとこ
《ドービニーの庭》

- 作品名:《ドービニーの庭》/Le Jardin de Daubigny
- 制作:1890年、オーヴェル=シュル=オワーズ
- 技法:油彩・カンヴァス
- 主題:画家ドービニー邸の庭(ベンチ、テーブル、花壇、黒猫、奥に家屋と生け垣)
- 備考:複数ヴァージョンが存在(構図やサイズ・色調に差)。代表的所蔵はファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)/ひろしま美術館 /バーゼル市立美術館ほか
複数バージョンって、同じ庭を何度も描いたってこと?
そう。構図の取り方や緑の調子を変えて、完成度を高めていったと考えられているよ。
《カラスのいる麦畑》

- 作品名:《カラスのいる麦畑》/Wheatfield with Crows
- 制作:1890年7月ごろ、オーヴェル=シュル=オワーズ
- 技法:油彩・カンヴァス
- サイズ:約50×103cm(横長のパノラマ)
- 所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
- 備考:同時期に《雷雲の下の麦畑》など“麦畑連作”を多数制作
横長パノラマなんだ。実物は視界が一気に持っていかれそう!
幅広の画面は“風景の速度”を乗せやすい。
ここでは筆致が横へ走って、その効果が最大化しているよ。
《木の根》

- 作品名:《木の根》
- 制作年・場所:1890年7月頃、オーヴェル=シュル=オワーズ
- 技法・支持体:油彩・カンヴァス
- サイズ:約50×100cm(横長)
- 所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
- 備考:2020年、実在の場所が特定されたとする研究が発表(オーヴェルの斜面の根群)。最終作かどうかは断定不可だが最晩年作であることは確実
横長なんだ。だから根の“帯”みたいな広がりになるんだね。
うん、パノラマにすることで“地表を這う力”が強調されてる。
《ポプラ林の中の二人》

作品名:ポプラ林の中の二人
制作年:1890年
制作地:オーヴェール=シュル=オワーズ
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:約49.5×99.7cm
所蔵:シンシナティ美術館(アメリカ・シンシナティ)
横に長い比率が、散歩の視界そのまんまって感じ
そうそう。歩幅で見る景色を、そのまま画面に伸ばしてるんだ
《麦束のある風景》

タイトル:麦束のある風景
制作年:1890年
制作地:オーヴェール=シュル=オワーズ
技法/支持体:油彩/カンヴァス
サイズ:縦約50.5 × 横約101 cm(横長のパノラマ・フォーマット)
所蔵:ダラス美術館(アメリカ・ダラス)
横に長いの、視界がスーッと抜ける。
畑のリズムをそのまま横長で掴みにいってる感じ、いいよね。
《アドリーヌ・ラヴーの肖像》

タイトル:アドリーヌ・ラヴーの肖像
制作年:1890年(オーヴェール=シュル=オワーズ)
技法・素材:油彩/カンヴァス
モデル:宿屋ラヴー亭の長女アドリーヌ(当時13歳)
備考:色調や背景の異なるヴァリアントが数点知られています
基本押さえた、ここから深掘りいこ
うん、青の設計図を読み解こうぜ
《農家》

作者:フィンセント・ファン・ゴッホ
タイトル:農家 / Farmhouse
制作年・場所:1890年5–6月、オーヴェール=シュル=オワーズ
技法:油彩・カンヴァス
サイズ:38.9 × 46.4 cm
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
到着してすぐこの密度、制作エンジン全開だわ
うん。新しい土地の呼吸を、最初に建物で測るのが好きなんだ
《麦の穂》
まずは簡単に作品の情報を紹介します。

制作年:1890年6月
制作地:フランス、オーヴェール=シュル=オワーズ
技法:油彩/カンヴァス
サイズ:64.0 × 48.0 cm(縦長)
所蔵:ファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)
縦長にしてるのが効いてる。茎がすっと立つ
うん、画面を背丈に合わせると、麦が呼吸するリズムが出やすい
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まとめ(最晩年の“静かな緊張”を拾い集める)
オーヴェール期のゴッホは、劇的な対比よりも「近さ」と「密度」で世界を捉えています。人物では、マルグリットやアドリーヌの横顔に余白を与え、内面の温度を色面の響きで示しました。風景では、視点を下げて麦の高さに寄り、あるいは樹間のリズムを水平に伸ばし、土地の呼吸を筆触の反復で可視化しています。どの作品にも共通するのは、色を張り上げすぎない静かな緊張と、形をほどきながら要点だけを残す大胆さです。
サン=レミの激しさを経た後に到達したのは、叫ぶ絵ではなく、よく聴けば深く響く絵。オーヴェール=シュル=オワーズは、ゴッホが“最後の表現の静けさ”を手に入れた場所でした。ここに並ぶ作品群を通して、その静けさがどれほど強靭で、どれほど人間的であったかを確かめていただければ幸いです。
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